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進化の渦の中で  作者: 宮沢弘
第四部:エピローグ
35/37

99年め

(*** 99年め ***)


 L4。そこにある船団の中の一隻に、今、私はいる。


  ****


 子供の頃、L5がぼんやりと明るかった記憶がある。

 いつの頃からか、L4にもかすかな光が見えるようになった。今ではL5の光は見えなくなり、L4が以前のL5にも増して明るく見えていた。

 月に設置したマス・ドライバーがL5に資源を送り出していた。それらの資源は簡易的なパッケージングがなされ、L5で静止する程度の機能は持っていたらしい。L5で組み立てつつ、一定の機能を備えた船は—いや、その時点では船とは呼べないだろうが—、月を間に置いたL4へと移動していた。


  ****


 乗船証が送られてきた時に、少し調べてみたことがある。月のマス・ドライバーはいつ作られたのか。だが、その記録は何もなかった。少なくともわかる範囲には。


  ****


 軌道エレベーターの末端、アンカーからの乗り換えに使った小型船も、この船と同等の機能を持っているらしい。体積が違うだけということだ。アンカーが月軌道までの1/4を維持しているとはいえ、アンカーと船団を何回も往復するのだから、相応の機能は持っているのだろう。そして、小型船もこの船団の一部だという。船は全て地球を離れてしまう。


  ****


「地球はもう駄目だ!」

 子供の頃から、何回も叫んだ。だが、返ってくる答えはいつも同じだった。

「人類は楽園に戻った」


  ****


 この船団に乗員が何人いるのかは知らない。人間だけではなく、ロボット、知性化された動物たちもいる。だが、具体的に何人乗っているのか、どういう出自の者が乗っているのかなどどうでもいい。千年の知己たちのように感じる。ここが故郷だ。


  ****


 空間のところどころに映像が現れる。

「乗船してくれてありがとう、古い友人たち」

 少しばかり人間離れした顔が、そう言う。

「君たちは火星に向かう」

 遠い。それはわかっている。だが、遠くへ…

「しかし、火星は君たちの目的地ではない」

 そう、もっと遠くへ…

「火星は空港、駅、あるいはバス停のようなものだ。もちろん、残る者もいるだろう。だが、それは君たちの世代での話だ。後の世代は、また各々が判断することになる」

 その時、警告音が響いた。

「すまない。地上からロックされたようだ。急いでドライブを行なう」


  ****


 映像の顔が入れ替わる。

「何年も目の前にあったのに、今になってとはね」

 現れたのは人間らしい顔立ちだ。

「さて、この船団には君たち以外にも様々な動植物などなどが乗船している。彼らにとっては若干不自由だろうが、少し我慢してもらっている」

 ふいにその顔が横を向く。

「ああ。わかった」

 誰かと話しているのだろうか。

「その他にも、体を持たない人工知能たち、そして電子化人格たちが乗船している。そこで君たちに気をつけて欲しいことがある。君たちが何かを諦めた時には、私たちが君たちに対して優勢になる。君たちには寿命があり、私たちには理屈としては寿命がないからだ。そして君たちが望むなら、君たちをアセンドできる。単純な話だ」

 そう、それは単純な話だ。

「さて、気づいた者もいるかもしれないが、先ほどドライブが完了した」

 何も感じなかった。そんな技術があったことも知らなかった。

「これから着陸する。アテンション・プリーズってやつだ」

 映像の顔は笑うが、どういう意味だろう?

「さて、最初に話していたのはチャーリーだ。私はサイモン。彼は知性化の検証システムとして生まれた。まぁ彼が体を持ったことは一度もないようだが」

 知性化されたのだと思われる者たちが少しざわつく。

「そして私はデザインドのプロトタイプとして生まれた。体を持ってね。その後、チャーリーのお陰でアセンドされた」

 ところどころで声や息が漏れる。デザインドたちなのかもしれない。あるいはかかわった者たちか。

「だから、私たちは知性化された君たちにも、デザインドの君たちにも申し訳ないと思っている。乗船している君たちが少ないのは、私たちの力が及ばなかったからだ。君たちは、壮年か、イレギュラーか、イリーガルかだろう」

 隣にいた人が私に呟く。

「あのチャーリーとサイモンだそうだ」

「『あの』というと?」

「歴史のだよ。あのチャーリーとサイモンだ」

 あのチャーリーとサイモン? 聞いたことはある。

「消えてから30年くらい経っているんじゃないか?」

「そう、そのチャーリーとサイモンだ」

 サイモンが言葉を続ける。

「あー、何かざわついているようだが。済まないがもう少し聞いて欲しい」

 次第にざわつきが収まる。

「そういう訳で、チャーリーと私は休眠に入る。火星のドーム内のことについては、ドキュメントシステムを作ってあるから、彼で調べて欲しい。彼で手に負えない場合には、チャーリーか私のサブシステムが起動する。それで何とかなると思う」

 あちこちでまた小さな声が挙がる。当たり前だ。チャーリーとサイモンに会えたのに休眠だって?

「うん、まぁなんだ。疲れたので少し休憩したいんだ。まぁ、実際に疲れたわけじゃないが。チャーリーと話し合ったんだ。私たちは、君たちの守護者じゃない。ただそれだけのことだ」

 サイモンがまた少し横を向く。

「ドックに到着したようだ。じゃぁ、さようなら」

 映像にはただこう映った。


|$sysstats -p chr -p sim

|チャーリー: 休眠

|サイモン: 休眠

|** *DON’T DISTURB* AND *DON’T PANIC!* **


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