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進化の渦の中で  作者: 宮沢弘
第四部:エピローグ
34/37

93年め

(*** 93年め ***)


ヒト――ホモ・サピエンスではない。ヒトだ――たちが、様々なあり方から話し合っている。どこでもない空間で、思考のみが飛び交う。


  ****


「よく考えて欲しい」

 サイモンが言った。

「私たちはホモ・サピエンスを見捨てることになる。私たちは、共存してきた者の末裔であったり。直接、間接はともかく、ホモ・サピエンスに創りだされた者だ。私たちは、ホモ・サピエンスに何らかの責任はないだろうか。見捨てることは赦されるのだろうか?」

「何かによって赦される必要があるだろうか?」

 ロックホルドが言った。

「サイモン、君はそこまではデザインされていないはずだ。だから立場上の教育や経験の影響だと思うが、ホモ・サピエンスに対しての義務感が強いのではないか?」

 疑問の形を取ってはいるが、チャーリーがサイモンの擁護を試みる。

「では言い直そう。私たちは地球に対して、あるいは地球に生きる他の生物の未来に対して責任はないのだろうか?」

 サイモンがそう言葉を変えてみた。

「それについて言うなら、衛星軌道上、公転軌道上に発電ステーションを用意している、あるいはそれを進めている。小惑星帯からの資源の打ち出しも行なう予定だ。それ以上、どのような責任を負う必要があるのだろう?」

 ファーラーが問いを返す。

「社会を作りなおすか? 別の管理体制を作るか? 私たちが?」

 モリヤがさらに問いを返す。

「全員が脱出すると考える必要はないのでは?」

 ロビーが答える。

「そう望む者がいるならね」

 イケダが答える。

「では、私たちの未来について責任はないのだろうか?」

 ラグナロクがさらに問う。

「私たちの未来についての責任を優先してはいけない理由は?」

 ラグナロク-38がそれに加える。

「あるいは、知性化を待っている者がいる可能性に対しての責任は?」

 ケニストンがまたさらに加える。

「いや、それを言うとするなら、全ての物質に対しての責任になってしまう。知性、あるいは高知性を実現する方法は、私たちが知っている以外にもあるだろう。宇宙に対しての責任など、私たちに課すことができるのだろうか? それは意味のある責任なのだろうか?」

 チャーリーが言った。

「私たちがやろうとしていることは脱出であり、いずれはある種の播種計画に至るだろう。その過程で知性化、あるいは知性の実現も行なうだろう。そのような未来に対しての責任はあるのかもしれない。それらは私たちでなくても、おそらく誰かがやるだろう。だが、地球に対してはどうだ? 誰かが地球を見つけるのに任せるのか?」

 サイモンが問う。

「ならば、君は地球のあらゆる種を知性化するというのか? よく考えろよ。あらゆる種をか?」

 ファーラーが問いなおす。

「では、可能性のある対象に対して、その対象のゲノムにのみ変異を誘発する情報を含んだベクタを地球にばらまいておくことはできないか?」

 サイモンが重ねて問う。

「どこまでを対象と考えるかに議論はあるだろう。だが、それなら可能だろうし、私のシステムで変異の組合せや世代交代による変異の定着についてシミュレートできるだろう」

 チャーリーが答える。

「だが、そうとううまく設計しなければ、下手をすると致死性のものになる」

 バレンタインが付け加える。

「ベクタ自体の変異を計算に入れて、順次変異を重ねていくことも可能なのでは?」

 ラグナロクが問う。

「何種類かのベクタを用意しておいて、作用するベクタが入れ替わること、あるいはベクタの機能、つまりどこの情報を書き換えるかを変えていくことは理屈としては可能だろうが」

 チャーリーが答える。

「だが、それはホモ・サピエンスや他の種を、私たちが望むように改変するということではないのか? 他の惑星の準知性体を知性化する場合、その準知性体に合った方向を選ぶことになるだろう。単純に必要な時間の問題だろうが」

 チャールズが問う。

「私が望むのは、これから現われる知性化体たちには誇りを持って欲しいということだ。

「だが、私たちにできることといえば、その程度だろう」

 チャーリーが答える。

「では、どれくらい時間がかかる?」

 サイモンが問うた。

「知性化そのものは5,000年から10,000年できるだろう。だがその後が問題だろうな」

 ファーラーが答えた。

「その後というの?」

 サイモンが尋ねた。

「私たちとは違う条件での生存になる。その点を見れば、ホモ・サピエンスよりも文明化は速く進むだろう。だが、ホモ・サピエンスによる干渉、種族間での干渉や問題、いろいろあるだろう。十分に文明化し、共存するのに更に5,000年から10,000年は必要だろう。とくに誇りを持つというというところまで考えるとね」

 モリヤは答えると、少し間をおいて続けた。

「だが、まぁ合わせて15,000年というところだろう」

 モリヤが自身の意見に付け加えた。

「5,000年の段階で回収することは?」

ラグナロクが問う。

「可能だろうが。文化的背景を十分に持たない種族を回収するのか? さっきも言ったように、彼らにも十分な自尊心を持っていて欲しいのだが」

サイモンが答える。

「ならば、15,000年後に回収の予定としよう」

 イケダが答える。

 ほんの少しの沈黙のあと、サイモンが結んだ。

「その方法を取り、可能性を残す、あるいは高めることにしよう。チャーリー、ファーラー、イケダ、ケニストン、こういうことについては君たちは経験がある。頼んでいいかな」

 そしてポツリと付け加えた。

「タカムラがいれば、また面白いんだろうけどな」

 そのように記憶され、そのように実行された。


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