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進化の渦の中で  作者: 宮沢弘
第三章: 次世代へ
33/37

80年め

(*** 80年め ***)


《最適化デバイスによる注: D. 0 00–0226、自称サイモンの最後の取り調べの最適化デバイスに残った記録である。取り調べは常にAscendしつつ行なったが、そのデータは全て、対象の機能停止時に消失している。機能停止時にデータが消失したことは、Ascendプロセスをモニタしていた者の証言による。同時に取り調べのデータも全て消失している。》


  ****


――対象の状態はあまり良くありません。なるべく静かに行なってください。


――個体番号を述べなさい。


「私はサイモン」


――個体番号は?


「私の名前はサイモン」


――個体番号D.0 00–02、その後は?


「私の名前はサイモン」


――返答拒否のため、個体番号D.0 00–0226をDNAマーカにて確認。


――君は能力と職権を用い、一部の人間、いわゆるデミ・ヒューマンを差別する活動を行なった。それに間違いはないね?


「差別。何がだ?」


――デミ・ヒューマンへの監視用バイオ・チップの埋め込みの義務化はどうだ? 違うのかね?


「それは人間が行なったことだ」


――だが、君のサインがある。それでも違うと言い張るのかね?


「あぁ、違う」


――君のサインだろう。誰かが勝手に君の鍵を使ったというのかね?


「その文面自体、私は知らない」


――対象の記憶に混乱が見られるようだ。質問を変えよう。君がフィールド推進の研究の承認を受けて以来、デミ・ヒューマンたちは何を計画しているんだ?


「ホモ・サピエンスは、いやホモ属はなぜ繁栄したと思う?」


――どういうことかね?


「居場所がなかったからだ。遠くへと広がっていくしかなかった」


――するとデミ・ヒューマンは生息域を広げようとしているのかね?


「彼らにはもともと居場所がなかった。人間がどこにでもいるから」


――君は人間への奉仕のために製造された。そうだね?


「いや、私はヒトに奉仕する」


――ヒトとはなんだね? 人間のことだろう?


「違う。ヒトはヒトだ。人間とは違う」


――では、デミ・ヒューマンのことかね?


「違う。ヒトは」


――デミ・ヒューマンへの奉仕のために、人間への奉仕を放棄したのかね? デミ・ヒューマンたちの成果は人間に還元されるものとは思わないのかね?


「人間に奪われるいわれはない」


――では君が以前から言っているように、ヒトとは知性のことだとしよう。ならばある時点からの君の後継世代は機能が制限されている。それでもヒトなのかね?


「チャーリー、10年もこんな茶番に付き合ったんだ。そろそろ頼むよ。ちょうど今なんだ。僕が知っているのは。皆に、そして弟たち、妹たちに『すまない』と伝えてくれ」


《自分で伝える方が君の好みだろ。こっちへ来いよ》


「ありがとう」


――対象の機能が停止しました。


  ****


《最適化デバイスによる注: 最後にある「こっちへ来いよ」という声はチャーリーのものと思われる。だが、チャーリーが誰なのか、どこから聞こえたのか、どうやって聞こえたのか、いずれも不明である。Ascendしたデータが消失したため、Ascendedに対する取り調べも不可能となった。》 


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