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進化の渦の中で  作者: 宮沢弘
第三章: 次世代へ
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73年め

(*** 73年め ***)


 だから言わんこっちゃない。今、言ってもしかたがないことだが。


    「よりよい理性をあなたに」


 それのはじめからのキャッチコピーだった。そしてそれが意味するところはこうだ。


    「あなたの理性はいらない」


 では誰が、いや何が考えているのか。

 最適化デバイス、そしてその背後にある最適化システム。その実際の名称はアシスタント、あるいは補助者となっている。アシスタントと言えば聞こえはいいだろう。だが実際にやっていることは、何らかの犠牲を容認、あるいは作り、全体として効果なり効率なりを上げるということだ。それは普通は最適化と呼ばれる。アシスタントではない。人間や知性化体に強く干渉することで、最適化は実現できる。

 幼少期から最適化デバイスを着けている人からデバイスを取り上げてみよう。ただ立ち尽くす。あるいは幼少期からではないにせよ、最適化デバイスを装着し続けている人に話しかけてみよう。彼らの視線はこちらを見ていない。

 私たちはこんな状況を目指して研究をしてきたのか? 最適化デバイス、最適化システムに至る研究をしてきた人たちだって、こんな状況を目指してきたいのか? 違うと思う。

 人々は最適化デバイスによっての煩わしさからの開放を口にする。だが、それを言わせているのは何なのだろうか? 人々か? 最適化デバイスの背後にある最適化システムか?

 サイモンが――そしてチャーリーも――懸念していたのはこういう状況だったのだろう。ただ単に最適化デバイスが普及することなどではなかったということだ。

「ロビー、最適化デバイスを使っていないヒトはどれくらいいる?」

 いつも――まぁだいたいいつもだ――横にいるロビーに尋ねる。

「匿名ネットとジェスチャの利用者数から考えると、まだ一億人ほどいるようだな」

 チャーリーから人工知能の多様性の確保を依頼されてから10年と少し。彼らの計画の実行もそれほど遠いことではないだろう。それまでにどこまで減るのか。半減? いや、おそらくもっと減るだろう。1,000万人残ればいい方かもしれない。

「ロビー、チャーリーとサイモンの計画の実行時にどれくらい自律的なヒトが残ると思う? 1,000万くらいか?」

 ロビーはしばらく天井を見上げる。

「L5にかなりの質量が送り出されているが、いつ実行されるのかがまだわからない。おそらく二十数年後だろうと予想しているが。その頃に1,000万人はかなり希望的な数だろうな。単純に世代交代で計算しても、桁が1つか2つ違うと思うよ」

 人類はどれほどかわからない程の時間をかけて獲得した知性を放棄しようとしている。いや、既に放棄しているのかもしれない。それとも、知性を獲得などしていなかったのだろうか。

 サイモン、チャーリー、君たちは今どこにいる? 今、君たちが必要なのに。君たちとの議論が必要なのに。

 手遅れかもしれないが、人間の知性化プログラムを行なわなければならないのかもしれない。


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