69年め
(*** 69年め ***)
オフィスに、子供の頃の友人からの荷物が届いた。
子供の頃、私は人間と同じ学校に通っていた。デザインドではあってもそれが可能であったし――受精卵に相当するものを合成されたのであり、遺伝的には人間とほとんど変わらないのだから――、他の方法もなかっただろう。閉じ込めて教育することも可能ではあっただろうが、合成された受精卵と自然な受精卵を区別する理由はなかった。
何年か経過し、私自身が合成されたのだと知らされた。だが、それは今はどうでもいい。
荷物を発送した友人は、既に亡くなっている。なぜなら、私に与えられたデザインは長寿だから。
パッケージを開けると、小さな荷物が2つとシートが入っていた。シートを起動する。チャーリーがシートに現れた。
「まず謝っておく。このような方法を取ったことで、君が何かを思い出すかもしれない。もしかしたらそれは不快なことかもしれない。そうでなくとも、このような方法を取ったこと自体を不快に思うかもしれない」
いや、そういうことは気にしなくてかまわないな。少なくとも、現在のデザインドのうちの一定数の存在を考えれば。友人もいたし、喧嘩もした。
「だが、君はこれから、おそらくもっと不快な思いをするだろう」
チャーリーも何をやっているんだか。お見通しか。どこにクラックしたのかは知らないが。
「そこで送った荷物だ。錠剤と目薬。両方共服用しておいてくれ」
私は錠剤と目薬を手に取る。
「それらが君の体と脳に付加的な回路を構成する。生体的な回路だ。精密なスキャンをしても、それとは発見出来ないだろう」
両方を服用する。
「構成される回路の機能は極めて限られている。マニュアルも構成されるからそっちを参照してくれ。それから、パッケージも荷物もシートも確実に処分しろ」
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「サイモンを拘束する根拠は充分に出たな」
私のグラスに補助者が現れる。
「サイモンの拘束を指示する。経路、方法など指示に従うこと」
その言葉が終わるかどうかという時に部下が集まってきた。
「よし、補助者の指示に従え。そうすれば確実に捕まえられる」
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帰路、私は数台の車に囲まれ、誘導された。
チャーリーも見事なタイミングで荷物を送って来たものだ。遅れては意味がないのだから計算の上でのことだろう。そういう計算は、今では極めて有効だ。最適化デバイスの着用が義務付けられ、およその人間は、そして知性化体もそれに従っている。さらに言えば最適化デバイスの指示にも。
それに、しばらく前から、彼はシステムの中にいる。彼自身が介入してくることは、彼自身を危険に晒すことになる。荷物もうまいこと介入して開発したのだろう。おそらく、最近開発した物ではないのだろう。噂にあったナノ・マシン型のバイオ・チップの開発に紛れ込んで作ったのかもしれない。このような世の中の状況を予測していたのか? いや、ただ予想していただけだろう。私については…
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サイモンはおとなしく拘束された。
グラスに言うべきことが表示される。それに従い、サイモンに対して言うべきことを言う。
「… 君は人間ではない。人間に準じて扱うが、通常の人権が適用されることは期待してはいけない」
最後に表示されたのは、そういう言葉だった。
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記憶が繋がったのかもしれない。チャーリーもあの実験で同じ記憶を持っていたのだろうか? ただ予想していただけなのかもしれない。
これから10年か。
ということは、チャーリーが送ってきた薬で構成される回路というのは、その間、発見されないのだろう。どういうものなのだろう。ぜひ彼に聞いてみたい。
その時、アラームが鳴った。周囲を見回したが、そんな音がしそうな物はない。
「強制的な連想を開始。および内容の更新を行なう」
周囲にそんなことを言いそうな者はいない。ということは、私の頭の中で聞こえているのか?
そう思った時、古い友人からの荷物を見た場面を思い出す。
古い友人の名義で、その家族から送られて来た物だった。彼の遺品の中から私宛の物を見つけたから。子供の頃、彼と交換した宝物だった。特別なものではない。ただのペンだった。彼の名前は、チャーリーだった。別の古い友人と同じ名前だ。




