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進化の渦の中で  作者: 宮沢弘
第二部:ヒトたち
20/37

20年め

(*** 20年め ***)


「すまないな、サイモン君」

 目の前のディスプレイに主任が現われ、ヘッドセットから主任の声が聞こえる。

「構いませんよ。話を伺って、面白そうでしたから」

 私たちは宇宙服を着て、座席に縛り付けられている。頭にも体にもセンサーが貼り付けられている。

「それにしても、センサーがずいぶんありますね」

 ディスプレイから主任が答える。

「いや、そういうことではなく、君たちが選ばれてしまった経緯についてなんだが」

 私は笑いながら答えた。

「先に行われたフィールド航法の結果を知ってから、私たちにお鉢が回ってくることは予想していましたから。いきなり人間で試すわけにもいかないが、人間と違う者であっても意味がないかもしれない。そうなれば私たちがやるほかにありませんからね」

 別のディスプレイからチャーリーも答える。

「そういうことですね。私の子供の誰かも――今回はチャールズを選んだが――乗ることは予想していました。私について言えば、コピーですし、計算機上で動いているだけですから、これも予想していました」

「私を選んだのはあなたですがね、チャーリー」

 後ろの席から、少し不満げな声も答える。

 隣の椅子からも答えが返る。

「サイモンは人間に近すぎます。人間を乗せていると言ってもいい。それに対して、デザインドに関して試験をするなら、私たちの誰かが乗ることになるだろうとは予想できました。まぁ私を選んだのはサイモンですがね」

「いや、そう言ってくれると、責任の少しはチャーリー君とサイモン君にあるように思えるな。少しは気が楽になるように思えるよ」

「それに、最近の機能が強く制限されたデザインドでは意味がないかもしれませんからね」

 隣の彼が続けた。

 左後ろの席からも答えが返る。

「チャーリーが乗っているのに、私が乗る必要があるのかはわからないが」

 ロボットの、ラセットだ。シリコーン樹脂の皮膚を持ち、一目見ただけではロボットとはわからない。だが、人工知能の研究はまだ行なわれている。ロボットのことはわからないが、まだ人間には及ばない点があるのだろうか? ラセットにそれを聞くのは失礼な気がする。彼は気にしないかもしれないが。


  ****


 ディスプレイから主任が説明する。

「これからL2軌道まで移動したところでいったん通常空間に戻り、その後でもう少し飛行してもらう。先に説明したとおりだ。頼むよ」

 乗務員が全員うなづく。


  ****


 L2軌道への移動中、軽い眩暈を感じた。

 そして、軌道外への航行テストだ。


  ****


――では君が以前から言っているように、ヒトとは知性のことだとしよう。ならばある時点からの君の後継世代は機能が制限されている。それでもヒトなのかね?

「チャーリー、10年もこんな茶番に付き合ったんだ。そろそろ頼むよ。ちょうど今なんだ。僕が知っているのは。皆に、そして弟たち、妹たちに『すまない』と伝えてくれ」


 今のは何だ? 記憶に少し混乱があるように思う。


  ****


 私たちは無事に帰還した。

 ステーションでは主任らの歓迎を受けた。これからが面倒な気もするが。

 ひとまず未来を見ることができたように思う。ヒトの未来が。ヒトよ、急げ。


  ****


 計画にあったとおり、私たちは帰還後にインタビューを受けた。私ともう一人のデザインド、そしてチャールズについては、おそらく人間の場合と同じようなインタビューなのだと思う。

 ラセットについては、記憶と記録をダウンロードし、詳細な検討が行なわれている。

 そしてチャーリー。彼の場合は特殊だ。

 チャーリーの聞き取り調査を見る機会があった。

 地上に残ったチャーリーも、私たちと一緒に行ったチャーリーの聞き取りに参加していた。この方がより多く調査できるかららしい。それは確かにそうだろう。

 そのインタビューを見学する機会があった。チャーリーが、両方のチャーリーが申し出たらしい。

「亡霊だということがどういうことか、見せてあげるよ、サイモン」

 チャーリーはそう言っていた。


「じゃぁ、チャーリー、記憶にアクセスする」

 残っていたチャーリーが、私たちと行ったチャーリーに言った。

「アクセス承認」

 私たちと一緒にフィールド航法を経験したチャーリーが答える。

「お前、このあたりの記憶がおかしいけど、自分でわからないのか?」

 しばらく二人のチャーリーが黙ってから、残った方のチャーリーが指摘した。

「え? わからないな。どこが?」

 一緒に行ったチャーリーが答える。

 記憶を覗かれるというのは、どういう気持なのだろう? あるいは記憶を覗くというのは。

 何かはわからないが、あまり見ない方がいいものを見たような気がする。亡霊。その一面なのだろう。


 後日、両方のチャーリーは統合した。地上に残ったチャーリーがいて、私たちと一緒に行ったチャーリーがいる。そしてそれぞれ聞き取りを行ない、聞き取ったことを記憶し、また聞き取りを行なわれ、聞き取りを行なわれたことを記憶している。統合により、そのあたりの記憶はどうなっているのだろう? これも亡霊であることの一面なのだろうか。 私にはどうにもうまく想像できない。チャーリーが言うには、聞き取りを行なった/行なわれたことがむしろ統合を容易にしたらしい。実際、統合アルゴリズムを考案したのは彼だ。その統合のやり方は適切な機器と施術者の技術があれば、人間でも可能らしい。

「例えば」とチャーリーは言った。「本を読んだり、ビデオを見れば、ある種の記憶や思考が転写されるだろ。そんなもんだ」

 そんなものなのだろうか? チャーリーは、存在としては生物なのだろうか? それとも計算機の上で動いているプログラムなのだろうか? おそらく私たちと行ったチャーリーが統合により消えたのだろう。よくそれを承諾したものだ。それは生物にとって受け入れられることなのだろうか? いや、彼は消えたのか? 生物が消えるのとは違うように思う。コピーの1つが残れば、彼は残っているのだろうか? 特に統合していれば。


 実は、チャーリーはもう一人いる。絶対に起動しない、すくなくともパッシブにしか起動しないとう条件付きで。解剖学的な――もっとミクロな言葉の方が適切だろうか――調査のためのコピーだ。アクティブに起動した場合… いや、やはり彼は少しわかりにくい存在のようだ。


 もう一つ。フィールド航法の改善には、チャーリー達のデータがかなり役に立ったらしい。それらのような調査ができるなら、そうだろうと思う。そして、そのような調査ができるのは、チャーリーだからなのだろう。


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