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進化の渦の中で  作者: 宮沢弘
第二部:ヒトたち
17/37

52年め

(*** 52年め ***)


 社会システム管理者として観察記録を残しておく。


  ****


 まず、何から書いておけばいいのだろう。

 7年前に、アシスタント・システムの着用が推奨された。謳い文句はこうだ。


   「よりよい理性をあなたに」


 それは、必ずしも間違いではないだろう。犯罪は減った。

 だが、アシスタント・システムを着用した人間は、人間と呼べるのか?


 たとえば、プログラミングをしているとしよう。没入していると、周囲のノイズは耳に入らない。そこまでは誰しも経験しているだろう。だが、その先がある。

 ディスプレイが視野そのものになる感覚。

 あるいは、指はキーボードの上で動いているが、どういうプログラムを組んているのかも意識に上らない感覚。こうなると、一旦注意を逸らせば、今、何をやっていたのかを思い出すのに少し手間がかかる。

 そうなったときに、私は思う。記憶に残っていないなら、今、プログラムを作っていたのは誰なのかと。私が作っていたのだろうか? 少なくとも、作っていたという意識もなければ、もしかしたら記憶も残らない。計算機、あるいは今、作られているプログラムが、私にコードを打ち込ませているのではないか。そう思うことがある。

 人間と計算機は簡単に系になる。


 アシスタント・システムは常に指示を出し続ける。ユーザが興味を持ちそうなものが、すぐ先の店で売っていれば、そこにナビゲートする。ユーザは疑うこともなくそのアンビゲートに従う。店についたら、買うかどうかだ。アシスタント・システムは買うように指示する。絶対とは言えなくても、ユーザは買う。

 誰が考えているのだろうか?

 そこでは、アシスタント・システム、あるいはアシスタント・デバイスと人間との系が出来上がっているのではないだろうか。


 このようなシステムは、昔は、人間の知的能力の拡張を実現すると言われていた。拡張していることは確かだろう。何かの状況に陥いったとき、あるいは陥いりそうなとき、アシスタント・デバイスは気付かぬ内に、資料や指示を出す。確かに拡張してはいる。だが、私にとっては、そこには不安が付き纏う。人々は、アシスタント・デバイスが示した資料や指示を疑う人は少ない。


 監視者としての特権を使い、会話している人にアシスタント・デバイスが提示するものを覗きみたことがある。会話しているどちらも、提示された言葉を、そのまま口にしていあ。


   「よりよい理性をあなたに」


 そうなのかもしれない。だが、その「よりよい理性」はどこから来ているのか。


 ある時、やはりアシスタント・デバイスが提示する内容を覗き見ながら、会話を観察していたことがある。その時、片方の人は突然、提示されている言葉とは違うことを口にした。喧嘩になったか? いや、ならなかった。もう一人が、提示されたとおりには話さなかった人のアシスタント・デバイスを手に取り――多少悶着があったが―― 、そこに提示されている内容を確認した。そしてこう言った:

「ちゃんとアシスタントの指示どおりにしないとだめだよ」

それは、その人のアシスタント・デバイスに提示されていた言葉だった。


   「よりよい理性をあなたに」


 確かにそれは提供されているのだろう。だが、誰にとって? そして、誰が?

 アシスタント・システム、あるいはアシスタント・デバイスと人間が系になった場合、誰が/何が考えているのだろう? 主体は誰/何なのだろう?


   「よりよい理性をあなたに」


 それはつまりこういうことだ:

   「あなた自身のものよりよい理性をあなたに」


 もちろん、アシスタント・デバイスの提示する内容に従わない人もいる。アシスタント・デバイスを使わない人もいる。そのような人たちは今後どうなるのだろう?

 誰かが彼らを守らないといけないように思う。誰も守っていないのなら、私が。

 私に何ができるだろう? どのようにすればいいのだろう?


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