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進化の渦の中で  作者: 宮沢弘
第一部:プロローグ
10/37

37年め

 大学入試の二日め。筆記試験の翌朝、二人はキャンパスの花壇に腰掛け、缶コーヒーを飲んでいた。

「そろそろ時間だな。面接室に行くか」

 二人が歩き出す。鞄からスレートを取り出し、案内を確認する。

「俺、あっちの部屋だ」

「俺は、こっち」


  ****


「君はブライト枠だね。形だけになるけど、志望動機を話してくれますか?」


  ****


 部屋に入ると、あの先生と目があった。軽く会釈をする。

 さっそく面接が始まった。

「君の志望動機から教えてください」

「あー、ある先生がこちらの大学に移られたので」

 あの先生が話をさえぎる。

「そういう話は要らないと思いますよ。君の正直なところを聞きたいんだけど。ブライトとエスという発想についてどう思う?」

 最初の先生が口を挟む。

「ゴーセル先生、そういう話はひとまず型どおりの質問をしてから」

「彼はブライトですよ。なら型どおりの質問は不要でしょう」

 他の先生は書類を確認する。最初の先生が訊ねる。

「書類には書いてありませんが?」

「知っているんですよ。なんなら後で関連書類をお見せしましょう」

 ゴーセル先生がこちらに向き直る。

「で、どう思う?」

 どう思うと聞かれても困る。

「興味があるとすれば、『エス』とはどういう意味なのかというところです」

「というと?」

 いや、興味がないことに答えないといけないのか。悩んでもしかたがない。

「この2年ほどで、ブライトはブライトとメディアでも呼ばれています。ですが、エスをエスと呼んでいるメディアは見たことがありません。文責のないネットか普段の会話で、いつのまにかなんとなくブライトとエスという呼び方が馴染んでしまっています。『エス』とはどういう意味なのでしょうか?」

「ブライトとエスに分けることについては何か君の考えはないのかな?」

「分けることに興味はありません。私は私ですし、私がやりたいことをやりたいだけなので。呼び方の意味がわかれば、何か違ってくるかもしれませんが」

 ゴーセル先生はうなずき、ポツリと声にだす。

「それでカードも申請していないわけだ」

「はい」

「わかった。では、残りの時間で君がやってきた研究を紹介してもらおう」

 最初に口を開いた先生がまた口を挟む。

「ゴーセル先生、彼にはそういう連絡は」

 先生はうなずきながら、私をうながし、ついでにというように答える。

「私がしてあります」

 私はスレートを壁面ディスプレイに接続し、またスレートのカメラに私が写るようにすると、ジェスチャで資料を操作しながら簡単に説明をした。およそ10,000塩基対を使ったDNAコンピュターションのシミュレーションだ。RNA群や酵素にまで手が回り切らなかったので親父の手も借りたが。10,000塩基対では生命とまではいかない。最小のウィルスにも及ばないのかもしれない。それには最低でも50,000から100,000塩基対が必要だ。


  ****


 キャンパスの正門で待っていると、もう一人もやって来た。

「面接で、もう合格が決まってるような感じのことを言われたよ」

「へー。こっちはあの先生がいたよ」

「ブライトとしての責任とか聞かれてさ、改めて聞かれるとこそばゆいよな」

「あの先生に、研究で親父の手を借りたことを指摘されてさ。なんか面倒くさかった」

 ふと友人が彼のほうに顔を向ける。

「研究? それはブライト枠だけだろ」

「あの先生から前もって連絡があったから資料を用意しといた。使わないならそれだけのことだし」

「それ、大丈夫なの?」

「何が?」

「面接の手続き的なものとか」

「どうだろ? まぁ親父の方の大学も受験してるからいいや」


  ****


二人とも合格した。

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