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山中珈琲帰郷店

作者: イワイサキ
掲載日:2014/11/16

 私は思わず目を疑ってしまった。あまりにも期待外れなそれに。

 すれ違う登山家達から聞いていた話では、この先にとても美味しい珈琲を出す店があるという。女性だと大変かもしれませんが、ぜひ一服の価値ありですよ、と。

 しかし、目の前にあるのは、ビニールカーテンで風除けをした屋台だ。街中で見慣れた形が、この自然の中で途轍もない不和を醸し出していた。

 でも急ぎでもないしせっかくの寄り道だ、と半ば自分に言い訳をし、カーテンに手をかけた。


 内装も見事に屋台であったが、意外なことに店員の男性は若く、スラリとしたスタイルに髪にパーマもあてていた。まるで服飾デザイナーといった感じだ。これまた不和だ。

「当店でご用意できる珈琲は一種類のみとなっております。お代を先にいただくことになっておりまして、十万円となります」

 店員は柔らかい声でとんでもないことを言ってきた。

「あの、すみません。そんなにありません」

「では特別に、足りない分は背負われてるリュックサックをいただければ結構ですよ」

 意外な返答に戸惑ったが、どうせ要らないものばかりだ。私は申し訳なさを感じながら財布入りのリュックを渡した。

「少しお待ち下さい」と準備を進める店員と私は他愛ない話を続けた。久し振りに人と会話をしたような気がした。

「どうぞ」と出された珈琲を一口、「普通ですね」と答える私に「皆様に言われます」と店員も笑っていた。

「でも」私は続けた。「すごく温かいです」

 それは、手に伝わる温度であったり、ストーブで温められた空気であったり、会話で暖まった心でもあった。


 楽しい時間も過ぎ、「ではそろそろ」と身支度をする私の目の前に、店員はカゴに入れたリュックを置いた。

「お釣りです。お代は頂いております」

 確かに財布の中にあった複数枚の一万円札は千円札五枚に変わっていた。そして、リュックの中からは手紙がなくなっていた。家族へ、友達へ宛てた手紙が。

 深々と頭を下げる店員に、私は涙を流しながらお礼を伝えた。


 帰り道、私は足元ばかりを見て山に登る中年の男性を見かけた。

 なるほど、私もそうだったのだろう。私は勇気を振り絞って嘘をついた。

「この先に美味しい珈琲を入れてくれる隠れた名店がありますよ」


珈琲は偉大です。

でも標高高いとヌルい珈琲しか作れないよね。


ワイ杯スレにて既出。

当時、字数制限に悩まされ、表現や内容が駆け足になっています。

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