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こんな夢を観た

こんな夢を観た「友達と口論になる」

作者: 夢野彼方

 友人の中谷美枝子とファミレスに入る。

「あ、あたし、デミグラ・ハンバーグのセットねっ」中谷が店員に注文をする。割りと流されやすいわたしも、「じゃあ、それをもう1つ」と言い添えた。

「デミグラ・ハンバーグ・セットをお2つですね。かしこまりました」店員は注文票に記入して戻っていく。


「あんたってば、ほんと、いつも人の真似ばかりするよね」中谷は冗談めかしてそう言ったが、今日に限ってなぜだか、カチンと来た。

「真似なんかしてないよ。食べようと思ったものが、たまたま同じだっただけだって」

「うそっ。それ、絶対うそ。だって、あたしが頼むまで、ずっとメニュー見てたじゃない。あたしが、デミグラ・ハンバーグって言ってから、あ、じゃあ、それにしよう、って思ったに決まってる」

 鋭い。だから幼なじみはやっかいだ。


「もう、いいじゃん、そんなことどうだって」口論では勝てない気がして、わたしは引き下がることにした。

「ほら、すぐそう。負けそうになると、いつもそうやって――」

「もう、うるさいなあっ」わたしは声を荒げた。

「何さ、未だにニンジンも食べられないくせにっ」中谷はさらにわたしの弱点を突いてくる。

「ニンジンを食べなくたって、誰にも迷惑なんかかけてないでしょ? それとも、中谷は困るってわけ?」


 中谷はむっと口をとんがらせた。

「ニンジンだけお皿に残して、まるでお子ちゃまじゃない。そんなお子ちゃまなんかと一緒だと思われるのが、恥ずかしいっ言ってるの!」

「お子ちゃまって言ったねっ」わたしは頭に血が昇ってしまった。「それならこっちも言わせてもらうけど、今着ているそのレプシィムのカットソー、ぜんっぜん、似合ってないよっ」


 すると、中谷はテーブルをドンッと叩いて立ち上がった。そのままわたしの席へ来ると、肩をつかんで、ぐわん、ぐわんと揺さぶる。

「ほんと、むかつくっ。あんた生意気だよっ!」


 次の瞬間、わたしはバランスを崩して、イスごと後ろに倒れこんだ。

「痛っ……」その後の言葉が途切れてしまう。ごろん、ごろんと転げ回る光景の中、首がもげてばたばたともがいている、自分の姿を捉えた。

 (えっ、なんでっ?!)それが、真っ先に頭に浮かんだ疑問だった。

 床から、目だけをきょろきょろさせてうかがうと、後ろの席で別の客が、ステーキ・ナイフを手に、ギョッとした顔をこちらへ向けている。ナイフは真っ赤に染まってた。

 そうか、タイミング良く、ステーキ・ナイフで……。


 店内は騒然となった。中谷もびっくりしたように駆けてきて、わたしの首を拾い上げる。

「ごめんね、ごめんね。どうしようっ、どうしよう!」

 不思議と意識ははっきりしている。何か言葉をかけようと口を開くが、声がまったく出ない。仕方がないので、べーっと舌を出して見せた。

「あんたってば、こんなときに……」中谷は呆れたようにわたしを見つめる。


「お客様の中で、医者はいませんかあーっ」店員たちが口々に叫ぶ。

 窓際に座っていた初老の男がすっくと立ち、

「わたしはもぐりの医者だが」と前置きをした上で名乗り出る。

「この際、贅沢は言ってられません。あちらのお客様の首がぽろりともげてしまいまして、診てもらえませんでしょうか?」

「うむ、わかりました。では、さっそく――」


 医者は、わたしの頭をひっくり返したり、振ったりして調べ始める。

「中身はたいして詰まってませんな。切断面はきれいにスッパリと……。いやはや、ステーキでも切るように、うまいこといってますぞ。まあ、これなら大丈夫でしょう」

 そう診断すると、針と糸、それから飯粒を持ってくるよう、店員に頼んだ。 


 胴体を起こすと、その切り口に、たっぷりと飯粒を盛り付け、こてこてとならしていく。

 そこにわたしの頭をぽんっと載っけた。

「じっとしておるように」と医者が注意をする。「ちょっとでも動くと、ずれてしまうでな。喉を鳴らすのもダメだ。いいね?」

 針と糸で、ちくちくと縫っていく。時間を掛けて、ゆっくりと。わたしはその間、身じろぎもせずに待っていた。


「よしよし、終わった。1週間は、激しい運動は控えるように」と医者。

「あ~あ~っ、やっと声が出るようになった。ありがとうございました、先生」

 ちょうど、わたしたちの「デミグラ・ハンバーグ」がやってきた。

「どうなるかと、心配しちゃった」そう中谷が言った。「でも、よかった。これで、ちゃんと食事ができるわね」

「うん、ここのハンバーグ、ほんと、おいしいもんね。食べ損ねたらがっかりしちゃうよ」


 あとで鏡を見て驚いた。縫い糸に「茶」を使っていたのだ。赤でも黒でもなく、茶とは!

「食べている間、中谷が笑いをこらえていたのは、こういうわけだったのかぁ」

 わたしは、急に恥ずかしくてたまらなくなった。 

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