表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ヤバい系の異能持ちが、何やらやらかしたらしい件について

作者: 葉室 笑

『異世界へ召喚されそうだったところを、妨害された件について』という話に登場する、高校教師の結城氏が語り手の話です。


異世界から来た先祖を持つ『マレビト』たちが何種族か、普通の顔してこっそり暮らしているという設定です。

マレビトのうちの何人かは、普通の人が持ってないような異能を持っていて、どういった系統の異能を持っているかは、種族によって異なるということになっています。


全編、ほぼ会話と状況説明です。

 俺が思うに、ヤバい系の異能持ちには二種類いる。

 持っている能力がヤバいのと、人間ヒトとしてヤバいのと。両方兼ね備えているケースについては、考えないことにしている。少なくとも、いままでは遭遇したことがないし。ーーいや、一人いたか。


 高校時代の友人に、空間系の異能持ちがいた。

 一見したところでは、穏やかでごくごくおとなしい、いじめにあっても、黙って泣き寝入りしそうなタイプに見えるのだが。よくよく付き合ってみると、けっこう苛烈というか。身内と友人は大事にし、それ以外の人間には、当たりは柔らかいが実は無関心で。敵には容赦がないヤツだった。

 そいつと一緒に昼飯を食べていたとき、どういうなりゆきでだったかは忘れたが、『もしいじめにあったらどう対処するか』を聞いたことがある。その時にナチュラルに返ってきた答えは、『うーん。とりあえず、消しておくかな?』だった。

『空気を遮断した空間にしばらくしまっておいて。静かになった頃に取り出して。あとは、異世界にでも捨てておくかなぁ。死体がなければ、事件にはならないんだよね?』


 あまりにさらっと笑顔で言われて、思わず相手をまじまじと見返してしまった。冗談とか、とりあえず威勢のいいことを言ってみたというんではなく、普通にそう思っている感じだった。おかずを口に運ぼうとした手が止まり、しばらく硬直していた俺に、『? どうかした?』と不思議そうにそいつは尋ねた。

 ……校内で、間違ってもいじめなんか起こらないようにしようと、他のマレビトな友人たちとも、固く誓い合ったことだった。


 とにかく。物事は見た目どおりではないことが多く、どこに地雷が埋まっているのかなんて、わからない。

 そんなことにも気づかず、平気で恨みを買うようなことができるのは、年齢がどうであれ、中味が”子供”だからなのだろうと思う。


 ……なんてことを思い出したきっかけは、先日のサッカーの試合中の事故が、実は事件だったと知らされた時のことだ。

 俺の勤務先の高校と、サッカーの強豪校との対戦だった。


 試合が行われたのは日曜日だったが、俺が担任をしているクラスの生徒も何人かベンチ入りしていた関係で、俺も一応応援には行っていた。

 怪我をしたのは、俺が勤めている高校のチームではなく、相手チームのフォワードで。

 けっこう派手に転んだのだが、審判はうちのチームが転ばせたのではなく、わざとだったと判定し、相手チームのファールとした。その後、転んだ選手がなかなか起き上がれずにいると思ったら、右アキレス腱断裂で病院に運ばれたのだそうだ。


 うちのチームのせいで転んだんではないことは、試合後に父兄が撮影していたビデオを見ても間違いはなかったのだが。仮にもスポーツ選手が、自分で転んでおいて怪我までするだろうか? という疑問の残る事故だった。

 ちなみに試合自体は、相手チームの圧勝だった。


 その数日後、高校時代の悪友の一人の家に招かれて、聞かされたのは。

 公にはできないが、怪我は試合中の事故ではなく、事件だったのだ、ということだった。それも物理的な手段ではなく、彼らの同族が持つ異能が使われたのは確実なのだ、と。


 ……なんてこったい!


           * * * *


 その悪友は、マレビトを高確率で見分けることができるので、仲間内では”マレビト探知機”などと呼ばれていたが。もともと持っている異能は、念動力系だった。

 サッカー場で使われた異能も、念動力系。その力でもって相手を転ばせたのであれば、ビデオに映っているはずもない。


「でも、なんで異能を使ったなんてわかるんだ? って……あ、≪監視者ウォッチャー≫が気付いたわけか」

「そう言うこと」

 俺の指摘に、悪友が頷く。


 ≪監視者ウォッチャー≫というのは、俺の同族にはいない人々なので、あまりピンとこないのだが。悪友の話によると、常時監視しているとかではないけど、同族の異能が使われたときには、この人々がすく気付くのだそうだ。特に、大規模な異能が使われた場合には。


「でも、試合中にちょっと転ばせるくらい、そんな大した力は使ってないんじゃないか?」

「そうなんだけどな。たまたま≪監視者≫がその場で観戦してたんで、気付いちゃったんだよなぁ」悪友は、やれやれ、というように頭を振る。「気づいちゃったら、放置ってわけにはいかないんだよな。もう、≪監視者≫から長老連中に、報告が上がっちゃってるからなぁ」


 悪友の同族たちは、結束が固い分、決まり事も多い。

 事前の了承なしに異能が使われた場合、仲間内で調査して、使い方に問題がある場合は、教育的指導を行うことになっているのだそうだ。

「特に今回みたいに、目立つ場所で他人を害する方向に使って、誰にも見とがめられないんじゃ、エスカレートするケースが多いからな。悪質化して人目について、異能の存在がバレるとこっちもヤバくなってくるからなぁ」

「……なるほど」

 念動力系の異能は、もともと派手で人目に付きやすい。早めに対策を打っておくに越したことはないわけだ。


「というわけで。おまえ、勤め先の学校のサッカー部員の名簿とか、見たことあるか?」

「学校のファイルサーバ上にはあるかもしれない。が、見たことはないな」

 映像系の異能持ちである俺は、一度目にしたものは忘れない。そして、≪人間映写機≫な異能を使えば、見たものをそのまま人に見せてやることもできる……が。


「なんだ、うちのサッカー部が疑わしいってことか?」

「かどうかは、まだわかんないんだよな」

「あんだけ点差がついてるのに、フォワード一人転がしたからって、意味ない気がするんだが」

「試合のことだけ見ればそうなんだけが。それ以外の動機ってこともあるだろ?」

「? どういう意味だ?」

「おまえも見て気付いたと思うが、ずいぶんギャラリーに格差があっただろう」

「あー……そうだったな」

 強豪校のイケメン・フォワードに対しては、近隣の女子高生たちの黄色い応援がすごかったからなぁ。うちの高校のアウェー感は、半端なかった。

 しかし、その動機なら、相手チームの他のメンバーにもあるように思うんだが。同じチームのほうがよけいに、いろいろと思うところがある気がするのだが。などと俺が言うと。


「あっちはあっちで、調査中。うちの同族の中に卒業生がいるんで、任せてある。部活関係とは限らないからな。クラスとか委員会関係とか、あちこち探ってもらってる」

「ふぅん。そんなにあれこれ調べる必要があるのか? うちとあっちの学校に、同族の誰がいるかぐらいわかってるんだろ? そいつらに話をきけばいいだけじゃないのか?」

「それがなぁ……いないんだよな」

「ほう?」

「同族とわかってるやつで、高校生や教職員ってのが、そもそもうちの県にはいないし」

「おまえらの方で、把握していない同族がいるってことか?」

「じゃなきゃ、学校関係者以外がやったか。同族の誰かが、頼まれて力を貸した可能性もあるよな」

「……おいおい。それはそれで、厄介な話だろう」

 把握されていない同族がいるのも問題なんだろうが、結束の固い一族の決まり事を堂々と破ったヤツがいるほうが、問題としては根が深いような……。

「まあな。すくなくともあっちの学校には、俺らが知らない同族はいないはずなんだよな。例の卒業生ってのが、俺と同じく”マレビト探知機”でさ。ちょっと前に教育実習で行ったときに、校内にいる連中はひととおり見て回ってるんで。同族がいたら気づいてたはずだって」

「うちの学校の方は? あ、これから調べるのか」

「そうそう。とっかかりとして、サッカー部の情報があると助かるんはなだが……」

「名簿を渡すのはNGだが。……そうだなぁ。たとえば、気心の知れた友人と一緒に飲んでる時に、職場の話題になることはあるだろうな。担任の生徒が入っている部活の話なんかも、ちらっと出るかもしれないよな。ーーましてや、その友人のおごりなら」

「了解。場所移すか」苦笑して立ち上がる悪友の後に、ついていくのだった。


           * * * *


 それから、けっこう日にちが経ってからだったが。またも件の悪友に呼び出されて、家を訪ねることになってしまった。

 話があるヤツが来いよ、と思わないでもないが。彼らの一族は、用心深いというかなんというか。いろいろ対策を講じた、盗聴される心配がない場所でないと、込み入った話はしない方針なのだ。


「まあ、おまえの同族にも関係がある話だからな」

 などと、悪友は言うんだが。うちの高校に関係、というのならまだしも。うちの同族になんて、いったい、何の関係が? 不得要領で眉を寄せていると。

「まあ、聞けって。結論から言うと、例のフォワードの高校の中に原因があったんだよな。まあ、ありていに言うと、クラス内でのいじめ問題だ」

「ほぅ?」

「首謀者がフォワードで、けっこうな人数が加担していた。かなりえげつないいじめを執拗にやってたらしいが。何しろイケメンでサッカー部のエースで、成績も教師ウケもいい、口のうまいヤツが首謀者なんで。被害者が被害を訴えたところで、黙殺された可能性大だな」

「タチわりい……」

「なんで、その被害者は誰かに相談してもどうしようもないと、誰にも言わずに我慢していた。ずっとずっと我慢していたが、あまりにつらい日々が、終わる見込みもなく続いていて、限界を感じるようになった。で、思ったのが。”アイツがいなければ、少しはましになるんじゃないか”ってことだった。首謀者が学校に来られなくなれば、時間稼ぎくらいにはなるんじゃないか、と。で、今までずっと使わずにいた、異能を使う決心をしてしまった」

「……その被害者っていうのが、おまえたちの、存在を知られてなかった同族だってことか? あっちの学校には、いないって話じゃなかったのか?」

「そうなんだけどな。調査にあたってたヤツも、問題の被害者がマレビトだってことには気づいてたんだけど、同族には見えなかったんだそうだ」

「? というと?」

「念動力系と映像系の異能の混血ハイブリッドだった。おまえの同族と俺の同族の、両方の血を継いでいたんだな、これが」

「げげっ」そんな話、知らんぞ?

この悪友の一族は、組織がしっかりしていて。同族にどんなヤツがいるか、名前、年齢、家族構成、所在まで、けっこう把握しているんだそうだが。俺の方は基本、親戚づきあいをしている相手の動向しかわからないからなぁ。そいつらだって、実は隠し子とかいるかもしれないし。そもそも、何代も前に、”都会で一旗揚げてくるぜ!”なんて出ていったヤツらのその後なんて、わかるわけないっての!

「そいつは、異能を使う決心をしてから、こつこつ技を磨いていたんだそうだ。透視と念動力の複合技で、ヒトの体の中を透視てアキレス腱の場所を確認して、そこを狙って切断できるくらい精度を上げたんだそうだ。試合中の事故を装えば、不審がられずにすむからな」

「……。じゃ、あれはシミュレーションじゃなくて……アキレス腱を切られたせいで、転んだってことか?」

「たぶんな。あのスピードで動いてる相手にそれができるって、動体視力も反則だよな。映像系の異能ってよく知らないんだけど、けっこう距離あったのに、細い腱まで見えるって……。拡大鏡みたいな異能もあるのか?」

「いや、それは……?」俺の周りでは、聞いたことないんだが……。

「ちなみに、首謀者が入院中でも、いじめはそのまま続行されたんで。次の計画も立てていたそうだ。体育の授業中に、首謀者その2の心臓の血管を圧迫して、心筋梗塞を起こさせる予定だったんだと。ちょーっと加減を間違ったら心臓止まっちゃうかもだけど、そいつのイジメっぷりがシャレにならないくらいひどいんで、まあ、しょうがないかなぁ、と思ってたそうだ」

「………。こえぇ………」

「で、いじめが収まるまでは、一人ずつ入院させる予定で考えてたそうなんだが。クラスの8割が加担している状態でそれやると、どんな非常事態が起こるか想像もつかないんで。必死に説得して、代替案もあげて、止めさせた。主に俺が」

「……よくやった」誰かが目立つことして、存在を知られるのが一番怖いからな。マレビト的には。

 細い腱とか切るだけなら、そんなに大きな力を使うわけじゃないだろうし、今回たまたま≪監視者≫が近くにいたんで、一件目で気付いたけど。下手すると『呪われた教室クラス』なんて噂になるまで気づかれなかった可能性があるのがこわい。

 一応、混血ハイブリッドってことは、俺らの同族でもあるやつが起こした事件だからなぁ……。

「今度は、おまえがおごれよ」やたら胸を張る悪友がウザいが。

「りょーかい」と、答えておく。

 なんか、聞いているだけで疲れる話だったが。まあ、解決したようなので、よしとしておこう。


           * * * *


 その後、悪友がマレビト・コネクションを経由して、≪ことわりに干渉する≫異能持ちに依頼した結果。

 例の混血ハイブリッドな少年をターゲットとした、悪質ないじめは起こらなくなり。彼が異能を用いる必要もなくなったそうだ。

 ≪理に干渉する≫のは、希少性も効果も高い異能なので、けっこうな代価を請求されたが、報告を聞いた長老たちが肩代わりしてくれたのだそうで。まずはめでたい。


 しかし、件の少年は、今後起こるかもしれないピンチに備えて、異能の精度を高める修行はそのまま続けているらしい。

 ヒトの体内を透視する訓練と併せて、同じ大きさの模型で、膝の靭帯にダメージを与えたり、脳の太い血管をピンポイントで破裂させたりの練習を、かなりの確度で繰り返していると聞くだびに、背筋が冷える思いがする。

 ……透視と念動力の合わせ技って……。


 もともと、好んで人を傷つけるような性格ではなく。いじめ被害の方もかなりの期間耐え忍んでいて、例の試合中の”事故”も、やむを得ずの自己防衛だったという話なので、人間ヒトとしてヤバいタイプではないのはよかったが。能力の方は、かなりヤバい。

 悪友が、同族の存在を知らせ。何かあった時の、頼りになる相談相手として売り込むことに成功しているようなので。今後は同じような問題はおきないことを願うばかりだ。


 しかし、知らないというのは、恐ろしいものだ。

 いじめの首謀者や加担した連中は、自分たちが何者を相手にしているのか、知っているつもりでいたのだろうが。

 人を見た目だけで判断していると、自分を人知れず脳卒中にできるような相手を踏みつけにしてたり。空気のない空間に閉じ込めて窒息させて、遺体を異世界に捨てるようなヤツにケンカを売ってたりする羽目になるんだが。

 今回のことを公にはできないので、いじめの加害者たちに教訓を与えることができないのが残念だ。

 ヤツらが、今後同じようなことを繰り返すなら、いつか代償を支払うこともあるだろうなぁと、思っておくことにする。


 とりあえず。俺の担任しているクラスだけでも、不穏なことが起こらないよう、よくよく気を付けておかなくてはと肝に銘じるのだった。


透視能力と念動力の両方を持っているとヤバい気がする、というのを書きたかっただけでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ