明日から本気出す
ねぇ、ハイネル。この状況はどうすればいいんだろうね?
『いやぁ……ドンマイっとしか言いようが無いニャよ』
デスヨネー。まさにオワタ!だよね。
『まぁ、もっかい死んだら転生させてあげるニャよ』
うん、頼むよ。こんなので異世界生活終わったら無念過ぎるし。
こんな……奴等に殺されて終わるなんてね。
「さて、そろそろ覚悟は決まったのかな?ミオ?」
「うん。まぁ仕方ないし」
「ん?やけにアッサリしてるね。恐怖に怯える姿を殺すのが僕の趣味なんだけどなぁ……」
そう言って短剣をクルクル回すリク君。
……本当に、どこで間違えたんだろ……?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
うーん……何か変な夢を見たような……?
今朝、私にしては早く起きることが出来た。まぁいつもの私のベッドと違うし、昨日は疲れてたから早く寝てしまったし。
腕時計を見ると、まだ7:30だった。二度寝しようかと思ったけど上手く寝れない。
ベッドの上のカーテンを手探りで開ける。差し込んでくる朝日が気持ちいい……!
窓の外を見ると、ファンタジックな人達がたくさんセカセカと動いている。
大方、これからモンスター狩りに行く朝型の人達と、深夜にモンスターを狩って戻ってきた夜型の人達が混じって居るんだろう。
コンコン、と部屋のドアが鳴った。ハッとして腕時計を見ると、8:26を指していた。いつの間にかぼーっとしてる間に一時間半も立っていたみたい。 この世界の2つある太陽も燦然と輝いている。
「入ってもいいよ~」
「うん。失礼しまーす」
リク君がまるで職員室に入る様な顔をして入ってくる。
16歳でここまで純粋に育っている子は珍しいね。
「お、おはよう。ミオ」
「ん。おはよ、リク君」
「な、なんだかいい匂いがするね……」
クンクンと鼻をひくつかせるリク君。昨日の今日で泊まっただけなのに匂いも何も無いだろうに。
「ほら、それじゃあ行くよ?」
「あ、う、うん!」
とりあえず今日は装備を買いに行こう。
なんとなく余談だが、ハイネルはまだ寝てるみたいだ。呼び掛けてもすぴーすぴーとしか返さない。
てくてくとファンタジーな街を歩いて行く。武器屋は某ドラゴンなクエストに出てくる剣が二つ重なった形の看板が掛かったお店だった。小説などによくある中に入る形では無くて、お祭りの屋台をしっかりさせた感じのお店だった。目算20歳くらいのケットシーのお兄さんが頬杖つきながら道を見ている。
「あのー……こんにちは?」
「おう、こんにちは。武器をお求めかい?」
「ここ武器屋でしょう?それ武器以外に無いですよ」
「はは、そりゃ違いねぇ。こいつぁ姉ちゃんに一本取られたな」
ははは、と快活に笑うお兄さん。一見すると裏表の無さそうな優しいお兄さんって感じかな?猫耳もぴくぴくしてて可愛いなぁ。
「で、みたとこあんたら転生者だろ?なんか元の世界で使ってた武器とかあるかい?出来るだけ慣れてるもんがいいからな」
「私は無いけど……リク君は?」
「僕も無いけど……出来れば短剣がいいな。使いやすそうだし」
「あいよ。ぼっちゃんは短剣な。じゃあ姉ちゃんは剣なんかどうだい?転生者は剣使う奴が多いって聞くぜ?」
「あ、じゃあそれで」
「あいよ、短剣と剣な。ついでに鞘もサービスしとくぜ。転生者が最初に持ってる金は500銀貨だろう?100銀貨くらいか」
そういえばお金のことを完全に忘れていた。慌ててハイネルを叩き起こし、お金について詳しく聞き出した。
この世界は通貨単位はMらしい。
銅貨、銀貨、金貨、白金貨があり、それは魔力の結晶って設定だ。生き物は全て、魔力が流れる血の様に巡っている。その生き物が死ぬとき体内の魔力が空気中に放出され、お金に変わる、と。
銅貨が100枚で銀貨1枚。銀貨100枚で金貨1枚、金貨100枚で白金貨1枚と次々上がっていく感じらしい。
銅貨は1M、銀貨は100M、金貨は10000M、白金貨は1000000Mとなる。
因みに金貨は余りにも大きいお金のため、普段は銀貨で買い物するのがマナーらしい。
「1000M程度ならこんぐらいの商品だな」
右から順に青銅、鉄、鉄鋼と並んでいる。300M、700M、1000Mの順らしい。
「まだまだ上のもあるけどな。初心者ならこれくらいだろ」
一番高い鉄鋼の剣を持ってみた。軽い。小学校の時に腕白小僧と一緒に木の枝を振り回していたぐらいの軽さだ。
「これいいですね、じゃ、これで」
「あいよ。10000Mな」
ベルトを貰い、腰に下げると急に重くなったので背中に掛ける事にした。どっかのソードなアートのゲームの主人公みたいになったし。まぁいっか。
リク君も鉄鋼の短剣を買っていた。
なんとなくすぐに大冒険に出発だ!って気もしなかったから今日は街をぶらぶらした。
いいんだよ!明日から本気出すし。
夕方を過ぎてまた同じ宿屋に戻ると店主が何か手紙を渡してきた。
『新しい転生者の方。明日、冒険者ギルドへどうぞお越し下さい。 ギルド長』
と、だけ書いている。
そっか。そういえばギルドがあったんだっけ?登録とかすれば色々お得だし、行かない手はないね。
リク君と話して明日はギルドに行くことにした。
部屋に入ると、カーテンが空いていて、外が覗けた。
太陽は二つあるのに、月は一つだけ。その月明かりがこれから狩りに行く冒険者を照らしていた。




