名探偵
私の伯父は警察に勤めていた。その伯父から聞いた話だ。
当たり前のことといえば聞こえは悪いが、伯父達警察がどんなに捜査したところで解決できない事件というものがこの日本には存在する。別に警察を責めている訳ではなく、あくまでそれだけ複雑、もしくは辿るあてのない事件があるということだ。しかし伯父の話では、この日本にはどんな難事件もたちどころに解決してしまう探偵がいるらしい。
それを聞いた私は日本にはそんなすごい人がいるのかと感心したが、そのことを伯父に話すととんでもないと苦い顔になった。
伯父が初めてその探偵を見たとき、その探偵にこう言われたそうだ。
「この事件はもう私が解きました。犯人は○○です。彼は…」
なんとこの探偵は警察さえ知り得ない情報をもとに独自で捜査していたのだそうだ。しかも犯人さえ分かったと。半信半疑で話を聞いているうちに同僚達は確かにそうだと探偵の話をしきりにメモし、署を離れていった。そんなわけあるかと高をくくっていたら同僚から電話があり犯人が逮捕されたというのだ。そんなはずはないと伯父は言う。その事件は伯父達が二年も捜査していた事件なのだ。証拠もなにも警察が持っている。それなのにその探偵はぴたりと犯人を当ててしまった。
そういうことが何度か続くうち、伯父はこの探偵は何者なのかと思い始めたらしい。今ではすっかりここの一員のように振る舞い、証拠もなにも全部持って行ってしまう。同僚にその探偵について尋ねたそうだが電話番号すら知らなかったそうだ。
そしてあるとき伯父の疑惑は確信へと変った。あるテープを手に入れたのだ。それはその探偵が証拠として提出したもので中には犯人の自供が録音されている。だがこっそり上司のデスクに置いてあったそのテープを再生してみたが中には録音などされていなかったらしい。すぐに上司にこのことを話したが聞いてもらえず、同僚には馬鹿にされついには移転になったらしい。
後から知ったそうなのだがその探偵の解決した事件のほとんどの証拠はその探偵によって発見されたもので、更に不思議なことに事件の犯人達は出所後行方不明になっているらしい。
「あれは何かの陰謀に違いない」
酔うと伯父はいつもその話をした。そしてもう一つ必ず言うことが、
「あの探偵、いつもマスクをしてやがるからどんな憎い顔してんのかと思って引っぺがしてみたら…」
その先は絶対に言わない。そしてもうその先を知るすべはもう無いのかもしれない。
伯父はついこの前、65歳の女性を果物ナイフで刺殺したとして逮捕された。もうすぐ定年の警察官がだ。私の知っている伯父は見た目こそいかついものの責任感の強い尊敬できる人だった。そういえば最近同じように警察管の不祥事が多いようだが、彼らは出所後どんな生活を送っているのだろうか。
「まじめな人だったのに…」
月並みだがそんなふうに私は思うのである。
「バ、バーロー。俺じゃねえよ。なあ、一!」