誰かが代わりに書いた日記
私の家に変な日記がある。とはいってもそれは私が高校時代に買ったもので、その当時のブームに乗っかって文学少女を目指した時期があったのだ。しかし私には大した文才はなく、おまけにだらだらと平和に過ごしていた私にわざわざ書く内容なんてほとんどなかったのですぐに飽きてしまった。私はそれをなくしたと思っていたのだが、廊下に落ちていた真新しい日記を母がもったいないと考えたらしく、倉庫にしまっておいたのだそうだ。いくら新しいとはいえ去年の日記なんて誰も使わないと思うのだが。
その日記がおとつい掃除をしているときにひょっこり出てきた。曾祖父の集めていた医学書の間に挟まっており、懐かしかったので私が引っ張り出してきたのだ。
だが先に言っておくと、すぐに私はその日記を持って来たことを後悔することになる。私は確か一カ月も経たずに日記を書くのを辞めたと思うのだが、なんとその日記は最後のページまでびっしりと書かれていたのである。内容はというと気持ちの悪いことに私の生活のことが事細かに書かれていた。何を食べたとか、いつ病気になったとかまで詳しく書いてある。ストーカー…、私の脳裏にねっとりとした嫌な気分が広がった。
怖くなった私は父の元に急いで持って行き、気持ちの悪い本があるのだが見てほしいとそれを見せた。すると父は二三ページ読むとそれを大事そうに机に置き、なぜか私はぽかりと頭を殴られた。意味が分からず立ち尽くしていると俯いた父が小さな声で、
「これは母さんが書いた日記だ」
と言って部屋を出て行った。
部屋に残された私はもう一度その変な日記を手に取った。
「母さん」
そのときには嫌な気持ちは消えていた。代わりにやってくる別の感情に押しつぶされた私はその場から動けなくなってしまった。
ホラー要素がないだと…。
オカルト・ホラー成分は次話くらいに回しました、多分。