鶏のしっぽ
小学生時代に夏休み過ごしていたじいちゃんの家では養鶏をやっていた。俺は毎朝大根の葉っぱを包丁で切り、鶏達がいる小屋に持って行く手伝いをしていた。俺のじいちゃんは小屋に入って葉っぱがいっぱい入ったバケツを入口近くに置いて、鶏が餌を食べている隙に巣箱から卵を取ってくる。子供心に残酷だなあと思いながらも、「コイツら餌食ったら卵のことなんて忘れるっぺ」というじいちゃんの言葉を信じることにしていた。
五年生の夏のある日、じいちゃんが風邪で寝込んでしまった。俺はいつも一人でじいちゃんの家に行っていたから両親はいない。仕方がないので俺は一人で餌をやりに行くことにした。慣れない手つきで大根の葉っぱを切り、バケツに入れて小屋まで運んだ。ゆっくりと扉を開けて隙間から腕を突っ込むようにしてバケツを置くとすぐに鶏達が寄って来た。びっくりしてすぐに扉を閉めたが、卵のことを思い出して恐る恐る中に入った。じいちゃんの代わりにやらなければという気持ちがそうさせたのだろう。
気付かれないようにそっと巣箱に近づき中を覗いた。そしたらそこには大きな蛇がとぐろを巻いていた。慌てて俺はそいつを巣箱ごと外に持って行き、手を突っ込んで山の方に放り投げた。その時はじいちゃんの大切な鶏達が食べられてしまうかと思って無我夢中だったのだが、毒でもあったかもしれないと考えると恐ろしい。
巣箱を外に持って来たついでに卵を回収した。全部で五個。今年はめっきり卵を見ていなかったので早く見せたくて走って台所まで持って行った。
起きて来たじいちゃんが、「餌はやって来たけえ」と聞くのでさっきあったことを得意げに話した。するとじいちゃんは「ひゃー、たまげた」と言ってあの蛇について教えてくれた。
じいちゃんによるとあの蛇はどうやら今年の初夏辺りからあの小屋にいるらしい。そしてじいちゃんが卵を取ろうとすると鎌首を上げて威嚇するので最近では巣箱に近づけないでいたそうだ。大事な鶏を一匹でも殺せばすぐにでもとも思っていたらしいのだが、一向に鶏が死ぬ気配はない。どうやら自分の卵を守っているみたいだったそうだ。蛇の卵を食べるわけではないし、巣箱ではない場所にある卵は問題なく取れるのでそのままにしていたらしい。
「食う分以外はとっちゃならね」というじいちゃんは机の上の卵を指差した。そこには見慣れたものと、そうでない変った形のものとがあった。変った形をしたものの一個からしっぽがでており、ぱたぱたと動いている。俺とじいちゃんは変った形の卵をダンボールに入れて鶏小屋の近くに持って行った。
次の日、すっかり元気になったじいちゃんと鶏小屋に向かった。すると奇妙なことを発見した。鶏がダンボールの中で卵を温めていたのである。近づくと蛇がぬっと現れてシャーと威嚇する。
じいちゃんと俺は入口近くの地面に転がった卵だけ拾って戻った。次の年の夏休み、じいちゃんの家に行くと鶏が倍近くに増えていた。
この話に出てくるのは有精卵でほっとくとひよこになるやつです。農家ならではの。血が混じっていたのが懐かしい…。