III 突然のデートに
レイモンドは私に気付いて貰えたのが嬉しかったのか、尻尾(架空)を振り回している。レイモンドの格好は昨日から変わって若草色の軽装をしている。そういえば旅をしている時はいつも鎧姿だったので、ラフな格好はあまり見ていなかったので新鮮だなとかそんな感想を抱いた。
「君からは聖女の香りがしたので、昨夜から家の前で待っていたんだ! きっと嘘をついたのには重要な理由があったに違いないと思っていた。そして、話しかけようとしてずっと待って今に至る!」
私の香りってなんだ。いや、その前に聞くことがある。
「ずっと着いてきてたんですか……?」
「そうだ! 聖女に行くべきところがあるなら邪魔になってはならんと気配を遮断しつつ、不埒な輩を成敗するために護衛をしていた」
(あなたが一番の不審者ですが??)
私のツッコミは心の中にとどめた。一応、彼は第二王子でこの国で何番目かに偉い人なのだ。彼はお店の人と何やら話をすると、「失礼」と言いながら私の手を取る。
「!」
別に一緒に旅をしていたので今更手が触れる程度どうということはないはずなのに、二年前よりも少しゴツゴツした手のひらに合わなかった時間を感じてしまう。少し顔が熱くなったのは気のせい。気のせいに決まっている。
レイモンドは店主から受け取ったであろう魔法の入ったペンダントを掲げた。これは予め登録していた場所に瞬間移動するものだ。エメラルド色の光がパッと私達を包み込む。
「聖女よ! ミーティア国立公園は私が整備したのだ。引越しの前に是非見て欲しい」
*
「綺麗……」
魔法の光に包まれて私達が転移してきたのは、ネネネモフィラが咲き誇る花畑の中だった。私が以前見た頃は空が赤茶色で、花数もここまでなかった。今では真っ青な空に小高い丘一面のネネネモフィラが咲き誇っている。風がひゅううと吹くと、ネネネモフィラの青い花弁が舞い上がった。
「ようこそ、ミーティア国立公園へ」
(この名前さえなければ)
私は勇気を振り絞って聞いてみる。
「その、どうしてミーティア国立公園という名前なのでしょうか?」
「そんなの決まっている!」
レイモンドは聞いてもらえたのが余程嬉しかったのか、片方しか繋いでいなかった筈の手を、両方の手で包み込む。
(わ……!)
必然的にレイモンドにもの凄く近い距離になる。
「君の名前を沢山呼べるからだ! 各種打ち合わせでも、予算決定の場面でも合法的に君の名前を呼んだり、書いたりできるのが嬉しい! 君の姿を見られない分、何かで発散しなければと苦しくて……」
(うわぁ……重っ)
限界オタクみたいな理論をぶちかまし始めた。念のためもう一度言っておくが、彼はこの国で何番目かに偉い人である。
「今日、聖女の予定は家を決めることのみだろうか? であれば、残りの時間を私にくれないだろうか」
「!」
「今日一日ここでデートをして、あわよくば愛しの聖女の心を射止めたい」
(な、な、なんでそういうこと全部言っちゃうかな!?)
私の顔が真っ赤になっているのは、そういうことを言われた経験がないからだ。
「あの、レイモンド様は以前はそういう愛しのとか言ってなかったではないですか」
「リリーが聖女は鈍いから愛の言葉を伝えなければ意識すらしてもらえないと教えてくれたんだ。さぁ、いざ、行こう!」
レイモンドは私の手を恋人繋ぎにして公園を歩き出す。
リリーは魔王を倒したときのパーティーメンバーで盗人だ。私の脳裏に年上なのに露出狂みたいな格好をしたピンクの髪の女の姿がよぎる。
(あのクソビッチ〜〜!!)
余計なことをしてくれた。私は一人で引きこもっていたいのに、レイモンドと距離を置きたいのに。どうしてこんなデートを……。
(デート!?!?)