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集え、世界のリセットに抗う者たちよ  作者: 丹野海里
第4章 魔族七将・氷狼のヴォニア
35/38

第35話 氷結隔離結界

—1—


 ——三刀屋奈津視点。


 どうして周りはオレから大切なモノを奪っていくのだろう。


 幼少期に庭で壁当てをしていた野球ボール。

 亜紀と遊ぶために母さんが買ってくれたバドミントのラケットとシャトル。

 ある日、気が付くとゴミ箱に捨てられていた。

 犯人は父さんだった。


 娯楽は全て取り上げられ、友人を作ることも禁止され、唯一許されたのは神能を鍛えること。

 神の加護を受けた一族は正しく力を行使する為に努力しなくてはならない。

 当時のオレは父さんの行動や言動が理解できなかった。


 神能を身に付けたところで特に褒めてくれる訳でもない。

 初級→中級→上級→特級といった具合いに父さんが出した課題をクリアする度に難易度が上がり、小学校を卒業するまでに神能の武装化と広範囲攻撃エクステンシブまで習得した。


 3歳年の離れた亜紀は遊び感覚でオレの後をついて回っていたらいつの間にか神能を操れるようになっていた。

 歴代最強の広範囲攻撃エクステンシブの使い手になったくらいだ。

 才能があったんだろう。


 失ったモノで言うと、昔から死に直面する場面が多かった。


 庭に迷い込んだ野良猫。

 父さんの目を盗み、ミルクをあげたら懐いたのだがある時を境に姿を見せなくなったと思ったら車に轢かれて死んでいた。


 人間界に初めてゲートが出現した時にはクラスメイトや親戚が大勢死んだ。

 その辺りで優しかった母さんがおかしくなった。

 心の病に罹ったのだ。

 自暴自棄になり、最後には首を吊って自ら命を絶った。


 魔族の出現を機に自殺者数は急増した。

 魔族討伐部隊が設立され、神能十傑が立ち上がったとはいえ、明日に希望を持てない人達は生きる権利を放棄してしまう。

 誰も彼等を止めることはできない。


 第一次魔族大戦で多くの仲間が死に、神能十傑の六波羅公士郎ろくはらこうしろうさんが目の前で犠牲になった。


 大切な人が亡くなった悲しみと魔族に対する怒りがぐちゃぐちゃに混ざり合い、それと同時にオレの心が壊れていくのを感じた。

 あらゆる感情が消え、元凶を取り除くその1点だけに脳が支配される。

 喉が裂けるほど激しく激昂する反面、心も体も氷のように冷えていく。


 オレと関わった人間は不幸になる。

 だとしたら初めから誰とも関わらない方がいいんじゃないか。

 いつしかそんな思考が頭を過ぎるようになった。


「氷騎士、ギガス様のかたきは俺達戦鎚巨兵団が取る!」


 振り下ろされる戦鎚をギリギリまで引き付けてから紙一重で避ける。

 そして氷剣を一閃。

 胴体を切断された巨人が崩れ落ちるがその屍を踏み越えるように次から次へと巨人が襲い掛かる。

 他にも攻撃力の高いミノタウロスや機動力が武器の兎人族が湧き出てくる。


 大和さんと九重さんがかなりの数を減らしてくれたみたいだが、それでも辺りは魔族でひしめき合っている。

 こいつらの目的はオレの命を奪うこと。

 明確な殺意が込められた一撃は想像以上に重い。


「どうしてお前達はオレから大切なモノを奪う」


「それは、そういう運命だからだ」


 巨人に振るった氷剣をヴォニアが拳で弾き返した。


「ふざけるな。オレが、オレ達が魔族に何をした?」


「自分の罪を忘れたのか? お前は戦鎚のギガスを殺した。俺は団長を失った戦鎚巨兵団の意思を尊重したまでだ。奴らには個人的な恩もあるしな」


 悍ましい殺気と怨念に身を絡め取られそうになるが、ヴォニアと巨人の連続攻撃をなんとか掻い潜る。


「確かにオレはギガスを討ち取った。だがそのギガスは六波羅ろくはらさんを殺した。元を辿れば魔族が人間界に侵略したことが全ての発端だろ。お前達は罪の無い人間を一方的に虐殺した。どんな理由があろうとそれは許されることじゃない」


 兎人族の蹴りが頬を擦り、赤い血が伝う。


「侵略か。お前は本質が見えていない」


 ヴォニアの目の色が変わり、怒涛のラッシュを仕掛けてくる。

 頭で考えてから動いていては防ぎきれない速度と手数。

 オレは反射と直感を信じて氷剣を振り抜く。


「平和ボケした人族が行動を起こさないから俺達が代わりに来てやったんだ。魔界と人間界、どちらかの世界が滅べば片方の世界が救われる。期限までに決着がつかなければ両方の世界が滅ぶ。それが世界のリセットだ」


「第一次魔族大戦で不敗のチェインも同じことを言っていたが、全員が全員そんな突拍子もない話を飲み込める訳がない」


 魔族討伐部隊クリムゾンは最悪の場合を想定して魔族七将討伐作戦を決行しているが、隊の中には疑心暗鬼になっている隊員も少なくない。


「時代の変化についていけない奴は切り捨てるしかない。理解力に乏しい奴が生き残ったとしても淘汰されるのは時間の問題だ。世界は異物を認めない」


 ヴォニアから発せられた強烈な冷気に耐えようと足に力を入れるがじわじわと後方に押される。

 神能の消耗が激しすぎる。

 神能の武装化発動状態で獣人族の軍勢を相手に数分が経過したが、ヴォニアの介入もあって苦戦を強いられている。


 広範囲攻撃エクステンシブを発動すればある程度制圧することも可能だが、オレの神能は亜紀とは違って追加効果がない。

 これだけの数だ。

 1度の攻撃で獣人族を壊滅できなければ反撃を食らって再起不能になるかもしれない。

 それにヴォニアに攻撃を防がれる危険性もある。

 どれだけの余力を残しているかは未知数だが、大和さんと九重さんを相手にして尚、オレと互角に渡り合っている。

 敵ながら恐ろしいポテンシャルだ。


「どうした! 足が止まってるぞ!」


 背後から振り下ろされた戦鎚を氷剣で受け流し、回転で威力を上げた二連撃を撃ち込む。


氷華連牙アイスファング!」


 巨人を相手にするだけでも手は抜けない。

 鍛え抜かれた強靭な肉体に生半可な剣戟は通らない。

 瞬時に弱点を見抜き、確実に仕留める必要がある。


氷狼噛砕フェンリル・バイト


 冷気を帯びた氷狼の牙が足元から出現する。

 真下からオレを飲み込むように顕現した攻撃にこちらも技を選んでいる暇はない。


「氷騎士一閃!」


 攻撃に溜めが作れなかった分、威力が半減された。

 が、しかし、神能を練り込み威力を無理矢理上げてなんとか相殺した。

 周囲は獣人族に取り囲まれて脱出は不可能。

 近接戦闘を得意とする巨人族とミノタウロスと兎人族が入れ替わり立ち替わりで攻撃を仕掛けてくる。

 少しでも態勢を崩すと今みたいにヴォニアが追撃を掛けてくる。

 中遠距離からは矢や石などの投擲が降り注ぐ。

 人間1人を殺す為にここまでするか。

 全ての攻撃を完全に回避することは難しく、徐々にダメージが蓄積されていく。

 攻撃が入る度に魔族の士気が上がる。


 孤独。

 このまま凌ぎ続けてもエネルギーが底を尽きて大和さんのように意識を失うだけ。

 そうなったら最後。

 オレはヴォニアと獣人族に痛めつけられながら殺されるのだろう。


 それはダメだ。

 ここで諦めたらこれまで想いを繋いできた人達に顔向けできない。


 全身から冷気が溢れる。

 怒りや悲しみ、憎しみなどあらゆる感情が薄れていき、五感が研ぎ澄まされる。

 体が冷え、脳がクリアになっていく。


 友人との関係を断ち切られ、母が壊れ、仲間が死に、教え子の未来を奪われた。

 そして恩師が殺された。


 オレと関わった人間はみんな不幸になる。

 だったらオレ1人で。

 初めからオレ1人でやればよかったんだ。

 周りに頼る必要なんてなかったんだ。


 他者の介入の拒絶。

 そういったオレの核が生み出した固有神能オリジン


固有神能オリジン氷結隔離結界アイソレーション


 神能を全て注ぎ込み、氷の結界を展開。

 オレが指定した対象と強制的に1対1に持ち込むこの技は結界外の干渉を一切受け付けない。


 亜紀が得意とする広範囲攻撃エクステンシブとは真逆の能力。

 規格外の威力で多を制圧する亜紀と、理不尽と絶望で個を圧倒するオレ。

 今思えばオレがこういう性格だから亜紀の才能が目覚めたのかもしれない。


「閉じ込められたみたいだな。まあこれで心置きなく戦える」


 ヴォニアが結界の内側から打撃を加えるも結界はびくともしない。


「この技を発動した時点ですでに勝敗は決まっている。1秒でも長く生き延びたければ初めから全力で掛かってこい」


「面白い」


 どんな手段を使われたとしても万に一つとしてヴォニアに勝ち目はない。

 『氷結隔離結界アイソレーション』発動中、オレは文字通り無敵となる。

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