死神が忍び寄る その2
死神が忍び寄る その1で書いたように
当時まだ泳げない8歳の俺は大荒れの海から
ギリっギリ生還できた。
しかし、まさかそれからの人生で
そんなアブナイ事態に
たびたび遭遇することになろうとは、、、。
「1回だけやん。」
今だけ。たった1回だけ。
そんなまさかのところにも地獄への入り口は
突然開くのだ。
若気の至りなどというありきたりなことばで
流すことなんて決してできない
最悪の反省、後悔のあの日。
高校の時からまったくブランクなしに
もう40数年50ccから1100ccまで
15台バイクを乗り続けてきている。
19歳の夏の夕方、不倫相手の7才年上の
ひとを10か月前に買ったばかりの
新車XJ400Dの後ろに乗せて、
よく行く堺の港へと向かった。
普段はけっこうハイペースで走るけど
誰かを乗せる時はスイッチを切り替えて
特に安全に気をつけて運転していた。
それなのに、、、。
眩しい夏の秘密のデートに
浮かれてたのだろうか。
臨海線を右折、ここからは海まで5分ほど
真っ直ぐの一本道。
周りには大きな工場だけ、
4車線もあるのにいつも車は少ない。
今日は日曜で休みだからか前には見渡す限り
気持ちいいくらい1台も走っていない。
「う〜ん、1回だけブッ飛ばそうかあ!」
スピードをどんどん上げる。
90、、、100、、110、、、
たぶん130、140キロくらい?に
達したところでだいぶ前の方の左側の
工場から大きな車がノロノロと出てきた。
俺の前を横切って右折しようとしている。
「エエッ!? 車??」
まだ若く、経験不足で油断していた俺には
完全に想定外だった。
慌ててブレーキをかけても
二人乗りで重くなっているバイクは
なかなかスピードが落ちていかない。
「早く! 早く通り過ぎてくれえ!!」
ゆっくりゆっくり姿を現してきたのは
全長11m、高さも3mほどある
タンクローリー。
4車線のうちの右から3車線を
塞がれた状態に。
右から2車線目から左へ避けていこうと
するけどどうみてももう間に合わない。
鉄の壁がどんどん迫ってくる。
どうする?
どうする?
「う、うっそおおおお!!!!
あ、あかん、、、、、、。
ゴメン!!!!
ほんまにゴメンナサイ!!!!」
後ろに乗せてる彼女に本当に申し訳ない。
選択の余地なく、まだかなりスピードが
出たまま左へバイクを倒す。
ふたりはタンクローリーのすぐ横を
転がっていった。
バイクは巨大なタイヤに激突!!
アロハシャツにピラピラの生地のパンツに
サンダルでアスファルトの上を
10m以上?も滑っていって
あちこち激しく擦りむいて痛かったけど
とにかく、た、助かった、、、。
彼女も同じようにあちこち血を
流しているのを見て胸が激しく痛んだ。
さっきまでピカピカに輝いていたバイクは
一瞬で廃車に。、、、。
エンジンが前へ移動するほどの衝撃だった。
なんとも奇妙なことに救急車の隊員と
検証を終えた警官は
俺の無謀な運転を非難するどこらか
興奮して褒め称えたのだった。
「いやあー、素晴らしい判断力と
運動能力ですよ!!
さすが体育大学の学生さんですねえ。
できるだけ衝撃を抑えようと6m手前まで
耐えてからバイクを転倒させたんですね。
あとほんの一瞬倒すのをためらって
遅れていたらどうなっていたことか、、。」
目の前に前半分がグニャグニャになった
無惨なバイクが横たわっている。
直進の俺でなく、右折のタンクローリーの
運転手の不注意が主な事故原因、
との見解だった。
でも、、、。
その夜は体の熱さと痛みと
罪悪感と恐怖心で眠れなかった。