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「不死身??」  作者: レオ
1/7

死神が忍び寄る その1


ほんのちょっとだけ何かがズレていたら

もしかしたら、し、、、死んでたかも?

そんなアブナあ〜イ経験ありませんか?

今日も明日もいつもと同じように

フツーに過ぎていく。

そんなこと当たり前じゃないか。

でも、、、果たしてそうなんでしょうか??

「不死身??」シリーズ全7話

連載スタート!



1970年8月ー。

その日、和歌山の海は大荒れ。

そんな時に小学2年の俺はオヤジと叔父、

年上の甥2人とモーターボートで

沖へと向かっていた。

オヤジは釣りが大好きで、

釣り竿は20本くらい?、

リールやライトその他たくさんの道具を

持っていた。

釣りにそんなに興味もない俺も

時々夜の港へとつきあわされたりした。

安くはないであろうモーターボートまで

買うというのはよっぽど海での解放感が

気に入ってたんだろう。

ボート本体の値段は知らないけど、

後ろに取り付けるエンジンだけで

8万円もした(1970年当時)、

と言っていたのを覚えている。


オレンジ色の救命胴衣が2つだけ。

子ども3人のうち最年少の俺だけが

着けていなかった。

まあ親のことを悪くは言いたくないけど、

定員たぶん3名だったと思うボートに

軽い小学生とはいえ合計5人で乗って

荒れた海に出るなんて40才過ぎた

いい大人なのに自然をナメてたんだと思う。

せっかくわざわざ車の屋根にボートを積んで

遠くまで来たのにこのまま帰るなんて、、。

そんな気持ちだったのかなあ。


激しく白波を立てながらボートは

沖へと進んでいく。

舵を取るオヤジは後ろに、

俺はその横に座っていた。

重量オーバーのせいかボートの後ろが

かなり沈み込んでいるのが気になる俺は

振り返って海面の動きから

目を離せなくなっていた。

すると不安は的中して、追いかけてきた

小さな波がボートの後ろから入ってきたのだ。

慌てて

「おとうちゃん、水が入ってきたよ!!!」

と告げるとオヤジは後ろを振り返って見た。

次の波はさっきよりも遥かに大きく、

簡単にボートのへりを越えて

ドッとなだれ込んで来たのだ!

一瞬で転覆し、5人は大荒れの海へ

放り出される。

わずか8才にして俺の初めての

「待ったなし」の生存本能を試される

闘いが今、始まった!!!


目を開けると薄く白っぽく霞む水の中だった。

当時の俺はまだ泳げない。

ものすごい大きなうねりを全身に感じる。

「上に行かなあかん。」

なんとか水面から顔を出して

ハアッ!ハアッ!と必死に呼吸をする。

海面がいつもの平らではなく

丘のように大きく歪んでいた。

とにかく手と足で水を下に押さえつけて

体を浮かせるしかない!!!

数秒後、また沈んでしまう。

無我夢中で水面から顔を出して

なんとか呼吸をして、また沈む、

ということを何度も何度も繰り返す。

いったいいつまで続くんやろう??


しばらくすると薄緑の風景の中に

白い脚が動いているのが見えた。

オヤジだった。

オヤジも大波に翻弄されながらも

なんとか俺を抱えて近くに浮いている

ひっくり返ったボートの底のフィンに

つかまえさせた。

「や、、、、、やっと息ができる。」

巨大なカーペットが上下にたなびくように

荒れ狂う海に浮かぶひっくり返ったままの

ボートにつかまって2つ年上のヒロちゃんは

泣き叫んでいた。

すでに疲労困憊の俺は

「年上のおにいちゃんのくせに、、、。」

とその姿をぼんやり眺めていた。


幸いしばらくすると少し波がおさまってきた。

はるか遠くに浜が見える。

「これからどうなるんやろ。」

そのまま20、30分くらい?

漂流していたんだろうか、

漁船が近づいて来たのを見つけて

全員で必死に手を振る。

「助かった、、、、、。」

10mくらいの船の後ろにロープでボートを

つないで浜まで引っ張っていってもらう。

オヤジと叔父が漁師にバケツを

貸してもらってボートから水をかき出す。

船の真ん中には生け簀があり、

イカが泳ぐ姿を初めて見る。

船は安定して浜へと向かっていく。

俺は急に体の芯から恐ろしくなってきて、

体を震わせて大声で泣き始めた。

船から降りるまで泣き続けた。


高価なエンジンだけでなく、

車のキーも海の底へ沈んでしまった。

みんなで手分けして浜辺に落ちている

針金を探す。

暑いから少し開けていたのか、

車の窓のわずかな隙間からサビついた針金を

折り曲げて差し入れてロックボタンに

引っかけてドアを開けることができた。

大人二人で車の屋根に設置したフレームに

ボートを固定する。

なぜか忘れたけどトランクを開けることが

できず、着替えをできないまま

水着で車に乗り込む。

海水でベタベタして気持ち悪い。

たまたまスペアキーを車内に置いていたのか、

そのまま運転して帰ってくることができた。


普段オヤジには逆らうことは滅多にない

オカンだが、この日はものすごく

興奮して怒った。

「だから言うたやないの!!!

こんな日に海に行くのは

危ないんちゃうかって!!!」

オヤジは何も言い返せずに素直に謝っていた。

何日かしてから聞いたけど、

実はオヤジは自分も溺れてしまいそうで、

もうアカンかも、、、と感じていたらしい。


水の中でオヤジの白い脚が動いている場面が

脳裏に焼き付いている。

結果的には全員無事で

ほんとにほんとによかった。

泳げもしない俺はあの日まさに

生と死の境界線ギリっギリを動物としての

本能と運だけで乗り越えたのだった。

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