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呪いの館で人形に変えられました。その姿で館を永遠にさまようがいいと言われたので快適な豪邸生活を目指そうと思います  作者: 鈴木空論
第3部 第2章 人形の謎

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第90話 今後の方針

 『初代セシル』が姿を消してからしばらくの間、誰も口を開こうとしなかった。

 といっても別に重苦しい雰囲気とかそういう感じではない。

 皆それぞれ言いたい事はあるのにどう切り出せばよいのか分からない。そんな空気だった。


「……やれやれ。一方的に喋るだけ喋って消えちゃったわね」


 緊張を振り解くようにマリアンデールが肩をすくめながら言った。

 それから椅子の背もたれに寄りかかって天井を見上げる。


「みんなも色々と思うところはあるでしょう。でも、とりあえず私の考えを言わせてもらっても良いかしら」

「ええ、もちろんですとも」

「そうだな。お前さんなら今の話の真偽も判断も出来るだろうし」


 アルベルトとリンゲンが言った。

 他の怪異たちも頷く。


「ありがとう。……では早速だけど、『初代セシル』が言っていた事は恐らく間違いではないと思う。説明すると長いから詳しい話は省かせてもらうけど、あの子の話は私がロレッタの現状に関して抱いていた疑問点と何ら矛盾するところはなかった。この館と天国だけでなく地獄にもロレッタが存在してしまっている、というのはきっと本当なんだと思う」

「やはりそうなのね……」


 ウェンドリンが真剣な表情で言い、膝の上で合わせていた両手をギュッと握り締めた。

 セシルが言った。


「それじゃあ、地獄へロレッタを助けに行くって事でいいのか?」


 しかしマリアンデールは首を振った。


「いいえ。申し訳ないけれど、私としては当分ロレッタについては保留にしておきたいと考えているわ」

「え、なんで? どうして?」

「……ロレッタ、助けないの?」

「どうして駄目なの、魔女さま」


 イスト、タガー、ポールが口々に言う。

 マリアンデールは少し困ったような顔をした。


「別に助けに行かないとは言ってないわ。ただ、不安要素が多すぎるのよ。とりあえず一番の問題として、今のままでは地獄へ向かわせられるのはセシル一人だけになってしまうし」

「そうなの?」


 セシルが尋ねるとマリアンデールは少し躊躇うような素振りを見せてから言った。


「さっき私が『地獄への侵入や道中の安全確保の方法なら再現できる』って言ったのは覚えてる?」

「そういえば言ってたな。妙な言い方だとは思ったけど」


 セシルが首を傾げる。

 するとリンゲンが腕を組みながら思案顔で言った。


「マリアンデールが自分で用意した手段ではないという事だろう」


 マリアンデールは頷いた。


「その通りよ。『初代セシル』が言っていたのはね、『レイミナ』が使っていた魔術を私が再現するという方法なの」

「『レイミナ』って、マリアンデールさんが半年前に戦ったあいつのこと?」

「ええ、その『レイミナ』」


 『レイミナ』。

 マリアンデールの幼馴染だったレイミナという少女を取り込んだ『この世ならざる者』の特別な個体であり、半年前にイリス神教教会本部での騒動を引き起こした首謀者。


 半年前の騒動の際はマリアンデールが単身で『レイミナ』に挑んでいた。

 そして苦戦したものの何とか倒したというのはセシル含め怪異たちも聞いていたが、その戦いの詳細についてはほとんど知らされていなかった。


 いや、むしろ怪異たちのほうが『レイミナ』に関わる話を避けるようにしていた、というのが正しい。

 元々マリアンデールは自分の功績をあまり話したがらないタイプだったし、本人そのものでは無かったとはいえ、かつての親友を手に掛けた事で精神的に参っていたのが傍目にも見て取れたからだ。


 だから『レイミナ』がそういった類の魔術を使っていたというのは怪異たちにとっても初耳だった。


「あいつが使っていた魔術は名前を付けるなら『封印の膜』とでも言うようなものでね。簡単に説明すると封印の扉を膜のように変形させて自身の身体にまとう魔術だったの。その膜を張った状態であれば封印の扉も難なくすり抜けられるし、地獄の泥や瘴気の影響はもちろん魔術や物理による攻撃さえほとんど無効化してしまうというとんでもない代物だったわ」

「なんだその無茶苦茶な魔術」

「よく勝てたわね……」


 セシルとウェンドリンが愕然とする。

 マリアンデールが『レイミナ』と戦っていた当時、セシルたちはそのほぼ真上に位置する礼拝堂で『ケテル』という別の個体と攻防を繰り広げていた。


 だから尚更衝撃も大きいのだろう。

 もしマリアンデールが破れていたら次に相手をするのは自分たちだったのだから。


 アルベルトが口を開いた。


「するとセシルさんを一人で地獄へ行かせなければならない理由というのは、その魔術に何か問題があるからなのですか?」

「ええ。『レイミナ』戦の後で封印の膜の術式を詳しく解析したんだけど、この魔術は他の魔術と仕様が違っていて術者一人に付き一つの膜しか作り出せないように制限が掛けられているの」

「どうしてそんなものが?」

「単純に魔術としての性能を上げるためね。私たちが使う魔術には発動の制約が多いほど効果が高くなるという性質があるの。ただのバリアならともかく、封印の扉を破壊せずにすり抜けるなんて魔術を作ろうとしたらそれくらいの制限は必要になるのよ」


 『レイミナ』は自分が封印の扉を通り抜けられれば良かったんだから発動数に制限を付けたところで特に支障も無かったんでしょうね、とマリアンデールは付け加える。

 セシルが言った


「つまりオレにその封印の膜の魔術を掛けてしまうと、他の人には同じ魔術は使えなくなる、と」

「そういう事ね。私自身が行けばいいのなら別に問題無かったんだけど、セシルが必須だとするとセシル一人に任せなければいけなくなる」

「なるほどな……」


 リンゲンが独り言のように呟く。

 マリアンデールは続けた。


「他にも細々した気になる点はあるけれど、一番の懸念材料はそこね。だからその辺の問題が解決するまではロレッタの救出に挑むのは待たせてもらいたい。ずっとロレッタを守って来たあなたたちや『初代』さんには歯痒い思いをさせてしまって申し訳ないのだけど」


 マリアンデールはそう言いながらセシルに顔を向けた。

 恐らくはセシルではなく、セシルを通して『初代セシル』に向けた言葉なのだろう、とセシルは思った。

 セシルの耳や目を通して情報を収集している、と『初代セシル』は言っていたのだから。

 ウェンドリンが言った。


「そういう事なら別に構わないわ。ロレッタについてここまで分かっただけでも十分な進展だし、セシルを一人で地獄へ行かせるというのは私としても不安が大きいもの。ただ……問題が解決するまでは挑めないと言ったけれど、解決できる目途はあるの?」

「とりあえず魔王……じゃなかった、神に相談してみるつもりよ。どちらにしろ今回の件はあいつにも報告しておく必要があるからね」


 神というのは文字通り神様。

 マリアンデールたち魔女の上司で、この世界を管理している存在らしい。


 ただしマリアンデールを含む多くの魔女たちからの評判は悪く、あんなのは神ではなく魔王だとか何とか散々な陰口を叩かれているという。

 まあ以前に聞いたマリアンデールが魔女になった経緯や現状の過労動ぶりを見ればボロクソに言われるのも仕方ないように思える。


 とりあえず、ロレッタについてはその相談の返事待ちという事で話はまとまった。


「……さて、それじゃ慌ただしくて悪いけど、私はこれで退散させてもらうわね」

「これからお食事の用意をするつもりだったのですが食べて行かれないのですか?」

「ごめんなさい。少しでも早く頭の中を整理させたいから今日は遠慮しておくわ」

「そうですか。では次の機会にはぜひ」

「ええ、ありがとう」


 マリアンデールは席を立つとアルベルトから差し出された杖を受け取った。

 その時セシルが言った。


「マリアンデールさん、このブローチちょっと借りててもいいかな」

「そういえばまだ渡したままだったわね。別に構わないけれどどうするの?」

「いや、ちょっと試してみたい事を思いついてさ。上手く行ったら教えるから」

「? ……まあ良いけれど、無茶だけはしないようにね」


 マリアンデールの杖の宝石が光を帯びる。

 空間が波打ち始め、マリアンデールはいつものように姿を消した。

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― 新着の感想 ―
[良い点] そのブローチ便利アイテムだよね、あとロリアンデールちゃんを拝めたい時に使えるし
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