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呪いの館で人形に変えられました。その姿で館を永遠にさまようがいいと言われたので快適な豪邸生活を目指そうと思います  作者: 鈴木空論
第3部 第2章 人形の謎

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第88話 初代セシル

「おやおやどうしたのかな、皆さん怖い顔をして。私に用事があってここへ呼び出したのでしょう?」


 黙ったまま人形を見つめる怪異たちに対し、人形がニコリと笑った。

 いきなり召喚されたというのに、まるで事情を把握しているかのように落ち着き払っている。

 想像していたよりも言動が軽いというか、随分と飄々とした態度だった。


「ええと……あなたの事はなんて呼べばいいのかしら」


 ウェンドリンがおずおずと言った。

 すると人形は愛想のいい笑顔を浮かべて答える。


「今まで通り『初代セシル』で良いよ、ウェンドリンさん。本当なら私の方がセシルだけど、今更変えるのは君たちも紛らわしいだろうし」


 その返事に対してウェンドリンだけでなく他の怪異たちも目を見張る。


「どうして私の名前を知っているの? それに今まで通りで良いって、まるで見ていたかのような……」

「そんなに驚かなくて良いだろう? まるで見ていたかのようなじゃなくて実際に見ていたのさ。なにしろ、私の半身はずっとこの館でこうして活動してくれていたんだからね」


 そう言って『初代セシル』はセシルに振り返る。

 突然視線を向けられたセシルは目をぱちくりさせた。


「オレ?」

「そうさ。私は君の……いや、その人形の目と耳を通してこの館で起きてきた出来事をずっと見聞きしていたんだ。だから私の方はマリアンデールさんも含め皆さんの事は全員把握しているよ。もちろん、君の魂が私の身体に納まった経緯もね」

「え、この目と耳で……?」


 セシルは混乱した様子で自分の耳や目元をぺたぺた触わる。

 マリアンデールが言った。


「『初代セシル』を名乗るって事は、やはりあなたがあの時ロレッタを背負って逃げていたお人形さんで間違いないのかしら」

「その通りだよ。あの時は本当にありがとう魔女さん。お陰でロレッタを守る事が出来た」

「そう。ならお礼の代わりにあなたが一体何者なのかを教えて貰える?」

「もちろんさ。私もそれを伝えるためにこうして召喚に応じたんだからね。私たちの事を話して、皆さんからの協力を得るために」


 三兄弟が揃って首を傾げた。


「私じゃなくて、私たち?」

「……協力?」

「どういうこと?」


 『初代セシル』は三兄弟に笑顔を向ける。


「私たちというのは私とロレッタの事だよ。……私は皆さんに、私と一緒にいるロレッタを助け出して貰いたいんだ」

「ロレッタお嬢様なら既にこの館にいらっしゃいますが……あなたと一緒にいるロレッタ様、というのはどういう意味ですか?」

「やはりお前さんはロレッタの嬢ちゃんについても何か知ってるのか」


 ロレッタの名を出された事でアルベルトとリンゲンが目つきを変える。

 他の怪異たちも同様だった。

 だが『初代セシル』は臆する様子もなく返事をした。


「悪いんだけどロレッタの事は一旦置いて自己紹介をさせて貰っていいかな。いきなりあの子の話をしてもきっと飲み込めないと思うから」


 誰も異議は唱えなかった。

 ロレッタの事はもちろん気になるが、この人形についても同じくらい気になるのだ。

 この人形の正体を知ってからのほうがロレッタの状況を理解できるというなら反論する理由はない。

 『初代セシル』は周りの反応に満足そうに頷くと、再びスカートの裾を摘まんだ。


「今更名前まで名乗る必要はないかもしれないけれど、私は『人形のセシル』。生前のロレッタが幼いころ可愛がってくれた人形であり、ベレンが行った魔術の儀式で供物として使われた人形でもある。そして、その儀式が原因でこうして生命を受けてしまった化け物だ」

「いや、化け物って……そこは別に怪異で良いでしょう?」


 マリアンデールが思わず口を挟む。

 しかし『初代セシル』は首を横に振った。


「別に卑下している訳じゃないんだ。ここははっきりしておかないといけない部分なんでね。私は魔女さんが作り出したような純粋な怪異とは身体の造りが違うんだよ」

「というと?」


 セシルが尋ねる。

 すると『初代セシル』は答える代わりに片手を前に出してみせた。


「見ててごらん」


 見てろ、と言われても、それは何の変哲もない人形の腕にしか見えなかった。

 同じ身体のセシルにとっては見慣れた球体間接の腕である。


 こんなのを見ていて何かあるのか、とセシルは訝し気に思っていたが――やがてギョッと目を見張った。

 『初代セシル』の腕の関節の隙間から黒い液体が滲み出して来て、ポタポタと床に滴り始めたのだ。


「それまさか、地獄の泥か……?」

「その通り」


 『初代セシル』は僅かに口端を上げ、腕を降ろした。

 それとほぼ同時に床に散らばっていた黒い水がひとりでに動き出し、床を這って『初代セシル』の足の関節に潜り込んでいく。

 複製召喚によって再現された存在であるためか瘴気こそ発生しなかったが、その挙動は地獄の泥そのものだった。


「驚いたかい? 今見て貰った通り、本来の『人形のセシル』の中には地獄の泥が詰まっていてね、私の半分は『この世ならざる者』で出来ているようなものなんだ。いや、意識の根幹部分は泥の方にあるから『この世ならざる者』がほとんど本体と言っていいか。ベレンが地獄に引きずり込まれる寸前に偶然が重なって生まれた怪異だから、その影響でこんな事になったんだろうね」


 『初代セシル』は自分の手を見つめながら言った。

 その顔からはどんな感情を抱いているのかは読み取れない。


「ただ勘違いして貰っては困るんだけど、身体の半分が『この世ならざる者』だからといって私は君たちの敵じゃない。私はロレッタを守るために生まれてきたんだ。それがベレンの願いでもあったし、私自身もただの人形だった頃に可愛がって貰ったロレッタへの恩返しがしたかった。その感情に嘘偽りは無いよ」


 しかし怪異たちは不安そうな表情を浮かべた。

 何しろ相手が『この世ならざる者』だと分かったのだ。

 過去の経験から、おいそれと信用する訳にはいかない。

 するとマリアンデールが言った。


「……泥を出したのはびっくりしたけど、その辺については別に疑ってはいないわよ」

「こいつを信用するのか、マリアンデール」

「ええ。この子に関しては信じて良いと思うわ」


 リンゲンにそう返したあと、マリアンデールは怪異たちに簡単に説明をした。


 その説明によると、魔術というものはかなり不安定な代物で、発動時の術者の心理状態に強く影響されるものらしい。

 だから暴走していたとはいえロレッタの事を強く想っていたベレンの魔術によって生み出された『初代セシル』がそういう意思をもって生まれて来たとしても別におかしな事ではないのだそうだ。


 それに実際、マリアンデールは数百年前の魔力の暴走の際に『初代セシル』を目撃している。

 あの場には『初代セシル』たち以外はマリアンデールしかいなかったし、マリアンデールが居合わせたのだって偶然みたいなものだ。演技などでは無いだろう。

 『初代セシル』がロレッタを守ろうとしていたという点に関しては疑いようもない。


「ただ疑問なのだけれど、人形の中に詰まった泥が本体だと言うのなら今のあなたはどういう状態なの? 今のセシルの中は空洞だし、そもそもあなた、私と初めて出会った時点で身体の中は空っぽだったわよね? 中に泥が詰まっていたのなら私が気付かなかった訳ないし」

「その通りだよ。あの時点で既に人形の中は空っぽだった。怪異として生み出されてすぐ、私は自分の身体を人形と泥とに分離したからね」

「分離?」

「『この世ならざる者』と怪異、二つの特性を持って生まれてきたせいか私はそういう事が出来るのさ。まあ、説明するよりも実際に見て貰った方が早いね」


 『初代セシル』は自分の足元へ顔を向けた。

 すると間もなく、まるで影が伸びるように『初代セシル』の足から泥が溢れ出した。


 泥は床に広がったあと一箇所に集まってボコボコと泡立ちながら膨れ上がり、人形のセシルと同じ形をした『この世ならざる者』へ変形した。

 唖然とする怪異たちをよそに真っ黒な泥のセシルは『初代セシル』の肩をポンと叩き、『初代セシル』は先程までと変わらぬ調子で口を開く。


「こんなふうに、人形と泥とで別々に動く事ができるんだ。と言っても本体は泥で、人形の方は泥が遠隔操作をしているだけなんだけどね」

「それじゃあ、今は本体の泥の方は遠隔操作が出来ないほど遠い場所にいるの?」


 ウェンドリンが尋ねた。

 泥と人形が同時に頷く。


「その通り。私の本体は今、地獄の奥深くにいるよ。ただ、遠隔操作が出来なくなったのは距離の問題ではなく、この館の穴が封印されて人形との繋がりを遮断されたのが原因だけどね」


 ええと、つまり……と、セシルは頭の中を必死に整理した。


 『人形のセシル』は元々は人間の魂を取り込むような怪異ではなく、『初代セシル』という特定の『この世ならざる者』の個体が専用で使用できる着ぐるみのようなものだった、という事だろうか。

 そしてただの着ぐるみではなく、遠隔操作で自在に動かしたり喋らせたりできるという高性能品らしい。


 さらに今の話や先程のマリアンデールの話から考えると、ベレンが引き起こした魔術の暴走が片付いたら人形が動かなくなったというのは、マリアンデールが呪いの館の地下の穴を塞いだのが原因のようだ。

 もっとも封印を催促したのは『初代セシル』の方だったらしいから、人形が使えなくなるのは承知の上だったのだろう。


 しかし、そうだとすると……。

 セシルはふと疑問が浮かんだ。


 だがセシルが口を開く前に、どうやら同じ疑問を覚えたらしいアルベルトが『初代セシル』に質問をした。


「あなたの特性については大体理解しましたが、本体を分離させて地獄へ行ったというのはどういう理由だったのですか? ロレッタ様を守るのが目的であったのなら、お嬢様の傍を離れる必要性が分からないのですが……」

「確かにこの館にいるロレッタを守るだけならそうだね。でもあの時の私はもう一人も守らなければいけなかったんだ。だから人形と泥、二手に分かれる他にやりようが無かった」

「そのもう一人というのは?」


 アルベルトがさらに尋ねる。

 それに対して『初代セシル』はすぐには答えなかった。

 何かを確かめるように一人一人の顔へ目を向け、それから静かに言う。


「もう一人というのはそのまんまの意味さ。もう一人のロレッタ。……私は地獄に引き込まれたもう一人のロレッタを助けるために本体を分離させたんだ」

「そりゃ一体……どういう事だ?」


 リンゲンが呟くように言った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] いよいよ初代セシルの登場。 人形が着ぐるみだったのは納得ですが、魂を吸い込んでいたのは誤作動なのか知識得るためのものだったのかで初代セシルへの応対が変わりそうですね。 積み重なった謎を一気…
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