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呪いの館で人形に変えられました。その姿で館を永遠にさまようがいいと言われたので快適な豪邸生活を目指そうと思います  作者: 鈴木空論
閑話

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閑話その3: 魔法のランプ(下)

 老人は今でこそ日々の暮らしにも困るような放浪生活をしているが、十数年前までは海の向こうのとある土地で王様のような暮らしをしていたという。

 ただし、『王様』ではなく、あくまでも『王様のような』暮らし。


 好きな事だけをして、まともな仕事などしない。

 巨大な宮殿に住み、昼間から酒を煽り、美女を何人も侍らせ、山のような金銀財宝をニヤニヤ眺めて悦に浸る。

 自分の欲望に任せるままのぐうたら生活をしていたのだ。


 そんな暮らしを可能にさせていたのは一つのランプだった。

 老人が若い男だった頃に謎の遺跡で偶然見つけた魔法のランプ。

 そのランプから魔人を呼び出し、意のままに使役する事ができたのだ。


 ランプの魔人は言葉の通りどんな望みでも叶えてくれた。

 金が欲しいと言えばどこからかは知らないが山のような金貨を運んできてくれるし、女が欲しいと言えば国で一番の美女と評判の女を攫ってくる。


 もちろんそれらが男の仕業だというのはすぐにバレるが、襲い掛かってきた連中も魔人に頼めばあっさり蹴散らせた。

 しかも魔人は天候さえも操る事が出来た。ひどい地震や洪水を起こしてしまう事も出来るし、日照りを起こして国中を飢饉にする事だって出来てしまう。


 手元に魔法のランプがある限り男に敵う者など誰もいなかった。

 本物の国王ですら男の前には跪き、自分が住んでいた宮殿を差し出し、ご機嫌取りの愛想笑いまで浮かべるしかない。

 だから男はどんどん増長し、自分勝手で放漫で、碌でもない存在になっていった。




「……魔法のランプを手にしてからの俺は本当におかしくなっていたんだ。力に溺れた、という言葉があれほど似合う光景は無かっただろう」


 老人は途中で言葉を切り、司祭にそう弁明した。

 それからまた話を続けた。




 男は国中の人々から恨みを買っているのは自覚していた。

 しかし、だからといってそれほど気に掛けてはいなかった。

 どうせ魔法のランプさえあればどうにでもなると高を括っていたし、実際男に手を出す度胸のある者はもはや国内には残っていなかった。


 ところが、である。

 男のそんな生活は思いがけない形で終わりを告げることになった。


 ある日、男はランプが汚れているのに気付き、せっかくだから手入れをしてやろうと考えた。

 そこで近くにあった布を手にするとランプを拭き始めた。


 ところで今更な説明になるが、ランプの魔人を呼び出す方法はランプを三回こすることである。

 そのため、布で三回こすった途端にランプの口から煙が噴き出し、ランプの魔人が現れた。


『ご主人様、あなたの望みは何ですか』

「今は特に用はない。ランプの手入れをしてやっていただけなんだ。帰ってくれ」

『かしこまりました』


 ランプの魔人はシュルシュルとランプの中へ戻って行った。

 男はやれやれと呟き、それから再びランプの手入れを始めた。


 この時の男は大層酒を飲んでいて完全に酔っぱらっていた。

 だからまた何も考えずランプを三回こする。

 煙が噴き出し、ランプの魔人が現れる。


『ご主人様、あなたの望みは何ですか』

「さっきも言っただろう。ランプの手入れをしてやっていただけなんだ。早く帰れ」

『かしこまりました』


 シュルシュル、と魔人は戻る。

 男は苛立ちながらまた三回こする。

 煙が噴き出し、ランプの魔人が現れる。


『ご主人様、あなたの望みは――』

「やかましい!!」


 男は癇癪を起こして魔人を怒鳴りつけた。

 魔人は全く動じることなく、ただ男の言葉に耳を傾ける。


「何なんださっきから何度も何度も。お前のランプの手入れをしてやっているだけだと言っているだろうが! 鬱陶しいからもうしばらく出てくるな!」

『かしこまりました』


 シュルシュル、と魔人は戻る。

 そして男のほうはすっかり興ざめしてしまった。

 ランプの手入れなどしてやる必要はないだろう。

 フン、と鼻を鳴らしてランプを放り出すとその場に横になり、そのままいびきを立てて眠ってしまった。



 そのまま時間は過ぎ、男が目を覚ましたのは真夜中のことだった。

 迎え酒をしようと近くのボトルを手に取るがどれも空っぽ。

 自分で取りに行くのは面倒臭い。

 そこでランプの魔人に美味い酒を取って来させようと考えた。


 近くに転がっていたランプを拾い上げ、三回こする。

 しかしランプはうんともすんとも言わなかった。


「………?」


 こすり方が悪かったか?

 男は首を捻り、もう一度ランプをこすった。

 しかしやはり何も起きない。


 男の顔に焦りの色が浮かんだ。

 必死になって何度もランプをこする。

 しかしやはりランプは沈黙したまま。煙は出ないし魔人も現れない。


「どういうことだ……」


 男は青ざめた。

 すっかり酔いも醒め、ふと寝る前の出来事を思い出す。


 ――鬱陶しいからもうしばらく出てくるな!


 しまった、と男は思った。

 恐らく魔人はあの言葉を願いと勘違いして叶えてしまったのだ。


 魔人にとっての「しばらく」がどれくらいなのかは分からない。

 恐らく一日二日では済まないだろう。もしかしたら一ヶ月、いや一年、あるいはそれ以上……。


 ランプの魔人がいなければ男には何の力も無い。

 もしもランプの魔人を呼び出せないと知られたら、この国の人間たちは恨みを晴らそうと押し寄せてくるに違いない。


 逃げなければ。


 男は身近にあった金目の物を持てる限り持つと、その夜の内にこっそりと宮殿を出た。

 これまでの自分の所業を思い返せば追手を差し向けられてもおかしくない。

 だから出来る限り目立たないように遠くへ逃げようとした。


 身の上を隠し、海を渡って馴染みのない土地へやって来た。

 持ち出した金銀宝石はとうの昔に路銀として使い果たしていた。


 金を手に入れるには働くしかないが、長いあいだ放蕩生活をしていた男には仕事をまともにこなす根気も体力も残っていなかった。

 それに追手がいつ追い付いてくるか分からないという不安が常に付きまとい、一つの場所に留まる事も出来ない。




「……その結果、こんな生活をずっと続ける羽目になっちまった。今じゃ立派な根無し草の乞食さ。まあ、罰が当たったんだろうね」


 男――老人は自嘲したようにそう締め括り、疲れ果てたような笑みを浮かべた。

 司祭は言った。


「話は分かりましたが、そのようなランプを我々に渡して宜しいのですか? あなたにとっては相当に大事な物でしょう?」

「ああ、俺の命の次に大事なものだよ。だが俺が生きている間はもうこいつが返事をしてくれる事は無いんだろうなって予感がするんだ。だから俺が死んだ後もちゃんと管理してくれそうな方々に預けておきたくてね。俺みたいな馬鹿な奴の手に二度と渡る事がないように」


 男はそう言い残すと魔法のランプを残し第三支部を去って行った。

 その後の男がどうなったのかはわからない。


 そして、そんな経緯で転がり込んできた魔法のランプは今もこうして第三支部の倉庫にしまい込まれたままなのだ。



 ※ ※ ※



「以上が第三支部七不思議の一つ、『魔法のランプ』のお話でした。どう? 不思議な話でしょ?」

「そうですね」


 オルレアは頷いた。

 それからランプに目をやる。


 出てくるな、という命令をしてしまったせいで力を失ってしまった魔法のランプ。

 純粋に物語として興味深かったし、何故こんな古いランプが第三支部に置いてあるのかという尤もらしい理由付けにもなっている。

 ただ、普通に考えればフェイトの言うように作り話なのだろう。


「それで、さっき言っていた『こんな所に隠れていた』というのはどういう意味ですか? まるでランプが自分の意志で動いたような言い方でしたけど」

「ああ、あれ? そのまんまの意味よ。私もこのランプ見るの三回目くらいなんだけどさ、毎回見つかる場所が違うの」

「え?」

「いや、別にオカルトめいた話じゃないわ。このランプ、今みたいに新しく来た子に七不思議の話をする時くらいしか使わないのよね。だから普段は無意識に視界から消しちゃうし、決まった置き場も無いから邪魔に感じた人がいれば適当に移動させちゃう。それで毎回見つかる場所が違うってだけの話」

「なるほど」


 不特定多数の人間が勝手に移動させてしまうのを隠れると表現していただけ。

 別にそこまでおかしな事ではない。

 やはりこれは魔法のランプなどではなく普通のランプなのだろう。


 しかし……。

 自分でも良くわからないがオルレアはランプが気になった。

 何だか分からないが引っかかるのだ。


 以前のオルレアは魔法とかそういった物は空想することはあっても本気で信じたりはしていなかった。

 しかし弟を探しに呪いの館へ行き、それまでの常識を覆されるような出来事に何度も遭遇した。

 この世には怪異とか魔術とか呪いとか、そういった自分の理解を超えた力が実在する、と思い知らされたのだ。

 その影響で無意識にこう言った話に過剰反応するようになってしまっているのかもしれない。


 オルレアはランプを見つめながらそんな事をぼんやりと考えていた。

 それはそんなに長い時間では無かったつもりだったが、実際はかなりの間ランプを凝視していたらしい。

 フェイトが心配そうに言った。


「オルレア、どうしたの? 大丈夫?」

「ごめんなさい、心配ありません。ちょっとボーっとしちゃってて」


 オルレアは誤魔化すように笑みを浮かべるとランプを元の箱に戻した。

 だが蓋を閉めようとしたときフェイトが言った。


「かなり気になるような感じだったけど、それなら試しにランプこすってみる?」

「……え? そんなことして良いんですか?」

「どうせ作り話なんだし構わないでしょ。それに私もちょっとだけ興味あったし」


 もしも本当に魔人が出てきたら私たち大金持ちになれるわよ?

 フェイトは冗談めかしてそんな風に言った。

 といっても本音は欲望というよりも単純な興味というか、怖いもの見たさといった感じのようだ。


 いいのかな、とオルレアは少し迷ったが、悶々と考えるよりは試してみたほうが早い。

 オルレアは掃除用の布巾を持ってきた。


 丁度いい高さの箱があったのでそこにランプを置き、その箱を挟むようにオルレアとフェイトが向かい合って立つ。

 そしてオルレアは片手でランプを抑え、もう一方の手に持った布巾をランプに近付けた。


「三回磨けば良いんですよね?」

「そうね」


 恐らく何も起こらないだろう。

 オルレアはそう思っていたし、フェイトの顔にも似たような事が書いてあった。

 しかしどこか緊張した空気が辺りを包む。


「では行きます」

「どうぞ」


 オルレアは無意識に唾を飲み込み、それから布巾をランプに当てた。

 そして慎重に三回こすってみたのだが――。


「……何も起きないわね」

「みたいですね」


 びっくりするほど何も起きなかった。

 拭いた部分が多少綺麗になったかな? という程度。


 こうなるのは分かっていたはずなのに何だか気が抜けてしまい、オルレアとフェイトはどちらともなく顔を見合わせて笑った。

 やはりこれはただのランプなのだろう。

 少なくとも今は。


「さて、そろそろ掃除を再開しますか」

「そうですね」


 ランプを元の箱に仕舞って棚に置き、二人は手分けして残りの掃除を片付けた。

 そして何事も無かったように――いや、実際何も起きなかったのだが――談笑しながら倉庫から出て行ったのだった。

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[良い点] バッドエンドのアラジンさん
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