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呪いの館で人形に変えられました。その姿で館を永遠にさまようがいいと言われたので快適な豪邸生活を目指そうと思います  作者: 鈴木空論
第2部 第6章 決着

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第74話 鉄火人形

 謎肉の燻製肉は魔力が濃縮されている。

 そのため身体の小さいセシルはひと欠片食べただけで許容量を超えてしまい、魔力が外に漏れ出して赤く発光する。

 ひと欠片ですらそれなのに、それを短時間で大量に取り込むのは明らかな過剰摂取。


 燻製肉を飲み込んだセシルはまるで火が入った鉄のように赤々と輝いていた。

 ほんの僅かに衝撃を与えただけで砕けてしまいそうな危うい雰囲気を放っている。


「な、何やってるのよ! 前にリンゲンさんから言われた事を忘れたの!?」


 ウェンドリンは真っ青になりながらオロオロと両手を彷徨わせた。

 セシルは初めて謎肉を食べ過ぎて発光した際、小人の怪異のリンゲンから食い過ぎると爆発して死ぬぞと釘を刺された事があるのだ。

 本当に爆発するかはともかく危険な事は間違いないだろう。

 しかしセシル本人はケロリとして答える。


「いや、危ないのは分かってるよ。でも多分これくらいしないと上手くいかないと思って」

「一体何をするつもり?」

「複製召喚さ。――マリアンデールさんの複製を呼び出して、あの地獄の穴をどうにかして貰うんだよ」


 セシルはそう言いながら胸元の青いブローチに軽く触れた。

 教会本部に広まっていた悪霊の噂をかき消すためにオルレアに何度か使って貰った、複製召喚の術式が込められたあのブローチだ。


 複製召喚とは、相応の魔力と引き換えに使用者に縁のある者の複製を呼び出せる魔術のことだ。

 召喚された複製は元の存在と同じ記憶や能力を持つ。

 だからマリアンデールの複製を召喚する事が出来れば地獄の穴の封印も可能なはずなのだ。


「まあ、この人形の身体でマリアンデールさんを召喚できるかは試してみるまで分からないけどね。怪異と魔女じゃ魔力の量が桁違いらしいし。でも今は迷っている場合じゃないだろ?」

「そうは言っても……もし駄目だったらその爆弾みたいな魔力はどうするのよ」

「その時は館の皆を代わりに呼び出すよ。そうすればどちらにしろオレが直接呼びに行くより早い」


 いきなり燻製を一気食いした時は気でも触れたのかと思ったが、一応は思い付きでやったのではなくある程度考えた上での行動だったらしい。

 とはいえウェンドリンは溜め息を付いて頭を抱えた。


「あなたの考えは分かったわ。でも次からそういうのは一言断ってからやってちょうだい。寿命が縮むかと思ったんだから」

「わかった」

「返事だけは良いんだから……。それじゃ、私は時間稼ぎをすれば良いのね?」

「うん、頼んでいいかな」


 複製召喚は発動から召喚までにある程度の時間を要する。

 そしてその間は集中しなければいけないので無防備になってしまうのだ。


「最初から囮役はやるつもりだったからね。任せておきなさい」


 セシルの頭にポンと手を乗せたあと、ウェンドリンは背を向けて少し移動し、長椅子の背もたれから飛び出していった。


「ヒヒヒッ」


 獲物が姿を確認した『ケテル』が歓喜したように叫んで拳を撃ち出した。

 ウェンドリンはそれを紐で危なげなくいなす。

 あの様子なら大丈夫だろう、とセシルは思った。


「よし」


 セシルは目を閉じ、胸元の青いブローチを握った。

 身体を包む赤々とした輝きが次第に弱まり、ブローチが仄かに輝き始める。


 複製召喚を自分で行うのはこれが初めてだったが、オルレアがやるのを何度も見ていたしコツも聞いていた。

 召喚したい対象の事を集中して考えるようにすれば召喚の成功率は上がり、また召喚までの時間も短縮できるらしい。


 対象の事を考える、というのは容姿に限った話ではない。

 住んでいる場所や趣味、印象的なやり取りなど、対象に関わるあらゆる記憶を頭の中に浮かべればいいのだ。


 セシルは呪いの館やそこでこれまでにあった出来事などをひたすら思い返した。

 そうしている内に、次第に心の中にうっすらとしたシルエットが浮かび上がってきた。

 館の怪異たちとマリアンデールだ。


 最初は陽炎のようにもやもやとしていたが、やがて実際に目の前にいるかのようなはっきりとした像に変わる。

 本物そっくりな石像みたいな感じである。


 あとはこの中からマリアンデールを選んで手元に引き寄せればいいはず。

 引き寄せるには引き寄せるイメージをすれば良いらしい。

 オルレアからそう聞いた時はピンと来なかったが、いざこうして自分がやる番になってみれば感覚的にどうやるのかは理解できた。

 これなら召喚する段階までは問題なく持っていける。


 ただ、ここで別の問題が起きた。


「……あれ?」


 セシルは目を閉じたまま眉を寄せた。

 心の中に浮かんだ像たちの中に一人、おかしな物が混じっているのに気付いたのだ。


 人形のセシル。

 怪異たちに混じって、何故か自分が並んでいた。


 いや、正確には自分ではない。オルレアでもない。

 全く知らないはずの何かが、自分と同じ姿をしてそこに立っていた。

 他の像は無表情なのに、どういう訳かそのセシルは明確にこちらへ笑みを向けている。


 なんだこいつは、とセシルは気味悪く感じた。

 だが、ふと思い当たった。


 ひょっとしてこいつは夢の中に出てきたもう一人のセシルだろうか。

 こいつを召喚したら何が起きたのか詳しい話を聞けたりするのか?


 そう考えた途端、そのもう一人のセシルは引き寄せてもいないのにこちらへ近付いて来た。


「いや待て、ちょっと待て」


 このままではもう一人の自分が召喚されてしまう。

 まさかこいつ自分で動くのかと背筋に寒気が走ったが、そうではないとすぐに気付いた。

 もう一人のセシルに意識を向け過ぎたせいで無意識に引き寄せてしまったらしい。

 気持ちを落ち着かせて念じるともう一人のセシルの動きは止まり、元の位置まで引き下がった。


 あの夢や突然の『魂の交換』については確かに気になるが今はそれどころではない。

 まずはマリアンデールの召喚を試してみないと……。


 あらためてマリアンデールに意識を集中する。

 今度は特に問題も無くマリアンデールの像を引き寄せる事が出来た。


 残る障害はこのまますんなりマリアンデール召喚が上手くいくかどうか。

 魔女を召喚するに足る魔力をセシルが用意できたかどうかである。

 セシルはそれまでより一層集中し、ブローチを握る手に力を込めた。



 ※ ※ ※



「ほらほら、こっちよ!」


 ウェンドリンが呼び掛けながら紐をヒラヒラさせて挑発する。

 『ケテル』はそれに応えるように奇声を上げて拳を撃ち出した。

 今度は片腕ではなく両腕による二連発。

 ついさっきまでそんな芸当は出来なかったはずなのに、やはり短時間で恐ろしいほど成長している。


「あらら、そんな事まで出来たのね。でも数を打てばいいってもんじゃないわよ」


 ウェンドリンは慌てる様子もなく小刻みに飛んでそれらをかわした。

 ただ、口では余裕を見せているものの本音ではかなり焦っていた。

 このペースで成長し続けられたら遅かれ早かれ避け切れなくなる。

 『ベレン』とは別の方向で厄介極まりない個体だった。


 しかしセシルには囮は任せろと伝えたのだ。

 複製召喚が発動するまでどうにか持ちこたえないと……。


 その時、大量に並んだ長椅子のうちの一箇所が突然輝き始めた。

 離れた距離にいるウェンドリンでさえ目が眩みそうになるほどの強い光。

 『ケテル』も突然の出来事に驚いた様子でそちらに顔を向けている。


 あそこはセシルが隠れていた場所だ、とウェンドリンは思った。

 きっと複製召喚が成功したのだ。


 激しい光がやがて治まると、そこには光を無理やり固めたような大きな球が浮かんでいた。

 光球はぐにゃぐにゃと歪み、自らを圧縮するように縮みながら特定の形を形成していく。

 そして途中で二つに分離した。

 一方は細長い棒。もう一方は人型。


 間違いない。マリアンデールだ。

 あの召喚が完了すれば一気にこの場を引っくり返す事が出来る。


 だが。


「キャヒヒヒッ!」


 本能的に危険を察知したのか、まだ成型途中の光球に向けて『ケテル』が拳を放った。

 いけない、とウェンドリンは目を見張った。

 しかし防ごうにもウェンドリンの位置からでは距離があり過ぎる。

 間に合わない。


 泥の拳は真っ直ぐ光球へ飛んで行く。

 そしてそのまま激突したがのように思えたが……。


「――え?」


 ウェンドリンは思わず声を漏らした。

 拳が止まった。

 泥の拳は光球には当たらず、僅か手前の空中でピタリと止まっていた。

 そして凍りついたように固まったかと思うと全体にヒビが入り、粉々になって消えてしまった。


「……舐められたものね。そんな攻撃がこの私に届くとでも?」


 ほとんど人の形になっていた光球が言葉を口にした。

 それに今のはマリアンデールが『この世ならざる者』を処理する際によく使う魔術だった。

 どうやらまだ姿が完全ではないあの状態でも戦えるらしい。


 ただ、少し妙だった。

 今の声はマリアンデールのようではあったが、マリアンデールとは微妙に違うようにも聞こえた。

 それに光の人型の背丈も杖の長さも、実際のマリアンデールの半分すらないような……。


 光の塊はさらにグニグニ動き、光を次第に弱めながら細部を成型していった。

 黒いドレス、長い銀髪、黒い帽子。

 そして赤い瞳が作り出されると発光は完全に無くなり、一人の人物がその場に舞い降りた。


 構成する要素は確かにマリアンデールと同じものだった。

 しかしそれはどう見てもマリアンデールでは無かった。

 召喚したセシル本人が呆気に取られた様子で言う。


「お前……一体誰だ?」

「失礼ね。自分で呼び出したくせに分からないの? マリアンデールよ、マリアンデール」


 五歳にも満たないような幼い姿のマリアンデールがプクッと頬を膨らませて言った。

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