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呪いの館で人形に変えられました。その姿で館を永遠にさまようがいいと言われたので快適な豪邸生活を目指そうと思います  作者: 鈴木空論
第2部 第5章 因縁の魔女

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第66話 交渉と地獄

「協力ですって?」

「そうよ。私を神の元へ案内して貰いたいの」


 『レイミナ』は言った。

 マリアンデールは眉をひそめ、相手の顔をじっと見つめた。

 どうやら冗談を言っている訳では無いようだが……。


「あいつに会って何をするつもり? 事を構えようとか考えてるならお勧めしないけど」

「そんな無謀な事はしないわ。私はただ神に直接会ってお願いがしたいだけ。僅かでも構わないから私たちにもっと慈悲を掛けて欲しいとね」

「慈悲……?」

「具体的に言うと地獄の環境を改善して貰いたいのよ。……あなたもずっと管理してきたのだから、今の地獄が異常な状況なのは理解しているでしょう?」

「それは、まあ……」


 マリアンデールは少し言葉に詰まった。


 この世界における地獄とは、いわば浄化槽のような物だった。

 生まれ変わるには相応しくないと判断された魂や、生まれ変わるにしても余計だとして魂から切除された穢れた部分。そういった物がこちら側の世界から隔離され、放り込まれる空間。

 それが地獄と呼ばれる場所だったのだ。


 泥は長い時間が経てば浄化されて無害な物へと変質し、やがてこちら側の世界の土や海の元となり、再び生命の営みの輪に戻る事が出来るようになる。

 そんな循環を想定して神が作り出した施設なのである。


 だが、現実は理想通りには運用できていなかった。

 浄化されるよりも追加投入されてくる穢れのほうが圧倒的に多かったのだ。

 結果、現在の地獄は本来の許容量を遥かに越えた量の泥で溢れ返ってしまっていた。


 さらに、長い間処理をされずに放置された泥が濃縮され特定の形を為し、まるで個の生命体のような振る舞いをするようになった。

 それが『この世ならざる者』と呼ばれる存在なのだ。


 つまり『この世ならざる者』は最初に世界を作った神の設計ミスのために生まれた、と言えなくもない。

 あるいは、世界の穢れていく早さがここまで加速するとは神にすら予想できなかった、という事なのかもしれないが……。


 『レイミナ』は言った。


「運良く私はこうしてこちらの世界へ自由に出入り出来るようになった。でも、この封印の扉の向こうでは今も数え切れないほどの同胞たちが泥の中で悶え苦しんでいるの。だから私は少しでも彼らの為になる事をしてあげたいのよ」

「いきなりそう言われても信じられないわね」


 マリアンデールがこれまでに対応した『この世ならざる者』は、『ベレン』や『レイミナ』のような特殊な個体以外はおよそ感情という物を持ち合わせているようには見えなかった。

 目に付いた生き物にただひたすら襲い掛かり、その身体から瘴気を撒き散らす。

 攻撃を加えても怯む事も無く、自らの身体がどうなろうとまるで気に掛けない。

 どちらかといえば機械のような印象だったのだ。


 だが『レイミナ』はマリアンデールの言葉を聞いて笑った。

 それまでと違う、どこか哀しそうな笑い方だった。


「でしょうね。私たちはこうして誰かの身体を借りなければ喋る事はおろか理性を維持することすら出来ないもの。でもね、泥の姿のままでは感情を表に出すことができないだけで、私たちはちゃんと個々の意思や心を持ち合わせているのよ? 何しろ、泥といっても元々は魂やそれに類する存在の集合体なのだから」

「………」

「とはいえ、あの泥の海の中では感情なんて手にしなかったほうがどんなに楽だっただろうって考えてしまうけどね。それくらいこの扉の向こうは苦しい所なの。まあ、地獄なのだから苦しいのは当然だと言われたらそれまでなんだけど」


 マリアンデールは考えた。

 この話はどこまで信じて良いのだろうか。


 感傷的な事を言って相手の油断を誘うのは『ベレン』が呪いの館の怪異たちに使った手だ。

 『レイミナ』が今こんな話をしているのは恐らくそれと同じだろう。

 『この世ならざる者』にも感情があるというのは本当なのかもしれないが、そもそも地獄行きと判断されたような魂が集まって出来た存在だ。碌な考えをしていないに違いない。


 とはいえ、相手の狙いが未だにわからない。

 隙を突いて襲ってくるような気配もない。

 しばらくはこのまま話を合わせて出方を窺うべきか。

 マリアンデールは口を開いた。


「大体の事情はわかったわ。でも神に会ったところでどうしようもないわよ。あいつも地獄の現状は把握しているけど、神のくせにあいつにも今はどうしようもないらしいから」


 これは本当の事だった。

 マリアンデールたちも地獄を正常な状態に戻せるなら戻したいのだ。

 しかし今のところ効果的な手立てが無かったのである。

 だが、『レイミナ』は言った。


「その事なら大丈夫。改善策なら私が用意しているから」

「……本当なの? どんな方法?」

「それはこの場では言えないわ。神に会わせてくれたらその時に話す」


 『レイミナ』はそう言って人差し指を口元へ添えた。

 マリアンデールは眉を寄せた。


「この場で話さない意図が分からないんだけど」

「ごめんなさいね。でもきっと実際話す時になったら分かると思うから」


 『レイミナ』は申し訳なさそうに言う。

 マリアンデールはどう反応するべきか迷った。

 ただの出まかせだろうか。それとも本当に地獄の状況をどうにか出来る策があるのか。


 どちらにしてもこんな曖昧な言葉だけで神の元へ連れて行く訳にはいかない。

 そこでマリアンデールは肩をすくめて見せた。


「それだと私も仲介する訳にはいかないわね。そもそも、私がそれに付き合う利も無さそうだし」

「あら、メリットならあるわよ。そうでなければ協力とは言わないでしょう?」

「何があるのよ」

「まず一つ目の利点として、あなたの仕事が減るわ。地獄の問題が解決すれば私たちを管理する手間も減るでしょう? 今までのように死んだ目で各地の扉をチェックして回らなくても良くなるはずよ」


 マリアンデールと『レイミナ』は今回が初対面のはずだが、どうやら相手はこちらの事を随分知っているらしい。

 封印の扉の向こう側からずっとマリアンデールの様子を探っていたのだろうか。


 ただ、マリアンデールはその利点を聞いても薄い反応のままだった。

 しかし『レイミナ』は焦る様子もなく話を続けた。


「そして二つ目。あなたにとってはこっちの方が重要だと思うんだけど……」


 『レイミナ』はそこまで喋ると一度言葉を切った。

 そして間を置いた後、イタズラっぽい笑みを浮かべて言った。


「私の願いを聞いてくれて、神との交渉も上手く行ったら――このレイミナの肉体を解放してあげる」

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