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呪いの館で人形に変えられました。その姿で館を永遠にさまようがいいと言われたので快適な豪邸生活を目指そうと思います  作者: 鈴木空論
第2部 第4章 黒幕

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第59話 判明

 セシルたちは仮眠を取ったあと、深夜になってから静かに部屋を出た。

 悪霊の噂の真偽を確かめるためだ。


 結論から言うと、その夜セシルたちが見回った範囲では特におかしな物は見つからなかった。

 ポルターガイストの三兄弟を呼び出して地下へ潜って貰ったりもしたがそちらも収穫はゼロ。

 マリアンデールの言っていた通り床の下には秘密の地下室と封印の扉はあったものの悪霊のような怪異の類はおらず、それどころか地下室は土埃や蜘蛛の巣だらけでここ最近誰かが立ち入ったような形跡も無かったらしい。


「やっぱり噂自体はただの噂ってことなのかな」

「どうなのでしょう。ですが初日ですし、結論付けるのはまだ早いかと」

「それもそうか」


 特筆するような点といえば、見回りを切り上げて部屋に戻る途中でカルセド枢機卿――セシルたちに悪魔祓いを任せることに最後まで反対していたあの男にばったり出くわしたことくらいだろうか。

 まあ出くわしたといっても、互いの存在に気付いた後、カルセドはこちらを一睨みするとさっさと別の通路へ行ってしまったので一言も言葉を交わすことは無かったのだが。


「なんだよあいつ。本当に感じ悪いな」

「あの様子は、カルセド様も見回りをしていたのでしょうか」


 後でサミーから聞いたところによると、どうやらセシルたちが来るまではカルセドが悪霊の噂の鎮静化を任されていたらしい。

 それでずっと昼夜を問わず見回りをしたり、噂話をしている信者を見掛けてはそんな物を信じるなと説教したりと本人なりに奔走していたのだそうだ。


 しかしいくら頑張っても成果は現れず、それどころか噂はさらに広まり、教会の運営にまで影響を見せ始めた。

 それで苛立ちを覚えていたところへ突然セシルたちがやって来て、オーウェンの鶴の一声で悪霊の件を任せることになってしまった。


 カルセドにしてみれば自分が役に立たないと判断されたと感じているのだろう。

 オーウェンの様子を見る限り別にそんな事はないようだし、仮にそうだったとしてもそれを理由にセシルたちに敵意を向けてくるのは逆恨みもいいところだろう。

 面倒事にならなければいいが、とセシルは思った。



 ※ ※ ※



 翌日もセシルとオルレアは昼過ぎに目を覚ました。

 それから遅い朝食を食べ、適当に時間を潰して夕方になったら仮眠を取り、深夜に起きて悪魔祓い(自作自演)や調査を兼ねた見回りを行う。

 そして明け方前に部屋へ戻り、また昼過ぎまでベッドに横になる。


 ここに滞在する間はずっとこの生活リズムになりそうだった。

 日中に活動するサミーとはすれ違い気味になってしまうが、このほうが夜の見回り中に眠くなることも無くて都合が良いのだ。


 そしてそんな生活を続けながら、空いた時間に二人はお互いの元の生活について話すようになっていた。

 最初はオルレアがセシルに尋ねたのである。

 呪いの館の怪異って普段はどんな風に暮らしているんですか、と。


 セシルは自身の生活について尋ねられたことに特に疑問は抱かなかった。

 怪異の日常風景なんて普通に生きていたら知ることも無いのだからそりゃ気になるだろう、と思ったのだ。


 ただ、セシルが楽し気に館での出来事を語っていると、オルレアが時折寂しそうな顔をするのが気になった。

 何か気に障ることでも言ったのだろうか、とセシルが心配顔で尋ねると、オルレアはすぐに笑顔に戻って「何でもありません」とは言ってくれたのだが……。



 セシルから話すだけでなく、セシルもオルレアからも教会での生活のことを聞いた。

 というかむしろセシルにとっては本音を言えばそちらがメインだった。

 教会に拾われてからのオルレアがどんな生活をしていたのか、セシルのほうも気になっていたのだ。


 聞いたところでは、どうやらオルレアはセシルが想像していたより不自由の無い生活を送れているようだった。

 当り前ではあるのだが食事は毎食食べられるし、まだ見習いということだったがちゃんと給金も出ているらしい。

 入りたての頃に比べると今は仕事量も覚えることも増えて来て大変ではあるものの、浮浪児だった頃に比べればとても充実している、とオルレアは笑顔で話してくれた。


 また、こんな話も聞いた。


「……じゃあ、サミーさんに拾われた浮浪児ってオルレアさんだけじゃないのか」

「そうですね。私が知っているだけでも第三支部には四人います」

「でも今の話からすると教会に入るまでの準備費用は全部サミーさんの自腹なんだろ? なんでそんなことしてるんだ?」


 セシルは首を傾げる。

 するとオルレアは困ったように眉をハの字にした。


「あの方はあくまでも自分の出世のためだと言っていました」

「出世?」

「はい。浮浪児を保護すれば上司の心証も良くなるし、出来の良い育ち方をすれば将来自分の立場を有利にするための手駒として使えるから、と。……ですが、恐らくあれは本心では無いと思います」

「どうして本心じゃないってわかるんだ?」

「単純に意味がないからです。浮浪児だった者たちに掛けたお金を賄賂にでも回していれば出世など簡単に出来ていたでしょうし、サミー様は時折私たちの様子を見に来て下さることはあっても無茶な要求をしたことは一度もありませんから」


 あの方は根本的にお優しい方なんだと思います。そういった感情を外に出さないのでそれなりに長く関わらなければ分かりにくいのですが。

 オルレアはそう言って微笑んだ。


「そうなのか……」


 セシルはようやくオルレアがサミーに信頼を寄せていた理由を理解できた気がした。

 浮浪児だったオルレアをサミーが拾ったとウェンドリンから聞いた時は、正直なところサミーには下心でもあるんじゃないかと気になっていたのだ。

 しかしそうでは無かったらしい。

 オルレアにとってサミーは恩人というだけでなく心から尊敬できる相手なのだろう。

 言葉の端々からは本心からそう考えているらしいことが感じ取れた。



 セシルはそれ以外にも様々な話を聞いた。

 そして今更ながら、この人はもう自分とは違う世界の人間なんだな、と思った。

 もちろん、別の世界を選んでしまったのはむしろセシルのほうだ、というのは理解していたのだが。


 ただ、それは悲しい以上に嬉しく感じられた。

 時々鬱陶しくはあったが大好きだった姉がそんなに恵まれた生活を掴んでくれたのだ。

 さっさと悪霊の噂話など解決して、この身体もオルレアにどうにかして返し、一日も早く元の生活に戻してあげなければならない。


 セシルは改めてそう考えた。

 お互いの事を話す際、時折オルレアが何か問いたげな視線を向けてはそれを飲み込んでいることにはまるで気付いていなかった。



 ※ ※ ※



 悪霊の噂の件はそれから特に進展することもなく、二週間ほどが経過した。

 しかし転機は唐突に現れた。


 ある日の夕方、そろそろ仮眠するかと用意を始めていたセシルの元へサミーが訪ねてきた。


「あら、サミー様」

「何かあったんですか?」


 オルレアとセシルは思わずそう声を掛けたが、何かがあったらしいことは尋ねるまでもなくサミーの顔を見れば一目瞭然だった。

 サミーはそれ程はっきりと緊張した面持ちをしていた。


 大体、サミーはセシルたちがこの時間になったら仮眠に入ることも知っている。

 余程の用事が無ければ部屋に来たりはしないのだ。

 勧められた椅子に腰かけたサミーはハンカチで汗を拭いながら言った。


「噂を広めていた犯人が分かりましたよ」

「本当ですか?」


 セシルは意外に思った。

 狙い通りではあったのだが、セシルたちが悪魔祓いをするようになってから地下の悪霊の噂はすっかり影を潜めていた。

 そのためほとんど誰も話題にしなくなっていたし、一応は上からも他人に言いふらすなという通達が出ている。

 だから部外者であるサミーが探りを入れても中々思うように情報が集まらず、まだまだ時間が掛かるかもしれない、とこの間サミー自身が言ったばかりだったからだ。


「実は、予想外の線から糸口が掴めましてね。まあ細かいことは君たちに話しても仕方ないか。とにかく簡単に裏も取りましたしほぼ間違いないと思います」

「それでその犯人というのは……」

「それが……ケテル枢機卿のようなのです」


 ケテル枢機卿。

 セシルたちが初日にここを訪れた時、途中から話し合いに参加してきた人当りの良さそうな中年女性だ。


「へえ、あのおばさんか」

「そんな……」


 セシルにとっては一度会った事があるだけの人なので薄い反応だったが、オルレアのほうは少なからず衝撃を受けている様子だった。

 枢機卿といえば教会の代表のような立場の人間だ。それが犯人だったというのは見習いとはいえショックが大きいらしい。


 しかしそれはサミーも同じこと。

 冗談で口に出来る名前では無いだろうし、裏取りも入念に行ったに違いない。

 その上でセシルに伝えたのだからほぼ間違いはないだろう。


 噂を広めている人間が誰かわかったらすぐに知らせるように、とマリアンデールからは言われていた。

 犯人の後ろには洗脳魔術を扱える謎の黒幕が控えているためだ。

 これ以降は恐らくマリアンデールに任せることになる。


「それでは、早速ですけどマリアンデールさんを呼びます」


 セシルは懐からマリアンデールに連絡するための道具を取り出そうとした。

 だがその直前、ドアをノックする音が聞こえた。

 セシルは出そうとしていた道具を再び懐へ引っ込め、声を掛けた。


「はい、どちら様ですか」


 すると、扉の向こうからノックの主の明るい声が返って来た。


「ケテルです。ちょっとお話をしたいのだけど宜しいかしら?」


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