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呪いの館で人形に変えられました。その姿で館を永遠にさまようがいいと言われたので快適な豪邸生活を目指そうと思います  作者: 鈴木空論
第4章 地獄の入り口封印計画

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第28話 決意と異変

「わしがあの個体について知っているのはこれくらいだな」


 話を終えるとリンゲンはやれやれと自分の肩に手をやりながら言った。

 セシルは腕組みをして天井を見上げた。


「知っている人間の姿をした個体か……。そりゃ確かにやり難いだろうな。それに加えて、普通の『この世ならざる者』も同時に大量発生するとなると……はあ、オレも戦えればいいんだが」


 この二ヶ月いろいろ試してみたのだが、セシルは本当に戦闘には不向きな怪異だった。

 身体が発光するほど謎肉を食いまくって魔力を上昇させれば素早く動けるようにはなるものの、そもそも人形の身体が小さく軽いため攻撃面にはほとんど恩恵が無い。


 それなら何か武器でも持てばいいのではないかとも思ったのだが、アルベルトによると『この世ならざる者』に対しては普通の武器では効果が無いらしい。

 本来この世に存在しないものを相手にするにはこちらも同じようなもの――つまり怪異やそれに近いものでなければ攻撃が通らないのだそうだ。


 本当なのか実際に試してみようとしたらウェンドリンに羽交い締めにされた上お説教まで食らったのでちゃんと確認は出来ていないが、ずっと『この世ならざる者』を相手にして来たアルベルトが言うのならそうなのだろう。


「そんなことはお前は心配せんでいい。アルベルト殿なら普通の個体が相手なら束になって掛かって来られようが問題なく捌けるだろうし、わしらもいるからな。……というかお前、その言い方からすると封印の差し替えには賛成なのか」


 リンゲンは不思議そうにセシルを見つめた。

 セシルのほうも目をぱちくりさせながら頷く。


「そのつもりだけど……オレが賛成だと何かおかしいか?」

「いや、おかしいとまでは言わんが、少々意外だと思ってな」

「意外? ……ああ、言われてみれば確かにそうなのかな」


 セシルは初めて気付いたというように首を傾げた。


 考えてみればセシルが賛成するのは不思議かもしれない。

 この館の怪異の一人であるとはいえ、セシルの中身は入れ替わったばかりの人間なのだ。

 他の怪異とは違い、この館の過去やあの個体との因縁など知ったことじゃないという態度でも別におかしくはない。

 加えて戦闘能力は無いからもしも取り漏らした『この世ならざる者』に自分が狙われたら命の危険さえ有り得るのだ。

 デメリットは多く、それに対するメリットはほぼ無いと言って良い。


 さらに、マリアンデールの話では現在の封印はあと数十年は持つらしいのだから急いで対応する必要もないのだ。

 まだ時間的な余裕もあるのならもっと別の安全な方法を考えて貰おう、と考えるのが自然なのかもしれない。


 セシルは頭を掻きながら笑って言った。


「確かにそうなのかもしれないけど、まあ何と言うか性分でさ。ほら、直せるのならさっさと直したほうが気分良いだろ?」

「そんな安易な理由で決めたのか」

「うん。さっきまではそれだけが理由だった。……でもさ、今リンゲンさんから事情を聞いてちょっと変わったというか、こうも思ったんだ。助けられるのなら助けてやりたいなって」


 リンゲンは怪訝な顔をした。


「助ける? 一体誰をだ?」

「ここの主だったっていうベレンって人をさ」

「……ベレン殿を?」


 リンゲンは一層不可解だという顔でセシルを見た。

 セシルは慌てて言った。


「いや、もう亡くなってるのはもちろん分かってるよ。でも、やり方は間違っていたけど娘さんを大事に思ってただけなんだろ? だったら早くちゃんと弔ってやりたいなって。まあ戦力にもならないオレが言うのもおかしいかもしれないけどさ」

「……そうか」

「さて、随分長居しちゃったしそろそろ戻るか。話してくれてありがとう、リンゲンさん」


 セシルは立ち上がると作業台から飛び降りようとした。

 だが足を踏み出した矢先、全身にビリッという感覚が走った。

 館の結界。

 また何者かがここへ侵入しようとやって来たらいい。


「ひゃんっ!? ……って、うわぁ!!」


 セシルはバランスを崩して頭から床へ落っこちた。

 打った箇所を手で押さえ、涙目になりながらよろよろと立ち上がる。


「いてて……。何でこんな夜中に来るんだよ。本当に迷惑だな人間……」


 怨み言を呟いていると工房の壁からニュッと半透明な首が二つ生えてくる。


「……セシル、ここに居たんだ」

「お客さんだよ!」


 ポルターガイスト三兄弟のタガーとイストの二人。

 セシルは少々渋い顔をした。


「だからお前らドアから入って来いと……まあいいや。ポールはどうしたんだ?」

「……先に客の相手してる」

「セシルも行こう! 早く早く!」


 二人が答えるのとほぼ同時に廊下のほうから複数の悲鳴と食器が割れる音が聞こえてきた。

 声から察するにどうやら今回の侵入者は男と女の二人組らしい。


「わかったよ、オレもすぐ行く。あんまり壁に食器ぶつけるなよ? 後で片付けやら修理やら大変になるんだから」

「……わかってる。任せて」

「先に行くね!」


 二つの首は引っ込んだ。

 そして間もなく、盛大な破壊音が繰り返し聞こえてきた。


「……何もわかってねえ」


 セシルは頭を抱えた。

 それからリンゲンに振り返る。


「それじゃあオレもちょっと行ってくるよ。そういえば燻製室の改良の件、また後で教えてくれ」

「ああ、わかった」


 セシルは軽く手を振ると扉を開けて工房から出て行った。


「おい、お前らあんまり張り切り過ぎるな!」

「ひ、ひいい、人形が動いてる! 喋ってる!」

「もうやだここから出して!」


 廊下のほうからセシルの怒鳴り声やら悲鳴やら破壊音やら、騒々しい音が響いてくる。

 リンゲンは苦笑しながら先程片付けた図面を再び作業台に広げた。

 そして作業を再開しながら、独り言のように呟いた。


「……結局最後まで会話に割り込んで来なかったな。てっきりお前はセシルにはベレン殿のことは知られたくないのかと思っていたが」

『別にそんなことはないわよ』


 いつの間にそこにあったのか、工房の天井に一本の紐が垂れていた。

 ウェンドリンの通話紐である。


『あのダイニングでのやり取りで気にするなというのは無理な話でしょう。私はただあの子がまた危なっかしいことでも考えたりしないか心配になっただけ』

「それでまた盗み聞きか」

『うるさい。……まああの様子なら無鉄砲な行動に出ることもないでしょうし、ホッとしたけど』

「いい加減信用してやってもいいんじゃないのか?」

『信用はしてるわよ。してるけど……』


 ウェンドリンは言い淀んだ。

 リンゲンもその気持ちは多少理解していた。

 二度と仲間を失うような思いはしたくないのだろう。

 だから一番危なっかしいセシルの事を必要以上に気に掛けているのだ。


『リンゲンさんもマリアンデールの提案通り、扉の封印の差し替えはすぐにやるべきだと思っているの?』

「そうだな。正直なところ迷っていたが、何の面識も無いあいつに我らの主を弔ってやりたいなんて言われてしまったんだ。いい加減わしらも腹を括らねばならんだろう」

『………』


 ウェンドリンはしばらく無言だったが、やがて言った。


『封印の差し替えが無事に終わったら、セシルを『お嬢様』に会わせようかと思うのだけどリンゲンさんはどう思う?』


 リンゲンは驚いた様子で天井の紐を見上げた。

 それからゆっくりと図面に目を戻し、頷いた。


「いいんじゃないか。わしは別に反対せんよ。あいつにはもう十分その資格があるだろうしな」

『そう、わかった。じゃあ私は先にもう寝るわね。おやすみ』

「ああ」


 リンゲンが返事をすると紐はスルスルと天井に吸い込まれるように消える。

 それを見届けると、リンゲンは何事も無かったように作業に戻った。



 ※ ※ ※



「……この気配はセシルさんと三兄弟の子たちですか」


 地下の広間。

 アルベルトは地上への階段から反響してくる喧騒に耳を傾けながら呟いた。

 この組み合わせの時は賑やかでいいですね。

 思わず口元を緩めるが、すぐに真剣な表情に戻ると足元へ目を戻した。


 アルベルトの視線の先には『この世ならざる者』が横たわっていた。

 『この世ならざる者』はもはやピクリとも動かずそのまま霧のように消えて行く。

 ついさっきとどめを刺したところだったのだ。


「封印を強固なものに差し替えれば、こういった輩が出てくることも無くなる、か……」


 アルベルトは封印の扉へ目を向けた。

 恐らくはマリアンデールの提案の通り封印の差し替えを行うことになるだろう。

 無理強いはしないと言っていたが、そもそも彼女は無理だと思うなら最初から話を持ってきたりしない。

 そして無理でないのなら怪異たちに反対する理由は無い。

 少なくともアルベルトは従うつもりでいた。

 この時のために門番として長い間鍛錬を重ねてきたのだから。

 次こそは、あのベレンの姿と声を盗んだ個体をこの手で――。


 アルベルトがそんな物思いに耽っていた時だった。

 パラパラ……と何かが落ちるような音がした。


「………?」


 アルベルトは封印の扉に近寄り屈み込んだ。

 すると扉の周囲の地面に、扉から剥がれ落ちたらしい破片がいくつも散っていた。

 昨日まで――いや、先程の食事会の直前までは無かった物だ。


 どういうことだ、とアルベルトは顔色を変えた。

 この扉はマリアンデールが魔術によって作り出したもの。

 例え劣化したとしても普通であれば外見的な変化が起こることは有り得ない。

 そう本人から聞いている。


 胸騒ぎがした。

 何か、良くないことが起きているのかもしれない。

 しばらくその場にとどまり他に異常が無いことを確認すると、アルベルトはマリアンデールや他の怪異に知らせるため急ぎ足で地上へ向かって行った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 呼びかけに応じとは古典的ですが効果的な手段。 迫りくる危機を前に、果たして豪邸スローライフを主人公は守れるのかw 毎日の続きを楽しみにしてます。
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