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呪いの館で人形に変えられました。その姿で館を永遠にさまようがいいと言われたので快適な豪邸生活を目指そうと思います  作者: 鈴木空論
第4章 地獄の入り口封印計画

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第23話 魔女の訪問

 とある満月の夜のこと。

 誰もいないエントランスの中央の空間が、何の前触れもなく水面のようにうねり始めた。

 うねりはどんどん激しくなり、やがて空間が破けて真っ黒な穴が開く。

 そして、穴の中から一人の女が姿を現した。


「さて、転移成功、と。……ここへ来るのも久し振りね」


 長い銀髪に赤い瞳、胸元が開いた黒のドレスに、シスターのような黒頭巾。

 左手には巨大な赤い宝石が先端に嵌め込まれた杖を握っている。

 この館に深い関りを持つ魔女、マリアンデールである。


 疲れでも溜まっているのか、マリアンデールはふわりと床に着地するなり、うーん、と思い切り伸びをした。

 それからホッと小さく息を付く。


「さてさて、さっさと用事を済ませるとしましょうか。……って、あれ?」


 身体をほぐしながら呟いたのも束の間、マリアンデールは目をぱちくりさせた。

 信じられないという様子で周囲を見回し、思わず呟いた。


「え、なにこれ。どうなってるの……?」


 エントランス内が見違えるほど綺麗になっている。

 以前は蜘蛛の巣と埃だらけのいかにも廃墟という雰囲気だったのに、今は塵一つ落ちていない。

 それどころか壁も床もピカピカに磨かれ、通路となる部分にはふかふかの絨毯まで敷かれている。


 転移先の座標を間違えたのかと思って慌てたが別にそんなことも無いらしい。

 印象は随分変わっているがエントランスの形自体には見覚えがあるし、ここはやはり目当ての館で間違いないようだった。


 でも、なんで?

 どうしてこんなに変わってるの?

 マリアンデールは予想外の出来事に酷く混乱し、しばしその場に立ち尽くした。


 そんな時、何やら小さな子供が廊下から走り出てきた。

 子供はそのままエントランスを走り抜けて行こうとしたが、ふとマリアンデールに気付くと立ち止まって意外そうな声を出す。


「あれ、誰かと思ったら魔女さんじゃないか。久し振りだな」

「あなたは……セシル?」


 それは子供ではなく人形。

 この館の怪異の一つである人形のセシルだった。


 ただしこのセシルの姿も、一目では気付けなかったほどには随分と見た目が変わっていた。

 マリアンデールの記憶では、セシルは古いボロボロの赤いドレスを着ていて、左目の辺りに縦の亀裂が走っているという中々におどろおどろしい容姿をしていたはずだった。


 それが今は、デザインと赤い色は同じだがまるで下ろし立てのような見事なドレスをまとっている。

 左目の亀裂もどういう訳か消えていた。

 また、以前はどことなく薄汚れていた印象だったのが全体的に小綺麗になっている。


「セシル、あなたその姿一体どうしたの? それにこのエントランスも……」

「エントランス何かおかしいか? ……ああそうか。マリアンデールさんは初めて見るんだな」


 セシルは最初マリアンデールが何を戸惑っているのか分からないようだったが、やがて思い当たった様子でポンと手を鳴らす。

 それから両手を腰に当て、得意顔で胸を張った。


「どうだ、びっくりするくらい綺麗になっただろ? みんなで掃除したり壊れたのを直したりしたんだ。ここだけじゃなく大体のところは綺麗になってるよ」

「みんな?」

「うん。怪異のみんなで」

「怪異全員で……?」


 マリアンデールはそれまででも十分に驚いていたが、セシルの言葉を聞いてさらに驚いていた。

 正直信じられなかった。

 自分がこの館の管理を任されてから数百年、この館はずっと荒れ放題だったのだから。


 マリアンデールは自分が滞在する訳ではないからそれについては何も言わなかったし、怪異たちもまるで気にしていないようだった。

 いや、ウェンドリンは多少気にしていたようだったが、どうせ共用スペースは片付けてもすぐポルターガイストたちに散らかされてしまうから、半ば諦めて自分の部屋の掃除しかしていなかったのだ。


 ここまで綺麗な状態を保っているということはあの騒霊たちも散らかさないように気を付けているということなのだろう。

 一体どうやってあのヤンチャ共を手懐けたのか。

 それに……。


「あなたのドレスと、それにその顔は? どうやって直したの?」

「ああ、このドレスはウェンドリンさんが直してくれたんだ」


 セシルはそう言って軽くクルリと回った。

 フリルの付いたスカートがふわりと持ち上がる。

 それから少し言い辛そうに片手を左目に当てて言った。


「あと顔の傷は直った訳じゃないよ。化粧で目立たなくしてるだけ」

「お化粧? あなたが?」


 マリアンデールは意外に感じただけで別に責めようとしたつもりはなかったのだが、何故かセシルは慌てた様子で言い訳を始めた。


「いやだって仕方ないだろ? オレもオレが化粧なんてするのおかしいって思うけど、これだけ見事にドレス繕ってもらったらそれなりの見た目にならなきゃ申し訳ないし。それに、ちょっと汚れたままでいるとすぐに風呂場に連れ込まれるから、そうならないよう必要以上に清潔を心掛けるのが習慣になっちゃったというか……」

「風呂に連れ込まれる?」

「あ、いや、なんでもない、なんでもないから気にしないでくれ!」


 セシルは顔を真っ赤にしながら慌てた様子で首をブンブン横に振り始めた。

 何を恥ずかしがっているのか知らないが、どうやら慌てて言い訳をしようとして他人に聞かれたくないことをうっかり口走ってしまったらしい。

 マリアンデールは何をそんなに慌てているのか気になったが、頭が取れそうな勢いで首を振り続けるセシルを見ていたら不憫になってきたのでそれ以上の追及はしないことにした。


 それに、焦った人間が傍にいると周囲は却って冷静になれるものだ。

 慌てているセシルを眺めていたお陰か、マリアンデールは自分の心が段々落ち着いていくのを感じた。


 具体的なことは分からないが、前回マリアンデールがここを訪れてから現在までの間に怪異たちの心境を変化させる出来事があったのだろう。

 そしてそれは何か、と考えると……思い当たる事といえば、セシルの『魂の交換』が発動したこと。

 掘り出し物を引き当てたかもしれないとあの時は思ったが、どうやらその予感は間違いではなかったようだ。


 マリアンデールが何も言わずにいたためか、セシルのほうも落ち着きを取り戻したらしい。

 まだ若干頬を赤らめたままだったが、何事も無いような顔で話題を変えた。


「そういえばマリアンデールさん、今日は何かの用事で来たのか?」

「ええ、あなたを含めた怪異の皆に大事な話があってね」

「そうか。ならちょうどいい。マリアンデールさんも一緒に来なよ」

「何処へ?」

「ダイニング。ちょうどみんな目を覚ますタイミングが合ったから一緒に食事しようってことになったんだ。オレ以外は全員もう集まってるはずだよ」


 あの怪異たちがわざわざ食事?

 しかも全員一緒に?

 ていうかこの館、食べる物なんて残ってたの?


 マリアンデールの頭に疑問がいくつか浮かんだ。

 しかしここまでで既に何度も驚かされたのでこの程度ではもう動じない。


「わかったわ。それならお呼ばれさせてもらいましょうか」


 マリアンデールはセシルに連れられてダイニングへ向かって行った。

 その途中、廊下を歩きながらセシルが言った。


「そういえば、マリアンデールさんってここの大家みたいなもんなんだよね?」

「大家……まあ家賃取ったりはしてないけど、管理を任されてるという意味ではそうね」

「そっか。それなら確認しておきたいことがあるんだけど」

「なあに?」

「中庭の花壇で野菜育てても良いかな。このあいだ食糧庫で種を見つけたんだ」

「野菜? ……まあ、別に構わないわよ」


 怪異なのに畑仕事。

 マリアンデールは内心戸惑ったが、何とか表には出さずに承諾した。

 するとセシルは嬉しそうに目を輝かせ、さらに質問をする。


「ありがとう! じゃあさじゃあさ、使ってない部屋を一つ潰して燻製室を作りたいんだけどいいかな。リンゲンさんに設計してもらったし、ボヤなんかも絶対出さないって約束するから」

「………」


 セシルはその後もマリアンデールに他にも色々な伺いを立ててきたが、どれもおよそ怪異らしからぬ物ばかり。

 この子の影響で他の怪異たちにも変化があったようだけど、おかしな方向に行ってたりしないわよね……?

 マリアンデールは段々不安になってきた。

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