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呪いの館で人形に変えられました。その姿で館を永遠にさまようがいいと言われたので快適な豪邸生活を目指そうと思います  作者: 鈴木空論
第3章:呪いの館の住人たち その2

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第15話 パワーアップか爆発か

「リンゲンさん、リンゲンさん! 起きて、セシルが大変なの!」


 ウェンドリンはセシルを脇に抱えながら慌てて工房に駆け込んだ。

 眠っていたのを叩き起こされたリンゲンは不機嫌な顔でウェンドリンを睨んだ。


「なんだ、騒々しい」

「これ! これ見て!」


 ウェンドリンは赤く光るセシルをリンゲンの前に突き出す。

 リンゲンもそれを見て眠気が一気に吹き飛んだらしい。

 驚いた顔でセシルの全身を探るように見つめた。


「なんだこりゃ? 一体何をやらかした?」


 セシルは顎をぽりぽり掻きながら困ったように笑う。


「いや、ちょっと謎肉を食べただけなんだけど……」

「ちょっと、って量では無かったけどね……」


 ウェンドリンが溜め息をつき、セシルが謎肉を食べた経緯を掻い摘んで話した。

 それを聞くとリンゲンは呆れたように言った。


「よくもまああんなもの食う気になったな」

「でも凄く美味しかったぞ」

「味の話はしとらんわい。ただそうすると……ウェンドリン、ちょっとセシルを降ろせ」


 ウェンドリンは言われるままにセシルを床に降ろした。

 するとリンゲンはまじまじとセシルを見ながら言った。


「セシル、そこで思い切り跳んでみろ」

「へ? 跳ぶって跳ねろってこと?」

「そうだ。思い切りな」


 何故そんな事をする必要があるのか分からなかったが、とりあえずセシルは言われた通り軽く屈んでから全力で跳ねてみた。

 そして――セシルはそれから何が起きたのか理解できなかった。

 跳ねた瞬間、頭の天辺に強い衝撃を受けた。

 それと同時に視界が真っ暗になる。

 何かが頭部を掴んで離さないが、振り払おうにも身体がうまく動かない。

 足が何故か地面に付かず空を切るため体のバランスが取れないのだ。


「な、なんだ? 何が起きた!?」


 セシルは訳も分からず喚いた。

 そしてウェンドリンのほうも似たような感想を呟いていた。


「……え、これ、どういうこと?」


 ウェンドリンは口を開けて天井を見上げていた。

 工房の天井に、セシルの頭が突き刺さっている。

 セシルが跳ねたと思ったら物凄い勢いで飛びあがってそのまま突き刺さったのだ。


 セシルの普段の身体能力ならこんなこと起きるはずがない。

 ウェンドリンは心底驚いていた。

 だが、この場で驚いていたのは他ならぬセシル自身だった。


「た、助けて!」


 天井から首が抜けず何も見えないため、半ばパニックになってジタバタともがいている。

 ウェンドリンはその声で我に返ると手から紐を伸ばしセシルを掴み、どうにか天井から引き抜こうと試みる。

 リンゲンはその様子を眺めながら呟いた。


「どうやら予想通りらしいな」

「リンゲンさん、どういうことなの?」

「どうもこうもあるか。魔力の過剰摂取だ」

「過剰摂取?」


 その時ようやく引っかかっていたセシルの首がスポンと抜けた。


「わっ!?」


 宙に放り出されたところをウェンドリンにキャッチされ、思わずギュッとしがみ付く。

 リンゲンは説明を続けた。


「あの謎肉は瘴気を吸った分だけ肉を生み出す。つまりあの肉の元はほぼ瘴気だ。そして瘴気はわしらのエネルギー源である魔力の元でもある。ということはだ、あの肉はいわば濃縮された魔力の塊みたいなものなんだろう。そんな物を大量に食ったもんだから身体の中にあり得ないほどの魔力が補充されたんだ。今のように普段じゃ考えられないような力を出せるほどのな」

「あの肉、美味いだけじゃなく食えばそれだけパワーアップもできるってこと?」


 セシルは尋ねた。

 しかしリンゲンは難しい顔をした。


「そうなるが……正直リスクが釣り合っておらんな」

「というと?」

「お前のその発光は身体から魔力が漏れ出しているのが原因だろう。普段以上の力を出せる状態になっているのは確かだが、同時に今のお前の身体は限界以上の魔力が無理やり詰め込まれた状態でもあるんだ」

「ええと、つまり……どういうことなんだ?」

「いつ身体が耐え切れなくなってもおかしくない状態だってことさ。発光に気付かず食い続けていたら、恐らく体内の魔力が爆発して死んでいたぞ」

「え……?」


 セシルの顔がみるみる青ざめる。


「そんな顔をするな。放っておけば魔力は減って行くだろうし、その状態からさらに食ったりしなければ問題無いだろう」

「そ、そうなのか……」


 セシルはホッと肩を撫で下ろした。

 リンゲンは思案顔で自分の髭を撫でた。


「しかし、あの肉にこんな使い道があったとはな。ウェンドリン、お前は光っていないようだが食わんかったのか?」

「私も少しだけ食べたわ。セシルに勧められて数切れだけ」


 ウェンドリンはややきまり悪そうに言った。

 自分が付いていながらセシルを危険に晒してしまったためなのか、それとも得体が知れないと感じていた肉を食べたと申告するのが恥ずかしかったためか。

 ひょっとすると両方かもしれない。


「とすると、適量なら食っても問題無いということか」

「みたいね。でも危険なことには変わりないようだし、もう食べるのは止したほうが良さそうね」


 ウェンドリンが言う。

 するとセシルが悲しそうな顔をする。


「ええ……じゃあもうあの肉食べちゃダメなのか?」

「あなた、そんな状態なのにまだ懲りてないの……?」


 しかしそこへリンゲンが口を挟んだ。


「待て、聞いた感じでは一気に食い過ぎたのが原因なんだろう。それなら量さえ気を付ければ問題無かろう。わしとしても、あの肉を灰にする手間が省けるならそのほうが楽だしな」

「じゃあ食べて良いってこと?」

「ちょっとリンゲンさん――」

「それに、だ」


 リンゲンはウェンドリンの抗議を遮って言った。


「あの謎肉で魔力の補充ができるのであれば、アルベルト殿の問題も解決するんじゃないか?」


 するとウェンドリンもポンと手を叩く。


「なるほど、確かにそうかもしれないわね。……といっても、あの人があのお肉を食べる気になればの話だけど」

「その辺は本人に話をしてみないとわからんな。どれ、そうと決まれば早速行くか」


 リンゲンは作業台を飛び降りてそのまま工房を出て行った。

 一人だけ話に付いて行けなかったセシルがウェンドリンに聞いた。


「アルベルトって誰だ?」

「そういえばセシルはまだ会ったこと無かったわね。ちょうど良いから一緒に行きましょうか」


 ウェンドリンはセシルを抱きかかえるとリンゲンの後に続きながら言った。


「アルベルトさんはこの館の怪異の一人よ。大抵はいつも地下室にいるの」

「地下室?」


 セシルは幽霊三兄弟に他の怪異について聞いた時のことを思い出していた。

 地下室ということは、『地下のシワシワ爺ちゃん』とかいう奴のことだろうか。


「でも地下にいつもいるって、一体何をしてるんだ?」

「この館には地獄への入口と呼ばれる場所があるの。呼ばれるって言っても私たちが勝手にそう呼んでるだけだけどね。アルベルトさんはそこを守る門番なのよ」

「地獄への入口の、門番……?」

「詳しい話は実際に見てもらってから説明するわ。その方が理解しやすいだろうし、この館の秘密にも関わることだから」

「そうなのか……」


 地獄。

 まるで想定していなかった単語の登場にセシルは困惑していた。

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