第14話 輝く食材
高温に熱した鉄板の上で分厚い肉片がジュージューと音を立てていた。
周囲に広がる湯気と香ばしい匂いも鼻をくすぐる。
その肉が焼けていく様子はとても美味しそうで、食欲を刺激するには十分なものだった。
ただし、その肉の正体を知らなければ、である。
「……ねえ、本当にそんなもの食べるつもりなの?」
ウェンドリンが不安げな顔で言った。
だがセシルはフライパンを振りながら平然と答える。
「大丈夫だよ。これまでの経験上、大抵のものはしっかり火を通せば食えるようになるはずだから。本当にダメな時は胃が拒否して勝手に吐き出すし」
「……それは大丈夫と言うの? というか何を食べたらそんな事になるの?」
ウェンドリンが尋ねると、セシルは記憶を辿るように上を向いて懐かしそうに言う。
「そうだな……見るからにヤバそうな色のキノコとか、ネズミとか虫とか」
「ネ、ネズミに、虫……?」
「いやあ、昔何度かどうしようもなく腹が減ったことがあって、飢え死にするよりはマシだー、って挑戦したことがあったんだよ。火を通せばどうにか行けるだろって思って。でも結局駄目でね。身体が受け付けなかったし、今思い出しても本当に酷い味だったよ。あいつらに比べたらこれはちゃんと肉の形してるから立派だ」
「あなた、ここに来る前どんな生活をしていたの……?」
セシルはキッチンの釜戸を使って謎肉の切れ端を焼いていた。
人形の身体では背丈が足りないので適当な台を持ってきてそれの上に乗り、大きな肉が乗った自分よりも大きなフライパンを全身を使って操っている。
傍目にはちょっと危なっかしく見える光景だが、フライパンの扱い方自体はこなれていた。
調理の経験はそれなりにあるらしい。
「よし、こんなもんかな」
謎肉にしっかり焼き色が付くとセシルはナイフで適当に切って皿に移した。
見た目はただの……いや、見た目だけならかなり見事なステーキである。
でもこれ謎肉なのよね、とウェンドリンは思った。
謎肉ちゃんが老廃物として排出した、肉のような姿をした肉ではない謎の物体。
こんなものを口に入れたらどうなるかわからない。
やはり止めるべきかしら、とウェンドリンは迷った。
だが、ウェンドリンが迷っている間にセシルは切り分けた謎肉の一つをフォークで突き刺していた。
「それじゃ早速」
「あ」
セシルはウェンドリンが止める間もなく謎肉を口に運んだ。
そして――。
「………!」
謎肉を口に入れた途端、セシルは目を大きく見開いたまま動かなくなった。
ウェンドリンが慌てて駆け寄る。
「言わんこっちゃない! ほら、我慢しなくていいから無理ならさっさと吐き出しなさい!」
しかしセシルは軽く首を振ると口元に手を当て、何か探るように咀嚼を繰り返した。
それからゴクリ、とそのまま飲み込む。
ウェンドリンは心配して言った。
「セシル?」
「……びっくりした。これ、滅茶苦茶美味いぞ」
「へ……?」
セシルは歓喜の表情を浮かべながら二切れ目の肉を口に運ぶ。
ウェンドリンは唖然としてセシルを見つめた。
「本当に大丈夫なの? それどころか美味しいって……」
「疑うなら食べてみる?」
セシルは肉を刺したフォークをウェンドリンに差し出した。
ウェンドリンは思わず仰け反ったが、セシルの顔は騙そうとしているようには見えない。
少し悩んだ後、ウェンドリンはギュッと目とつぶりながら思い切ってそれを咥えた。
「……美味しい」
「だろ?」
それは普通に肉だった。
程よく弾力があるにもかかわらず、何度か噛んでいると溢れ出す肉汁とともに口の中で溶けていく。
極上のステーキ肉である。
ウェンドリンは目を丸くした。
「あの子、こんなに美味しかったのね」
「みたいだな。オレもここまでとは思わなかった」
皿の肉はあっという間になくなった。
するとセシルはナイフとフライパンを手に謎肉のほうへ駆けて行く。
「よーし、ガンガン食って早くお前をここから出してやるからな」
「モ゛ー」
セシルは謎肉からステーキ五枚分くらいの肉を切り落とすとホクホク顔で戻ってくる。
「まだそんなに食べるの? ていうかそんなに食べれるの?」
「ああ。だってまだあんなに残ってるんだし、これだけ美味いならいくらでも入るさ。ウェンドリンの分も焼こうか?」
「いいえ、私はもういいわ」
ウェンドリンはやや呆れたように微笑みながら、セシルが肉を焼いては食べ、食べては焼くのを眺めていた。
だが、四枚目の肉を食べ終わろうかという辺りで違和感に気付いた。
セシルの周りだけ、キッチン内が妙に明るい。
「セシル、あなた何だかおかしなことになってない?」
「え? ……うわ本当だ、なんだこれ」
指摘されて初めて気付いたらしく、セシルはナイフとフォークを持った自分の腕を見てギョッとした。
両腕が謎に光を発している。
腕だけではない。
足も、身体も、頭部も――セシルの全身が怪しげな赤い光を放っていた。




