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呪いの館で人形に変えられました。その姿で館を永遠にさまようがいいと言われたので快適な豪邸生活を目指そうと思います  作者: 鈴木空論
第3章:呪いの館の住人たち その2

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第13話 瘴気とお肉と膝枕

「……セシル! セシル、大丈夫!?」


 誰かが自分の名前を呼んでいる。

 セシルはその声で意識を取り戻し、目を開けた。


 ……ここ、どこだ?


 セシルは異様に天井が低い場所で仰向けに寝かされていた。

 どれだけ低いかと言うと、小さな人形の身体でも手を伸ばせば天井に届きそうなほど。

 なんとも不思議な場所だった。

 後頭部の感触はとても柔らかくて心地よく、それに暖かい。


「なんだここ……」


 セシルはぼんやりと呟いた。

 すると天井がゆさっと揺れた。


「よかった。セシル、気が付いたのね」

「へ?」


 再び呼びかけられて気が付いた。

 天井? の向こうに誰かの顔の上半分が見える。

 見覚えのある女の顔だった。

 それに、今の声。

 ウェンドリンだ。

 心配そうな顔をしたウェンドリンがセシルを見下ろしていた。


「―――!!」


 この時になってようやくセシルは自分の状況を理解した。

 ウェンドリンに膝枕されているのだ。

 セシルは一気に顔を赤くすると、慌てて起き上がろうとした。

 だがそれより早くウェンドリンの背後から無数の紐が襲い掛かり、セシルの身体をぐるぐる巻きにする。

 身動きの取れなくなったセシルは再びウェンドリンの膝の上にコテンと転がった。


「な、何するんだ!」

「それはこちらのセリフ。案内してあげるから待っててと言ったわよね? それなのにどうして勝手に出歩いているの?」

「モ゛ー」


 先程の謎肉の鳴き声が聞こえた。

 見れば、謎肉が向こうの部屋から顔を出してこちらの様子を窺っている。

 自分が置かれた状況ばかりに気が向いていたが、どうやらここはキッチンのようだ。

 倒れていたセシルをウェンドリンが見つけて助けてくれたのだろう。


 ウェンドリンは笑顔だったが、怒っているのは十分伝わってくる。

 セシルは冷や汗をかきながら弁解した。


「いや、変な音がしたもんだからさ。また誰か忍び込んで来たのかなと思って、確認だけでもしておこうと……」

「なるほどね」


 ウェンドリンは肩をすくめた。

 その影響で胸がまたゆさっと揺れる。

 死ぬほど目のやり場に困るので勘弁して欲しい。


「納得してくれたのならこの紐、解いて欲しいんだけど……」

「駄目よ。どうせ縛っていなくても今のあなたはまともに動けないわ。しばらくそのままでいなさい。こうしていれば私の魔力を少し分けてあげられるから」

「魔力を分ける……?」

「あなた、魔力切れを起こしてたのよ。謎肉ちゃんに魔力を吸われてね」

「じゃあやっぱりあれ、あいつの仕業だったのか」


 セシルは謎肉へ目を向けた。

 謎肉はそれに反応してセシルを見返す。それから不思議そうに首を傾げた。

 その顔には悪意やそう言った感情はまるで浮かんでいなかった。

 というか、自分が何をしたのかも理解していない様子だ。


「この館には私たち怪異でもうかつに近付くと危ない物や場所が結構あるの。だから今後は不用意に歩かないようにするって約束して。急がなくても私たちがちゃんと教えてあげるから」

「悪かったよ。しかしあいつは何者なんだ?」

「あの子は謎肉ちゃん。私たちと同じ怪異の一つで、この館の瘴気を食べるのが仕事」

「瘴気?」

「私たちの活動の源である魔力の元になっている気体のことよ。魔力の元だから必要な物ではあるんだけど、あまり濃くなり過ぎても良くないの。あの子は瘴気が濃くなり過ぎないように自分の体内に取り込んで調整してくれている大切な存在なのよ」


 ビタンビタン跳ねている珍妙な生き物にしか見えないが、思った以上に重要な役割を持った生き物だったようだ。


「でも、なんでそんな大事な奴ならあんなところに閉じ込めてるんだ? オレがやられたみたいに魔力を吸われて危ないからか?」


 謎肉がいる部屋――棚に錆びた古い缶詰などが並んでいるのを見ると食糧庫のようだが――は、謎肉のあの図体に対してはかなり狭いようだった。

 身体の向きを変えるのにすら一苦労のようだったし、今も謎肉はこちらに来たがっているようだったが身体が大きすぎてドアを通り抜けられずに詰まったままモ゛ーモ゛ー鳴いている。

 ちょっと見ていて不憫になる光景だった。

 セシルがそんな疑問を口にすると、ウェンドリンは憐れむように謎肉を見た。


「いいえ、閉じ込めている訳ではないのよ。可哀そうだから本当はどうにかしてあげたいんだけど」

「というと?」

「あの子の顔、水晶玉みたいになっているでしょう。あの子の本来の身体はあの水晶玉の部分だけなのよ」

「え? それならそれ以外の肉の部分はなんなんだ」

「あのお肉はなんて言うか……例えるなら羊の毛みたいなものね。あの子は体内に取り込んだ瘴気をあの謎のお肉に変換して体の外に出すの。で、謎肉が増えてきたら私たちで切り落とすようにしていたんだけど……」


 ウェンドリンが言うには、ここ最近になって謎肉の生産スピードが急激に上がったらしい。

 以前なら月に一回切り落とせば十分だったのが次第に二週間に一回、一週間に一回……と間隔が短くなっていき、気付けば毎日切らないといけなくなってしまった。


 他の怪異たちにもそれぞれ役割があるので付きっ切りで謎肉の世話をしている訳にもいかない。

 そうして良い解決案も無いままちょっと放っておいたところ、あんな姿になってしまったらしい。


 セシルは首を傾げた。


「そもそもどうして肉の増殖が早くなったんだ?」

「単純にこの館の瘴気の量が増えたからよ。何故瘴気が増えたかと言うのはこの館の事を知ってからのほうが理解しやすいと思うから今は説明は避けるけど」

「そうか」


 餌となる瘴気が増えたからそれだけ生産される肉の量も増えた。

 その結果手が回らなくなってあの状態、ということのようだ。


「話を聞いた感じだと、とりあえず肉を切り落としてやればあいつを食糧庫から出してやることは出来るんじゃないのか?」


 セシルの問いに対してウェンドリンは首を振った。


「それがそうもいかないのよ。肉を切り落とすだけなら出来るけど、そうすると肉を置いておく場所がもう無いの」

「場所が無い?」

「お肉が増えるスピードが上がったせいで全然処理が追い付いていなくてね。もう保管しておけるような場所が無いのよ。あの子から切り落としたお肉は普通のお肉と同じで常温で放置すると腐っちゃうからその辺に並べておく訳にもいかないし」

「処理が追い付いてないというのは、食い切れないってこと?」

「あんな得体の知れないお肉食べる訳がないでしょう。灰になるまで焼いてカサを減らしてから捨てるのよ」


 セシルが冗談を言ったのだと思ったらしくウェンドリンは苦笑いした。

 だが、セシルは思案するように言った。


「そうなのか。じゃあ確かめた訳じゃないんだな……」

「え?」

「オレ、一度でいいから肉屋の店先に置いてあるようなでっかい肉の塊を丸焼きにして食べてみたいなって思ってたんだ。まさかそれがこんな形で叶うとは思わなかった」

「……何を言ってるの?」


 ウェンドリンが困惑した顔で尋ねる。

 それに対してセシルは目を輝かせながら言った。


「あの肉、試しに食べてみてもいいかな。食べれるんならば灰にするよりずっと早く減らせるだろ?」


 セシルの様子は冗談を言っているようには見えなかった。

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