新たな出会い、始まりの音、
「すみません、遅れました!」
その声と共にスーツの男が一人、入って来た。先程の会話から察するに、この人がキクという人物だろう。
そして一目見て分かった。皆が嫌味に感じている理由が。まずこの人からは、不幸感とでも言うのだろうか、そんな負のオーラとでも形容する様な感じがする。不幸体質というのが、他人から感じられるという話は聞いた事があったが、こうも感じられるとは思わなかった。だがそれよりも、この人はイケメンだと分かる。多分顔面偏差値とかそっちに振り過ぎたのだろう。不幸で釣り合いを保っている。そう感じられる。初対面でこう感じるのは嫌だが、正直嫌いだ。
「おいキク、遅いぞ」
「すみません、班長。ちょっと交通事故に巻き込まれちゃって…」
ああ、不幸ってそういう感じでも遭うのか…って巻き込まれた!?交通事故のせいの渋滞に巻き込まれたとかではなく!?
「またか。もうお前の労災降り過ぎだから気を付けろって何十回も言ってるだろ」
「すみません」
降り過ぎてる!?え、何この人、こわ。
「んで、お前が担当のヤツは?」
「あ、はい、今トイレです」
「は?」
お~こわ。何回見ても加賀美さんの威圧?覇気?が怖い。でも多少は慣れたのか、多少は軽口を考えていられる位にはなったな。
「それがここの入り方分からなくて、ついさっき自分が到着してようやく入れて、尿意が限界を迎えたそうです」
「あっそう」
なんかすげーしょーもない会話なのに、何故かこのキクという人物に嫌気がさす。なんかこう、キザにつくって言うのかな。いちいち動きがウザいんだもん。すごいフラフラしてるし、よく分からない手の動きしてるし。手の組み方とかぶらつき方とか。すごいイラつく。こう、動きがうるさいって言うのかな?ともかく第一印象はあまり良い印象では無い。見た目が気持ち悪い格好とか顔つきしてる人よりはマシな感じ。
「どう、キクは」
「どう、とは?」
「印象」
「印象か…」
「正直に言って良いよ。別に言わないし」
「えー、う~ん。難しいなー…」
「ぶっちゃけて良いよ」
「じゃあ…、うるさい」
細谷は思わず噴き出した。真顔で言ったのも後押しになっているだろうが、流石にこの言い方は無かったか。
「…正直だね」
「いや、ぶっちゃけてって言ったでしょう」
「まあね。まあちなみに俺もおんなじ印象持っている」
「未だに?」
「未だに」
「へぇ」
しばしの沈黙。キクが入って来てから加賀美の機嫌はおもむろに悪くなり、部屋の空気はとてつもなく悪くなった。もちろんそんな空気感で楽しく会話する者はおらず、沈黙が余計に空気を悪化させた。




