ほんのついさっき考えていた事はもう忘れてて。
外気が気持ち良さを与えるなんて、僕の感性はイカれたのだろうか。寒空は気が悪くなる程晴れている。青しかない空。曇りなど一点たりとも無い。この空も、僕に対する罰なのか。吐き気を催す。朝食か夕食かが喉をせり上る。強引に飲み込む。喉が少し焼けた、この痛みも罰なのか。ただ歩くだけで気が沈む。ただのいいつもの道でさえも、知らない道の様で、進んだ先が、未知の世界にすら感じる。ああこの気持ちよ、消えてなくなってしまえ。
下らない事を考えていても、歩みを止める事はない。頭が拒否しても、体がそんな事と言って動く事を止めない。この歩いた道など、とっくに忘れてしまっていて、気付くと学校の前にいた。校門の先には二人歩いていた。一人は俯いていた。一人は口笛を吹いていた。僕はそんな二人を見ていた。その二人を追う様に校門をくぐった。
靴を履き替え、教室に向かう。四階建ての四階の端の教室が、僕の所属する教室。教室には誰もいなくて、今だけは僕だけの空間になった。別に嬉しくはないし、悲しくもない。虚しくもないし。カバンを自分の机の上に放り投げる。ドカッと鈍い音と机の軋む音がした。そして椅子に座った。カバンを横にして、それを枕代わりにして、顔をうずめた。合皮だが繊維だか知らないけど、カバン特有のにおいがした。紙のにおいもした。すぐに呼吸がしづらくて顔を上げた。パチパチと何度かまばたきをした。眼が縮んだのか拡がったのかは知らないが、眼が動いたのが分かった。こんな事は気持ち悪いだけで、特に痛みは感じないけど、気味が悪い。自分の体にすら嫌気がさして、面倒になる。諦めて目を閉じた。瞼の裏の、白いのか黒いのかよく分からない何かで想像する。自分でもよく分からない形にしてみたり、知る何かにしてみる。
そうして遊んでいると、足音が聞こえてきた。急いでるわけでもゆっくりしてるわけでもない、普通の足取りの、足音。段々近付いてきている。この教室に向かってきている。誰だろうか。そして遂に扉が開いた。
「なんだ、いたのか」
その声に合わせて目を開いた。何度かまばたきをする。狭窄した世界が少しずつ広がる。目を細めて声の主を見る。
「泉か」
「そうだよ、おはよう」
「ん」
泉、いつも思うけど、いつになったら変声するのだろうか。男のくせに未だに変声期が来ず、男児の様な高い声をしている。
「三連休何してた?」
「引きこもってた」
「もったいねー」
「良いだろ、別に。休日をどう過ごそうが僕の自由だ」
「まあね」
当たり障りのない会話をする。いつもそうだ。
「俺は家族とプチキャンプに行ってたぞ」
「あっそ」
「Ⅰ*ヶ岳に行ってきてな、シーズンはとっくに過ぎてるから全然人がいなくて、かなり占拠できたぜ」
だからその声で一人称が俺はなんか落ち着かないんだよ。僕でも私でもいいから変えてくんないかな。
「近くの沢にも行ってな、足滑らせて片足突っ込んじまってさ、すんごい寒かったんだよ」
そうですか、お前の足ねえくせによく言うよ。
「まあ足無いんだけどな、ハッハッハッ」
それもう言ったよ。自分の無い足を叩きながら笑うなよ、余計に気持ち悪い。自分の能力で自虐ネタをすんのは流行らねぇんだよ。つーか今は制服で見えないしな。
「あ、そうそう、今日って朝会あるだろ」
「あーーーーーーーめんどくせぇ」
「だよなー。この時期は寒いクセに、お気持ちのデカヒーターなんてあんまし意味感じないしなー」
「まったくだよ」
「賞状伝達とかやんないと良いなー。無駄に長いし、他人の賞なんて興味無いし」
「だよな」
「そうそう」
こういうトコだけは気が合うから、完全には嫌いにはなれないんだよな。コイツ。
泉駿
能力名「無い足踏み」
効果:膝から下が存在しない
本人もどの様にして立って歩いているのかは不明。能力発現前と感覚は変わっておらず、ただ足が無いだけ。本人にも他者にも見て触る事はできない。だが何故か靴下も靴も履ける。
発動条件:常時発動




