またってどのくらいの間隔で使うものだっけ。
「やあ」
最初から声が聞こえた。
「最初ではないよ」
最初ではないらしい。
「そこは何で考えていることが伝わるのって驚く所だろ、皆そういう反応するだろ」
はいはい、エスパーさんには頭が上がらないですよっと。
「うっわ。嫌なぐらいわざとらしいね、君は」
ひどいな、折角付き合ってやってるっていうのに。
「はいはい、こっちが悪いですねー」
そっちも嫌なぐらいわざとらしいな。
「真似しただけだよ」
そこまでか?
「そうだよ」
ウッソだぁ~。
「嘘じゃな~いよっと」
まあいいや。で、アンタ何?こんなただの真っ黒い空間で何の用?
「まずはこの空間についてじゃないの?」
はいはいそうですね。じゃあ教えて下さいな。
「ずいぶんと投げやりだね。まあいいや、教えてあげる」
わーい。
「感情少しは込めたら?」
メンドイからパス。
「あっそ。まあいいか。んで、この空間は君の夢の」
土台だろ。白紙のキャンパスみたいなもん。
「なんだ、知ってたのか。じゃあ何で訊いたのさ」
真っ黒いアンタが訊いてきたから。
「それもそうか」
じゃあ本題。アンタ、誰?
「私なんてなんだっていいでしょ」
話通じねー。
「はいはい、じゃあ『真っ黒い人』で」
・・・
「なにさ」
いや、何のひねりもねーなって。まだポチとかタマとかの方がひねりあると思うんだけど。
「ひど」
じゃあ教えてよ。ホントの名前。
「それはまだ秘密」
めんどい彼女かよ。
「よく言われる」
じゃあ治せよ。
「君の考える通り人間は愚かな生き物だから無理なの」
じゃあ仕方ないか。
「納得はや」
ツッコミなら裏拳?みたいなことしないの?
「漫才師じゃあないし、西の方出身じゃないからしない」
へー。じゃあどこ出身?
「それも秘密。っていうか何しれっと情報抜こうとしてんの」
教えてくれないから。
「ごもっとも」
だから教えて。
「もうちょい前後の脈絡しっかりしてくんない?」
無理。
「無理か~」
うん無理。
「じゃあ無理か」
というワケで帰って。
「早速すぎない!?」
んじゃ。
「っておいマジで!?」
うんマジ。
「マジのマジ?」
マジのマジのマジ。
「ウソでしょ」
噓じゃないよ。
「ガチ?」
ガチ。
「言葉も出ないや」
あっそう。じゃあね。
ここで僕は目が覚めた。あの後、何度か外を覗いたりしたが、終ぞあの人が現れはしなかった。それもそうだ。僕はそういう事をしたんだ。人間が信頼を失うのって、こういう事なんだろうな。僕だったらそうなる。でも、仕方がないだろ、そういう人間だからな、僕は。
そんな事を考えていても、時間が過ぎるだけ。ふと時計を見ると六時を過ぎていた。朝日はもう射し始めている。カーテンの隙間から、青くなり始めている外が垣間見える。
あんな人間を見ると、どうしても都合良く考えてしまう。パジャマを脱ぎながら考える。小指が冷えてあまり感覚が無くて、少しウザくなる。パジャマを能力で放る。ワイシャツを着る。冷えた袖は少し気持ちいい。ああ、あの夢で出会った人が、あの人の手先だったらと思うと、いくらか楽になる。きっと後ろ指を指しに来たんだ。自分の手を汚さずに。ズボンを履く。かじかむ足を叩く。痛みよりも寒さを感じる。咳き込む。痰が少し絡む。風邪かな。良いね、いい気味だ。セーターを着る。あってもなくてもと思うけど、あると暖かく感じる。カーテンを開ける。少し眩しくて目を細める。数回まばたきして、目を慣らす。ピュフーと下手な口笛を吹く。自分でもよく分からないメロディーを奏でる。そのまま洗面所に向かう。歯を磨く、顔を洗う。冷たい水が、自分が間抜けだと実感させる鏡の中の自分。睨むなよ。顔を拭く。少し噛む。歯ぎしりがする。歯が押し込まれた気がする。そんなワケないのに。リビングに行く。こたつに入る。暖かくない、むしろ冷たい。スイッチを入れる。ブーンとヒーターが動き出す。次第に暖かくなる。手と足先が、ほんのりと暖かくなり始める。靴下を履くのを忘れていると気付いた。嫌になって天を仰いだ。すぐに俯いた。そしてまた天を仰いだ。観念してこたつを出た。自室に向かう。タンスから靴下を取り出す。寒い床を歩いたせいでただでさえ足が冷えた。更に靴下のせいで冷えた。またリビングに向かう。またこたつに入る。さっきよりは暖かい。そのままでいたくなる。外に出たくなくなる。
ああ、自分はどうしようもない生き物なんだな。




