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聖女のヘドロ①


赤くて長い髪の毛を

後ろに1つに結び、それを左右に揺らしながら

長い廊下を歩いている

元女騎士、デルハルトの後ろ姿を見つめている。


彼女の姿がだんだんと小さくなり

曲がり角を曲がり

彼女の姿が見えなくなった瞬間

私は筋肉が引きつりそうな笑顔を崩した。


現在、彼はどこにもいないが

どんな時でも気を抜いてはいけない。


しかもデルハルトは

彼のお世話係だ。

この家で、彼女が一番彼と接する時間が長い。


いつ、どこで

彼に私の悪評を流されるか分かったものではない。


彼から拒絶をされた時点で

この世界で生きていくことは至難の業である。


でもまだ、女性であるという事は

マシな方だ。


彼の誕生により数は減ったものの

金持ち貴族は存在する。


そんな貴族の奴隷になる事が

一番主流な生き方だ。


虐げられ、不条理な空間ではあるが

餓死して死ぬよりかは、十分良いだろう。


彼の存在で仕事を失った女性たちは

そちらの道へ進んだものが

非常に多い。


でも私はあんな所へ行くくらいなら

自ら命を絶つ事を選択する。


その理由は


私が少し前まで、貴族の奴隷として生きていたからだ。



◇◇◇


私は元々、

別の国で、自営業を営んでいる両親の元で生まれ

何不自由の無い生活を送っていた。


無口だが、勤勉で心の優しい父親に

無限の愛で私を育ててくれた、母親。


そんな両親のもとで

幸せに暮らしていた。


しかし私にはとある能力があった。


それは他人の能力を少しだけ向上させられる


ってものだ。


元々、大きくなったら

父親の稼業を継ぐか、母のように誰かの家に嫁ぐのだろうと

漠然な想像をしていた私は

この能力を活かした仕事をするのが、良いかもしれないと思った。


そんな時

とあるパーティーが、サポート要員を募集している

張り紙を、ギルドのフリーボード板で見つけた。


私にうってつけだと思い

そのパーティの人に連絡を取り

パーティーメンバーに加入させてもらった。


他人の能力を少し向上させる能力だが

全体で見た限り、私が在籍していたパーティーの戦闘力は

大きく飛躍した。


その成果もあり

ギルドからも、報酬額の高い仕事を

斡旋してもらえるようになった。


しかし、著しい成長が返って目立ってしまい

その影響で、私の人生がどん底になるとは

当時は思ってもいなかった。


私の事を聞きつけてきた

貴族の勇者達が私を勧誘してきた。


報酬の分配も決して悪くはない

条件を提示された。


しかし、当時のパーティーのメンバー達の空気感が心地よく

他の所へ移籍するなんて考えられず

丁重にお断りをした。


しかし、それがいけなかったのだ。


私が誘いを断った事により

彼らの怒りを買ってしまったのだ。


手始めに、ギルドからの

仕事の斡旋が激減した。


たまに依頼は来るものの

報酬が雀の涙の仕事ばかり

となってしまったのだ。


きっと彼らの圧力が

ギルドに掛かったのだろうと

簡単に推測できた。


メンバーの人たちに迷惑をかける訳にはいかず

私はそのパーティーを脱退した。


彼らはそのタイミングを

狙っていたかのように

再度、私を勧誘してきた。


しかし、私は既に

彼らに対して嫌悪感しかなく

とてもではないが、一緒に働くなんて

想像すらできなかった。


そのため、改めて丁重にお断りして

父親の仕事を手伝う事にした。


しかし彼らは父の仕事にまで

圧力をかけてきた。


そのため、瞬きをする速さで

業績が傾いていった。


結局父親は、仕事を畳むことにして

他の仕事をしようとしたが

あいつらは、父が他の仕事が出来ないように

国中の連中に根回しをしていた。


権力を持っている貴族を

敵に回した代償は大きすぎた。


働かなければ食べていくことは出来ない。


私のせいで

両親を路頭に迷わせる訳にはいかない。


そんな私は

彼らのパーティーメンバーに加わった。


そこからは、これまで以上に苦痛の連続だった。


事あるごとに虐げられた。


『お前は後ろの安全な位置で

 俺たちに補強魔法を、掛けるだけなんだから

 お気楽だよなぁ~』


と、嫌味も沢山言われてきた。


次第に自分の心は壊れていった。

そうしなければとてもではないが

耐えられなかった。


今思えば、あれは防衛本能による現象だったのだと思う。


そして同時に、このパーティーの中で生きていく術を

自分なりに学んでいった。


とにかく、常に笑顔でいることを絶やさなかった。

嫌味を言われても、明るい声色で


『もう、やめてくださいよぉ~』


と、冗談に受け止めていますよ

というのが伝わるような返事をした。


そんな感じで私は

上手く生きてきた。


そんなある日、今いるこの国への

お使いを命じられ

パーティーメンバーの1人と一緒に行った。


その道中

その人から襲われた。


ずっと私の事が好きだったらしい。


どんな状況でもニコニコして

こっちの欲しい言葉を

欲しいタイミングで掛けてくれる。


そんな私に惚れたらしい。

お前に好かれたくて、そんな態度を取っていた訳じゃねーよ、と

心の中で思った。


周りに人がいない、2人だけの状況で

自制が聞かなくなった

欲求むき出しの彼は

人に見えなかった。


食べ物に飢えたモンスターにしか

見えなかった。


少しでも自分に対する態度を

変えてもらいたい、居心地を良くしたい一心で

頑張ってきたのに

こんな事になるなんて…。


もう、どうやった所で

絶望へしか繋がっていないのだと

その時に理解した。


その時だった。


あの男が現れたのは。


私が襲われているにもかかわらず


『あの~、お取込み中申し訳ないのですが

 少しよろしいですか?」


と声を掛けてきた。


一瞬何が起こったのか分からなかった。

こんな状況で声を掛けてくる人が、いるはずがないと

思っていたからだ。


私の上に覆いかぶさっていた

人モドキは


『うるせぇ! 消えろ!』


と彼を詰った。


しかし彼は


『突然こんな訳の分からない場所にやってきて

 困っているんですよ…

 お礼と言っては何ですが、

 ここから一番近い街までの道のりを教えてくださったら

 こちらを差し上げます』


と言った。


そう彼が差し出してきたものは

伝説の秘宝と噂されていた

魔石だった。


それを見た人モドキは

大喜びでそれを受け取り、彼に道を教えた。


彼は加えてこう告げた。


『こちらを差し上げる代わりに

 この彼女もいただけないでしょうか?』


あぁ、私は次に

この人に虐げられるのかと思った。


でも私を欲しいだけの為に

伝説の魔石を差し出すなんて、馬鹿なのだろうか?


彼と一緒に

訪れる予定だった街へ向かっている最中に聞いてみた。


『なぜあの魔石を、私を引き取る引き換えに、差し出されたのですか?』


すると彼は


『この世界へ放り込んだ人から、

 これさえあれば最初の内は何とかなる!

 って言われてさ…』


と。


何を言いたいのか全く分からなかった。


でもまぁ、そんな事はどうでも良い。

もう私には抗う道なんて、どこにも存在していないのだから…。


あのパーティーに加入してから

両親と連絡が取れなくなってしまった。

というか、取らせて貰えなくなった。


今では消息は分からない。


どうか、無事でいますように…。


私が望むのはそれだけだ。


このまま上手くやっていけば

彼の懐に入っていき

両親の居場所を突き止めるお願いを

叶えてくれるかもしれない。


その望みを糧に

私は今も生き続けているのだ。



◇◇◇


今思い出しても不思議な出会いだった。


最初はどんな扱いを受けるのかと

ビクビクしていたが

彼は私を、1人の人間として私を扱ってきた。


彼なら少しは信じていいのだろうか?


いや、油断してはダメだ。


気持ちの緩みは

破滅への第一歩だ。


彼を怒らせないように

今の理不尽な扱いを受けていない環境を

手放してなるものか。


この環境を維持するには

彼以外の人にも気を配らなければならない。


どこで恨みを買うか分からない。


なら精一杯の配慮をしていかなくては。


私は朝ごはんの準備をしてくれている

エマニエルの手伝いをするため

食堂へ向かうのだった。


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