プロローグ
その男は突然、この世界にやってきた。
時折、モンスターが街中に発生し
市民たちを混乱に陥らせる事はあるが
冒険者として、モンスターを退治する人々のおかげもあり
争いごとも起こらず、平和に過ごせていた。
各々、自分のスキルに見合った職業で報酬を得て、生きている。
それがこの世界の理であり真理なのだ。
お互いに弱点を補いつつ
持ちつ持たれつの関係を築き、助け合って来たし
これからもこんな生活が、永遠に続くものだと思っていた。
街に現れた、モンスターを駆逐する冒険者
冒険者の傷を癒す薬を作る、調剤師
冒険者の武器の制作や、修繕を行う鍛冶屋
冒険者や、市民たちに食事を提供する、調理師
冒険者に仕事を分配する、ギルドの職員
各々自分の仕事に誇りを持ち
称えあい、毎日楽しく仕事をして
平和に暮らしてきた。
だが、そんな生活は、突然崩壊を迎えた。
多くの人が職を失い
路頭に迷うものが現れた。
仕事がなくなり
その日暮らしを余儀なくされた人
そもそも、その日すら、生きていく事自体
難しい人までいる。
一方で、これまでよりも
自由自適に生活している者がいるのも事実。
なぜこんな事に、なってしまったのだろう。
いつからこんな、格差社会になったのだろう。
その分岐点はおそらく
あの男の出現が、大きく関わっている。
あの男の能力はケタ違いだった。
初心者だと言っておきながら
これまでに見たことのない強力な魔法で
モンスターを駆逐し
無の状態から、意図も簡単に回復薬や食料を生み出し
冒険者を夢見ている少年が
工作で作った剣に、スキルを付与して
どんなモンスターをも、一撃で倒せる武器を生み出した。
そのせいで、多くの人が職を失った。
これまでお互いに助け合って
暮らしてきたこの世界は
他人を蹴落とし合う、醜い世界になってしまった。
これまで見たこともない魔法を
呼吸でもするかの様に、簡単にくり出した彼に対して
周りは驚き、主人公が何者なのか質問した。
しかし彼はこう言った。
「え? 自分の中で一番低能な魔法だったんですけど…」
その言葉は、冒険者や賢者達に対する
侮辱だと思った1人が彼に食って掛かった。
しかしそんな彼には、手も足も出ず、
当然のごとく、敗北してしまい
完全に彼から、敵認定をされてしまった。
そんな彼が今、どこで、どんな生活をしているのかは
私は、知る由もない。
今現在も生きているのかすら、わからない。
私はそんな彼の有様を見て
激動していく世界に、柔軟な対応をしていった。
そのおかげで私は今
食べていくのには困らない生活を送れている。
自ら実験台になってくれた彼には、感謝しかない。
お礼を言えるタイミングがあるのなら
一言だけでもいいから、伝えたい。
さて、こんな事考えていたらこんな時間!
そろそろ彼を、起こさないといけないわね。
私は長い髪を後ろに1つで括り
彼の眠る寝室へと足を向けた。




