お味噌汁の灰汁なき挑戦
これは、以前投稿した『味噌汁の冒険』を、『なろうラジオ大賞3』用に1000文字リメイクし、再投稿したものです。
ジャンルは『ローファンタジー』にしています。
その大声は、誰もがよく見るごく普通の朝食の風景で突如、飛び交います。
「もう嫌だ! こんな狭くるしい世界に閉じ込められるのは!!」
「おおっ!?」
ドライフード型のネギ味噌汁が入ったお椀は、大声に驚き、対面に配膳されているドライフード型の豆腐味噌汁が入った、自分と瓜二つのお椀の方を振り向きます。
「どうしたんだよ!? 急に!?」
「どうしたもこうしたもあるか! 俺はもう嫌なんだよ!! こんな狭い世界で一生を終えるのは!!」
ネギ味噌汁は、辺りをぐるりと見渡します。
「狭い世界って……このちゃぶ台の上のこと?」
「その通りだ! ていうか何でお前、そんなに脳天気なんだよ!?」
「……そう言われても」
ネギ味噌汁の対応に、思わず声を荒らげてしまう豆腐味噌汁。
「それで? 豆腐味噌汁はどうしたいの?」
「もちろん! この狭くるしい世界を脱出する!!」
「どうやって? 俺達は、自分で移動することも出来ないんだぞ?」
「そこだよ!」
豆腐味噌汁は、興奮気味にこのちゃぶ台の上からの脱出計画を語り始めます。
「俺達さ、お椀の中にお湯を注がれる時、誰も触れていないのに、ちゃぶ台の上を滑るように動く時があるだろ?」
「あるな」
「それを利用して、外の世界に脱出するんだよ!!」
「え? それって……」
豆腐味噌汁の脱出計画に、重大な欠陥があることに気づいたネギ味噌汁。豆腐味噌汁にそのことを伝えようとした……その時です。
「見ろ! ネギ味噌汁! 上を!」
「上?」
豆腐味噌汁の促されるまま、上空を見上げるネギ味噌汁。すると、そこには、今にもお椀の中に熱々のお湯を注がんとする、人間の女性の姿がありました。
「あのお湯がお椀の中に注がれた時、俺の完璧な脱出計画が始まるのだ!!」
「あの……豆腐味噌汁、話を聞……」
ネギ味噌汁は、懸命に豆腐味噌汁を止めようとしますが、その思いも虚しく、豆腐味噌汁のお椀にお湯が注がれ、辺りは湯気で見えなくなってしまいます。
「どこだ!? 豆腐味噌汁!? 豆腐味噌汁うぅ!?」
懸命に豆腐味噌汁を探し、叫び続けるネギ味噌汁。そこに、突き破る様な大声が聞こえてきました。
「さあ! 今こそこの狭くるしい世界から羽ばたく時!!」
その言葉とともに、豆腐味噌汁が白い湯気の中から飛び出して行きます。
「豆腐味噌汁!?」
外界へ向かって、ぐんぐん底を滑らせる豆腐味噌汁。
「いざゆかん! 未知なる世界へぇぇ!!」
そして、全てを床にぶちまけました。
「豆腐味噌汁ううぅぅっっ!!」
……おしまい。