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第一話【転生】

第零章 第一話【転生】



「人を助けたとてそれが報われることはない。もちろん、必ずしも報われないとは言わないよ。ただ、報われないことの方が大多数だろう。なぁ、シュウヤ君」


長い髪をした高身長の男が、座る俺に向けてそう声をかけてくる。体は自分の意思で動かすはできない。ただ、そこに存在しているだけで自由意志がないようだ。


「君は自分を犠牲にし、数多くを救った。しかし、君はたったの一度も救われたことなどなかったではないか。君の幸せを奪ったのは常に君が守ってきた者たちだ。元の世界で君の幼馴染は元恋人である君を裏切り浮気をしていた。この世界に来て、君と共に旅をした仲間であり恋人は魔王討伐後に君を召喚した国の王女に拷問にかけられ無残に殺された。君は共に旅をした仲間に殺された。君が彼女を逃がそうとしたときにかくまってくれるものはおらず、すぐに彼女は引き渡された」


なぜそこまで知っているのだろうか。おおよそ人物の予想はつくがなぜここまで言われなければならい? なぜ、ここまで苦しまなければならない?


「そう、君は感謝されるべき人間だった。しかし、魔王という強大な力を倒した力は魔王と同じ強大な力としか認識されなかった。君は危険だと教えられ、誰かのためだと魔王を倒した。だが、君は魔王に何かされたわけではないだろう? それとも魔王は存在すら許されないのかい?」


男は憐れむようにこちらを見ている。ただそれが無性に腹立たしかった。


「君に選択肢を上げよう。彼らが望んだように君は次代の魔王になろうじゃないか。そして、君を追い落とした者たちに同じ絶望を味合わせるんだ!」


「断る」


やっと声が出せた。やっと思いが出せた。ただ、こちらを憐れそうに見下していた存在に対して拒絶を突き付けてやった。それに対して、驚きをあらわにしてよろめく男。


「ははは、愚かな選択ではないかい? 君は僕がどのような存在か理解しているだろう? そして、君に助けを求めた女神はここにはいないんだよ?」


「たとえ、お前が魔神で俺の存在をすぐに消せるとしても俺が従う理由はない」


決めたことなのだ。どうなろうと世界を救おうと、この命を使おうと。幸せが手に入らないということも、絶望しかないことも理解していた。それでも世界を救うという意思を死ぬまで貫き通したんだ。死んだ程度でそのような甘言(かんげん)に惑わされたりはしない。確かにサーシャにはこんな俺に突き合わせてしまって申し訳なく思う。そして、サーシャを汚した姫は許さない。だが、それとこれとは別だ。


「ははは、ここまでとはね。ではこう聞こう、君が殺した魔王にも守るべきものがあったはずだ。それはどう思うのかな? まさか知らなかったとは言わないよね?」


「それは俺が背負うべき罪だ。それで地獄に行こうと俺は償う」


「本当に心まで勇者だねぇ。でもね。死んで償うのは逃げだよ。君はただ逃げているだけだ。だから、僕は君をここに呼んだんだ。償わせるために」


どういうことだ。意図が読めない魔神の言葉に戸惑う。


「魔王ガナーシャの娘アリステラは今窮地に立たされている。君が多くの有力な魔族を殺し、魔王を殺したことによって人間が有利になり人間は魔族を奴隷として取り扱うために狩りを行っている。そう、討伐ですらないんだよ。人以下のものとして扱われている。魔王討伐に協力した獣人族も地位の向上などなく未だに奴隷狩りが横行している。君には彼らの勇者になってもらおう。」


「……どういうことだ」


「こういった方がいいかな? お待ちしておりました。勇者様、あなたの助けを求める者たちをお救いください‥と」


かつて召喚されたときに女神に言われた言葉をそのまま言われて驚く。なぜ魔神がそれを知っているのか。


「簡単だよ。あの性悪が自慢げに話していたからだよ。君は大きな勘違いをしている。僕とあのクソアマは確かに仲が悪いがお互いが殺し合うような存在じゃないんだよ。というか、そんなことはできない」


おかしい。俺が召喚されたとき、魔神が自分や世界を滅ぼすために魔王を先兵にしたと言っていた。どちらかが嘘をついている…。


「神とは管理者でしかない。確かに君らよりもとても強い力は持つが全能じゃない。世界の管理者として上位者から選ばれた存在でしかない僕らが勝手に殺し合い、世界を滅ぼすなんてことはできないんだよ」


「お前の言葉が本当である証拠がどこにある」


「そう、僕の言葉に証拠なんてない。でも、君が初めて聞いたあの女の言葉にも証拠なんてあるのかな? いや、君は君の眼で見ただろう? 迫害される存在を、魔王を、世界を。そして、それを見たうえで君は否定できるかい? あの世界が正常だと」


確かに、あの世界は権力者が強い力をもち弱者を虐げている。確かにそうだ。


「だが、そんなものは俺らの世界にも歴史上いくらでも存在した」


「過去にだろ?」


「表面上は見えなくても今も続いている」


「おや? 君の世界は上位世界だからずいぶん発展していると思ったのだが…」


「人間の性質なんて上位下位だからと変わるものじゃない」


魔神は困ったように首をかしげる。こいつが俺に何をさせたいのかいまだに理解できない。


「まぁ、少なくともね。僕は憂いたわけさ。この汚い世界について、そして許可をもらって君をここに呼んだ。あの性悪クソ女を殺すためにね」


なんだと? 殺せないと言っておいて殺すために俺を呼んだと? 意味が分からない。それに許可…。誰からだ。


「あ~、許可というのはね。上位者からさ。僕らをここの管理者にした存在が、僕の報告で目に余ると判断したんだ。そして、権限をはく奪しようとしたらあの女逃げやがってね。下界に降りたんだよ。本来神の権能は下界で使用すれば影響が大きいからこの神界のみでと制限されている。だが、あの女はそんなことはお構いなしに下界で権能を使っていてね。僕が降りてあの女を殺そうとすれば被害がすごいことになる」


「それで俺に殺せと?」


「神を殺す為に必要な力を渡す。そして、あの女がしている悪行。魔族や獣人族の迫害を何とかしてほしい。君がやらなければ世界毎壊すしかなくなってしまうんだ。だから、人間族限定ではなく世界を、魔族や獣人族の勇者になって欲しいんだよ」


この言葉が本当かどうかわからない。嘘だという可能性も十分にある。ただ、情報が少ない。判断するための情報が…。


「君が疑うのも無理はないだろう。でもね? 洗脳してやってもらうという方法もある中でこうしてお願いしているということを加味してほしいね。君に救ってほしいんだ。騙され、裏切られそれでも勇者であった君にね」


「……。俺は…俺は何をすればいい」


「ありがとう。深謝する。君自体に暴れてもらうわけじゃない。というよりも神を殺す力を安易に使ってもらうと困ることから別の能力を授ける。あとはその力を使い。やつが身を置いているであろう。聖王国バロンを滅ぼしてほしい。ただ、別の場所にいるという可能性もある。そこは調べてもらわないといけないだろう」


「わかった。世界を見てどうするか決める。もし嘘ならお前を殺す」


俺は最大限殺意を込めてにらみつける。


「最後は君にゆだねよう。私が死んでも最悪はあの方がどうとでもしてくれるだろうしね」



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