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勇者のシリーズ

私は路傍の石。今世では目立ちたくないのに、皇太子殿下に求愛されてしまった。

作者: ユミヨシ

マリスティアは前世は普通の人間ではなかった。

女勇者として、仲間達と共に魔王と死闘を繰り広げ、相打ちになり世界の平和を守った前世であったのである。

しかし、今世のマリスティアは平凡な花屋の両親の元で、地味な茶色の髪、黒い瞳。冴えない女の子として育った。


前世は嫌って言う程、魔物との戦いの日々だった。泣くほどの苦労もしたし、怖い想いもした。

恋人もいなかったし、恋をする暇も無かった。

現世でも、別に結婚もしたいとは思えないし、ただただ、平和に今ある日常を感謝し、このまま花屋の娘でずっと両親を手伝って暮らしたいと思っていたのだが。


何でこうなったのよ。


何故か店の前で行き倒れていた老婦人を助けたら、その老婦人は王立学園の学園長の母親だったとかで、王立学園の学園長が是非、母の命の恩人に礼がしたと言われて、それならば、両親は、


「マリスティアには学問がありません。一年でもよいので、王立学園へ通う事を許可願えないでしょうか。」


マリスティアはそう言いだす父親に向かって、


「私は平民よ。王立学園は学費も高いし、貴族しか通えないわ。お父さん。」


学園長はにこやかに、


「奨学生扱いに致しましょう。母の命を救ってくれたマリスティアさんが学びたいと言うのなら、是非、王立学園へ入学を。」


「私、学びたい訳ではっ。」


断りたかった。しかし、学園長と父がノリノリで。


「学問は学べるうちに学ばないと。是非王立学園へ。」


「そうだぞ。マリスティア。お前には少しでも学を身につけて欲しい。」


ええええっ??私、だから目立ちたくないし、学びたいとも思えないのに。


何故か、王立学園へ通う事になってしまった。

平民はこの王立学園へ通う事は出来ない。

マリスティアは特別扱い枠として通える事になったのだが。

平民の花屋の娘なんて、貴族の令嬢達は馬鹿にして。


「お前なんて来るところではないわ。」


「本当に見苦しい。」


取り囲んで悪口を言ってくる。

マリスティアは小さくなって。


「私も嫌だと言ったんですが、学園長がどうしてもって…」


その時、窓が開いて、強い風が窓から吹き込んで、


「きゃぁっーーー。」

「何、この風っーーー。」

「スカートがっ。」


誰かが助けてくれたのね。

マリスティアはにっこり笑って。


「皆さん。授業が始まりますよーー。」


慌てて皆、席に走って戻って行く令嬢達。


誰が助けてくれたんだろう。見渡してみても見当がつかない。


まぁ、ともかく目立たないように過ごさないと。

お昼休みも一人で、教室の隅でこっそりとお弁当を食べる。


母親が心を籠めて作ってくれた野菜と肉を挟んだサンドイッチを食べていると、

キラキラしたオーラを感じて顔を上げれば、学園一モテるらしい(後から知った)

アレクス皇太子がマリスティアの前に座って、


「見かけない顔だな。編入生か?」


「私は平民のマリスティアと申します。どちら様で?」


「俺はこの国の皇太子だ。」


「えええええっ???皇太子殿下が何用で?」


「見かけない令嬢がいたから声をかけたまでだ。」


縦ロールの公爵令嬢レーリア・ユテリウスが、


「皇太子殿下。平民なんぞに貴方様が興味を持つ必要はありませんわ。」


マリスティアも頷いて、


「そ、そうです。私の事は壁の花とか路傍の石扱いでほっておいてくださいっ。」


目立ちたくない。ともかく、平凡に暮らしたい。


アレクス皇太子はマリスティアの顔をじっと見つめ、


「俺はお前を気に入った。」


「お断り致します。」


「何を断るのだ?」


「気に入られる事も。嫌な予感しかしません。」


「何故、目立たないようにしている?」


「えええええっ???どうしてわかるんですか?」


「俺は皇太子。特別な目を持っているのだ。」


「持たないで下さいっーーー。」


「お前からは凄い力を感じる。本当の姿を見せるがいい。」


「それこそ、お断りします。私は壁の花。路傍の石。例えパーティとかに出ても、踊りにも誘われずひっそりと壁に立ち、その辺に転がっている石のように生きている平民でございます。」


「俺は諦めないからな。」



ああああっ…何でこうなったのよっ…


アレクス皇太子は翌日も昼休みは教室に来て、マリスティアの前に座り、


「美味そうなサンドイッチだな。俺にも分けてくれ。」


「平民のわずかな弁当を取らないで下さい。」


「いいじゃないか。一口位。」


「その一口がもったいないんです。」


不敬だろうが何だろうが、しつこくされるのは嫌だった。


何とかして、このアレクス皇太子が自分に付きまとわないようにしなくては。


すると、教室の片隅で自分と同じく、目立たない雰囲気の黒髪で眼鏡をかけている冴えない男性を発見した。


マリスティアは立ち上がって、その男性に近寄って、


「私はこの人と付き合っているんですっ。ですから付きまとわないで下さい。」


「えええっ???」


言われた男性は唖然としている。


アレクス皇太子も唖然としていて、


「初耳だぞ。おい、お前、付き合っているのか?彼女と。」


男性はマリスティアの方を見てから、頷いて。


「付き合っています。彼女と。どうか、皇太子殿下。彼女に付きまとうのはやめて頂けませんか?」


「本当か?ふん。調べればわかる事だ。」


アレクス皇太子はその場を去る。



マリスティアは慌てて謝る。


「ごめんなさい。巻き込んでしまって。」


「困っているようだったから、構わないよ。それに…マリスティア。久しぶりだね。」


「え?知り合いでしたっけ?」


その男性は前髪を長くして目を隠していたが、前髪を上げて見せた顔に懐かしさを感じる。


「もしかして、前世では私の…」


「そうだ。昨日は虐められていたから、助けてあげたよ。」


兄は魔導士で、魔王討伐の旅に同行してくれて、何かある度に助け合ったのである。


「カーディアス兄さんっ。」


カーディアスに抱き着くマリスティア。


懐かしい懐かしい懐かしい…


カーディアスはマリスティアに向かって、


「聖女ミレーヌも転生しているよ。隣のクラスだけど。」


「ミレーヌもっ?」


「同じく目立たないように彼女もしているけどね。」


「もう、兄さん。もっと早く声をかけてよ。」


「ちょっと様子を見ていたんだ。皇太子殿下が付きまとっていたようだったから。俺は今世では地味に目立たないように平凡に生きていきたい。」


「私と考えが一緒なのね。」


「そうだ。お前は勇者、俺は国一番の実力ある魔導士。本当にあの旅は大変だった。

だから、今度は王家に目につけられないように、ね。」


「そうね。あ、ミレーヌに会いたいわ。」


「一緒に会いに行こう。」


隣の教室へ行き、一人でひっそりとお弁当を食べているおさげの地味な女性が教室の一番後ろの席にいて、


二人は近づいて行き、

マリスティアは声をかける。


「ミレーヌ。私よ。」


「え???マリスティア?マリスティアなの。」


ミレーヌは立ち上がり、マリスティアに抱き着く。


「また、貴方に会えるなんて。なんてわたくしは、幸せなのでしょう。」


「私も会いたかったわ。ミレーヌ。」


三人で中庭へ移動し、これからの事を相談する。


マリスティアは、


「皇太子殿下に目につけられてしまって。私が勇者だってバレたら大変だわ。」


カーディアスは頷いて、


「俺とミレーヌだって、魔導士と聖女とバレたらそれこそ…いいか。ばれないようにともかく、目立たないようにしよう。」


ミレーヌも頷いて、


「そうよ。ともかく目立たないように。いいわね?」





翌日から中庭のベンチで、3人でこそこそとお弁当を食べる事にした。


ミレーヌがサンドイッチを食べながら、


「アレクス皇太子殿下、婚約者を探しているって、お姉様が言っていたわ。

今度の夜会で、沢山の令嬢達がアレクス皇太子殿下にアピールするって、お姉様もアピールするって言っていたわよ。」


ミレーヌは今世ではサントロス公爵家の次女だ。

アレクス皇太子は隣国の王立学園へ留学していて、やっと戻って来たのである。

ミレーヌの姉のロリアーゼは、皇太子妃になりたいとそれはもう狙っているのであった。


「わたくしは次女で、まだ婚約者もおりませんわ。まだ婚約者もおりませんですのよ。」


カーディアスの方をじっと見るミレーヌ。

カーディアスは慌てて、


「今世では俺はオルグレッド男爵令息。君とは釣り合わないよ。」


マリスティアはイラっとする。

ミレーヌはずっと兄カーディアスの事が好きだったのだ。

兄の胸倉を掴んで、


「だったら、ミレーヌが他の男に嫁いでいいと?」


ミレーヌもわざとらしくハンカチを出し、涙を流して、


「わたくしは…わたくしは貴方と前世結ばれず、あの世へ旅立ったことだけが心残りで。」


「ごめん。ミレーヌ。」


マリスティアは兄の頭をパコンと叩いて、


「しっかりとミレーヌの事を捕まえておきなさい。馬鹿兄貴。」


「解ってるよ。」


ふと、3人が視線を感じてみれば、アレクス皇太子がこちらをじっと見つめていた。


3人はさりげなく視線を逸らし、こそこそとお昼を食べ続ける。


アレクス皇太子は3人の傍に来て、言い放った。


「マリスティア、それからそこの二人。俺に協力して欲しい。」


マリスティアは慌てて、


「何の協力ですかっ??私はこの人と付き合っているんですっ。」


兄の腕を取り、適当にごまかす。


「俺は特別な目を持っていると言っただろう?お前達3人、凄い力を感じる。

協力しろ。弟皇子が皇太子の位を狙っている。俺は婚約者を決めて、優秀な側近を傍に置き、我が力を示さなければならん。俺を支持してくれる貴族や側近がいるが色々と力不足だ。

だから、マリスティア。俺の婚約者になれ。」


「何故っ。私なんですっ?でも、ミレーヌだと困るわね。」


「調べさせたぞ。ミレーヌ・サントロス公爵令嬢。身分的にはお前の方が妃にふさわしいのかもしれん。だが、俺はマリスティア。お前を気に入っている。」


「おかしいでしょっ??ほとんどお話した事はありませんっ。」


「そうか?やっと思い出したのだ。お前と遠い昔、親しくした覚えはあるとな。」


「遠い昔っ???」


この人、知らないんだけど。前世っ?前世の王族にこの人いなかったし…


アレクス皇太子はマリスティアの耳元で、


「お前の一撃は効いたぞ。マリスティア。」


「もしかして、魔王っ????」



3人とも驚く。


アレクス皇太子は頷いて、


「今世では俺も目立たないように生きたいのだ。」


「十分目立っていますけど。」


「たかが一国の皇太子のどこが目だっているのだ?だが、この目立たない皇太子になるのも、邪魔者が入る。まったく人間とはやっかいな物だな。」


アレクス皇太子は3人に向かって、


「お前ら3人、俺に協力しろ。否とは言わせない。いいな?」


3人は思った。


目立たないように暮らしたかったのにどうしてこうなった。





それからもアレクス皇太子はマリスティアに付きまとったものだから、

公爵令嬢達に思いっきり目をつけられた。


階段から突き落とされそうになる。

しかし、前世では勇者だったマリスティア。突き落そうとした相手の女性を軽やかにかわせば、その女性が転がり落ちていった。


慌てて、先生を呼んで、病院へ運んでもらう。

彼女は伯爵令嬢で、公爵令嬢の誰かに頼まれてやったらしい。


怪我はそれほど、酷くなくてマリスティアは安心した。


教科書や私物に嫌がらせをされそうになっても、兄のカーディアスが防御魔法をかけてくれていたので、被害にあわずにすんだ。


世話をまかされた庭の花壇。枯葉剤をまかれてしまった。庭の花壇にまで防御魔法をかけていなかったが、聖女ミレーヌの力で、土壌を浄化し花を再び咲かせることが出来たので事なきを得た。


その様子をアレクス皇太子は楽し気に見つめ、


「さすがお前達は素晴らしい。マリスティアは俺の妃に、カーディアスとミレーヌは俺の手足になれ。」


上から目線で言って来るアレクス皇太子。


本当に、出来ればお断りしたいし逃げ出したい。


しかし逃げ出す決心もつかず3人はもたもたしていたら、

皇帝や皇妃が出席する王宮の夜会に出席する事になってしまった。


アレクス皇太子と結婚したい令嬢が、着飾って出席する夜会。


アレクス皇太子が着飾ったマリスティアをエスコートし、広間に姿を現せば、どこの令嬢かと皆、騒ぎ出す。


黄金の髪に青い瞳、それはもう、高貴さを纏っていて。ブルーのドレスが良く似合う。


これはマリスティアの本当の姿だ。


その後ろには黒髪の美男カーディアスが黒衣を着て、真っ白なドレスを着たミレーヌをエスコートし、後に続く。


アレクス皇太子は宣言する。


「私はこのマリスティアと婚約をする。」


マリスティアってあの冴えない令嬢のマリスティアか?


皆、驚く。


縦ロールの公爵令嬢レーリア・ユテリウスが、アレクス皇太子に、


「貴方様に平民の女は似合いませんわ。わたくしのような高貴な女性が似合うはずです。」


ミレーヌの今世の姉、ロリアーゼ・サントロス公爵令嬢も、


「そうですわ。平民の女などに皇妃は務まるとは思えませんわ。」


マリスティアは心の中で頷く。


私もそう思うんだけど、ああ、逃げ出したい。

皇太子命令で仕方なく婚約者になったけど…


アレクス皇太子は皆に向かって、


「彼女は古の勇者の生まれ変わりだ。その証拠に。」



ふと、視線を広間の中央に向けて見れば、赤の覆いがかけてあり、

その布を臣下が外せば、銀色に輝く聖剣が岩に刺さっていて。


懐かしい。あれは聖剣。まだ健在だったのね…


でも、あれを抜きたくはないなぁ…あれを抜いたら勇者の生まれ変わりだってばれちゃうし…


マリスティアはにっこり笑って、


「私、あれを抜く事なんて出来ませんわーー。」


「ふん。しらばくれる気か。」


すると、聖なる剣が輝きながら、台座ごと、ズルズルとこちらに動いてくる。

誰も押してもいないのにだ。


「皇太子殿下。魔法を使ってこちらへ移動させているんですか?聖剣っ。」


「いや、俺は何もやってはいないが。」


カーディアスが聖剣を見つめながら、


「マリスティアに抜いて欲しいらしいな。」


ミレーヌも目を見開いて、


「あら、ほんと…勇者様に会えて嬉しいのね。」



マリスティアの目の間に移動してきた聖剣が台座ごと、ドーンとそびえ立つ。


「あああああっーーー。もう、抜いてやるっ。」


聖剣を抜けば、それは広間中に輝いて。


アレクス皇太子を狙っていた公爵令嬢達は顔を歪めて悔し気に、


「勇者様の生まれ変わりなら仕方がないわね。」


「いかに平民でも仕方ありませんわ。」



その時、第二皇子リンドルが叫ぶ。


「皆、騙されるな。からくりに決まっている。勇者?今時、そんなものが存在するはずがない?勇者の生まれ変わり等、余計に信じられない。兄上は頭がおかしくなったのですか?」


だなんて言い出した。


第二皇子を支持する貴族達も、


「偽者を勇者と偽って。」


「何を考えているんだ?」


公爵令嬢達も口々に、


「あの女に騙されているのですわ。アレクス皇太子殿下。」


「目をお覚ましになって。」



マリスティアはカチンと来た。


聖剣を床に突き刺せば、ドーンと音がして床にヒビが入り、貴族達や令嬢達は驚いて腰を抜かす。


聖女ミレーヌが楽しそうに、


「勇者様は手加減して下さったのですわ。手加減しなかったら貴方達は粉々に吹き飛んでいたでしょうね。」


カーディアスも、


「第二皇子様。勇者は存在するのですよ。魔導士も聖女もね。なんだったら力をお見せしましょうか。」


カーディアスの手から炎が噴き出す。


「これで、全てを焼き尽くしてもいいかもしれませんね。」


「ひいいいいいいいいっーーー。」


第二皇子リンドルは悲鳴を上げて、腰を抜かした。


皇帝はアレクス皇太子に向かって、


「勇者や魔導士、聖女を見つけてくるとは、さすがアレクス。お前こそ皇太子にふさわしい。」


「有難うございます。父上。」


皇妃も目を細めて、


「立派に育ちましたね。アレクス。それに引き換え、リンドルは…」


皇帝も皇妃も二人の事を認めてくれたのだけれど、マリスティアは複雑だった。




心が追い付いていないんですが…


相手は元魔王。天敵だった男だし…何でこうなった?



アレクス皇太子はマリスティアをお姫様抱っこをし、


「それでは、ともに愛を深めよう。」


「えええっ?まだ心が追い付いていないっ…私に皇妃など務まるのでしょうか?」


「これからじっくりと皇妃教育を受ければ、お前は勇者だ。なんとかなるだろう。」


「ひえっーーー。」


「もう、逃がさないからな。」


「逃がさないってどういう??」


「前世では戦うしかなかった。だが、俺はお前の事を…」


「魔王にそんな目で見られていたなんて私、知らなかったわ。」


「お前の事を思い出せてよかった。マリスティア。愛している。」



アレクス皇太子がマリスティアと共に退席してしまったので、広間に取り残された腰を抜かしてしまった第二皇子や貴族や公爵令嬢達は、こそこそと逃げるようにその場を後にするのであった。


婚約したばかりだし、清い関係でいましょうと何とかアレクス皇太子を説得したマリスティア。


ともかく、逃げたい。この状況から逃げたい。


王宮の廊下を歩いてるカーディアスとミレーヌをとっ捕まえ、


「私、逃げるから。皇妃なんてまっぴらごめん。ともかく逃げるから。二人は残ってこの国で幸せになってね。」


「おいっ?マリスティア。」


「ちょっとっ。」


驚く二人の返事も聞かずに、二人に手を振ってその場を後にする。


学園の寮へ戻り、ドレスを脱ぎ捨て、軽装に着替え、荷物を背負って、逃げ出そうとした。



寮の入り口で、アレクス皇太子が待ち構えていて。


「どうしても嫌なのか?マリスティア。」


「私、皇妃って柄じゃありませんから。」


「マリスティア。好きだ。好きだ。好きだ。」


ひえっーー。抱き締められちゃったわ。


あれ?手首に何か嵌められた…


「手錠をはめた。人からは見えない手錠だ。俺から10m離れようとしたら、強制的に引き戻される。」


「うわっ…それはないんじゃ…」


「諦めろ。俺からは逃げられないぞ。前世で俺はお前と戦っている時がとても楽しかった…

生きているって実感できた。」


「で、どうして今世は私は皇妃なんですっ?」


「前世は沢山の犠牲を互いに出しただろう?俺の部下も、お前達を背後から支えていた大勢の人間も…だから、戦うしかなかった。今世は違う。俺は人間に生まれた。だから、今世は俺の心を最も占めたお前と妃になって、幸せになりたい。」


「恋っていうより、なんか違うような気がするんですが。」


「俺にとっては恋だ…恋なんだ。」


「仕方がないですね。」


絆されてしまった。あまりにも真剣な顔をしていう物だから。

きっと、アレクス皇太子は魔王だった時、自分と戦う事しか見えなかったのだろう。

マリスティアも同じだ。戦う事しか見えなかった。そのはるか先に魔王がいたのだ。

囚われてしまったのなら仕方がない…


マリスティアはそれからしばらくして、アレクス皇太子と結婚をし、皇太子妃になった。


今世は地味に静かに生きたかったのに…


と言う本人の願いむなしく、今世も波乱の人生を送る事になる。


それでも、後に即位したアレクス皇帝に愛されて、マリスティア皇妃は幸せそうだったと、当時の歴史家は歴史書に綴っている。


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