人違い
一栗放牛に命じてすぐさま一揆を鎮圧させると、前線で鎮圧にあたった中山照守が報告に来た。
「ご苦労であったな」
「それが、一揆を起こした村人を捕えたところ、気になることを言っていたと」
「気になること?」
「村長や庄屋の家に、竹に雀をあしらった家紋の者が出入りしていたと……」
竹に雀の家紋といえば、吉清には馴染みの深い人物がいた。
「伊達政宗か」
真偽を問いただすべく、吉清は家臣から剛の者を連れて伊達屋敷に突撃した。
必死に押しとどめようとする伊達家の小姓を押しのけ、吉清と御宿勘兵衛、中山照守、南条隆信らが押しかけると、奥からキセルをふかした軽装の武士がやってきた。
伊達政宗だ。
「ずいぶんと騒がしいものよ……。
上方では、他家に挨拶に参る時は、物々しい家臣を引き連れ無理やり押し入るのが礼儀なのか?」
「伊達殿、此度の一揆は貴殿の差し金か!」
「一揆?」
政宗は首を傾げた。
「……此度の一揆というのなら、俺は知らん。伯父上の仕業ではないか?」
「とぼけても無駄じゃ。儂の家臣が竹に雀の家紋を見たと言っておる」
吉清の言葉に政宗が眉をひそめた。
「竹に雀の家紋なら、当家以外にも使っている家があろう」
そこまで言われて、吉清も思い至った。
「…………上杉か」
吉清からしてみれば、上杉から恨まれる理由はない。
だが、銀山が見つかったことが理由とするならば、日本有数の銀産出量を誇る上杉に目をつけられても不思議ではなかった。
「左様。さしずめ此度の一揆は上杉の手引きによるものであろう」
政宗の説明に納得しつつ、吉清は家臣たちを退けさせた。
「邪魔したな……。詫びと言ってはなんだが、貴殿に銀札をやろう」
懐に手を伸ばすと、吉清は以前政宗の作った銀札のニセ札を渡した。
「二度と来るな!」
そう言って、政宗はニセ札を破り捨てるのだった。
相手が上杉ともなれば、室町幕府以来の名門の家柄であり、豊臣家の重鎮でもある。石高も91万石、実高に至っては100万石を越える。
上杉家や豊臣家に抗議するも聞き入れられるはずもなく、吉清の訴えは退けられた。
ここで引き下がっては、苛立つ家臣が拳を振り下ろす先を失い暴発しかねない。
そこで、吉清は嫌がらせとして上杉家の銀を積んだ船を倭寇の仕業に見せかけて沈没させ、憤る家臣の溜飲をさげた。
これ以降、木村家と上杉家の関係は悪化するのだった。




