決着
蒲生郷安は家中に騒乱を起こした罪により、秀行から蟄居が言い渡された。
「なぜ私が蟄居せねばならないのだ……。亡き殿に蒲生家の行く末を託され、真面目に政務をこなしてきただけだというのに……」
他の家臣を顧みず、ただただ実直に己の実務を全うした郷安にとって、この命令は到底納得のいくものではなかった。
何かがおかしい。自分の知らないところで、何かが起きていたのだ。
思い当たるフシは一つしかなかった。
「きっと、郷可めが殿に讒言したのだな……」
「まったくその通りかと……」
郷安の言葉に、彼の元を訪れていた客人が同調するように頷いた。
「郷可を打ち果たせば、きっと殿もわかってくれるはず……そうであろう?」
「郷安殿のおっしゃる通りかと……」
郷安の元を訪れていた客人──曽根昌世が静かに頷いた。
そうして郷安は密かに兵を集め、郷可襲撃の計画を進めていた。
決行前日。郷安は屋敷で最終調整を進めていた。秘密裏に集めた兵や武具の数を確認し、当日の配置や計画を詰めいてく。
そこへ、予期せぬ人物が訪れた。
「そこまでにされよ」
「き、木村様……。なぜ……」
愕然とする郷安に、曽根昌世が立ちふさがった。
「儂が呼んだのよ……」
「曽根殿……」
曽根昌世もまた、自分の無実を信じてくれる同志だと思っていた。だが、裏では木村吉清と繋がっていたとは……。
予想外の出来事の連続に絶句していると、木村吉清が歩み出た。
「そのようなことをしては、お家が危うくなるだけじゃ」
「しかし……!」
「このようなこと、亡き氏郷様が望んでいると思うか!」
「…………私が再び蒲生家を支えることをきっと氏郷様も望んでいるはず……」
この期に及んで言い訳を続ける郷安に、吉清が声を荒らげた。
「お主のしでかしたことが、どれだけお家を危うくするのかわかっておるのか!」
吉清の言い分も理解できた。
家臣同士の争いにしては行き過ぎているところもあるかもしれない。
だが、ここで矛を収めても、振り上げた拳を下ろすをどこへ下ろせばいいというのか。
「……………今さら止められるものか!」
「ええい、この期に及んで往生際が悪い!」
吉清が合図を出すと、郷安の屋敷を包囲していた吉清の私兵が姿を現した。
「ここで儂の兵に傷でもつけてみろ。当家と蒲生家の戦になるぞ」
仮に戦となってしまった場合、良好な関係にあり縁戚関係にある木村家との戦は避けたいはずだ。
そうなれば、蒲生家は自分を庇ってくれはしないだろう。
つまり、これ以上の抵抗は無意味であり、最初から木村吉清の手の上だったというわけだ。
そうして、郷安はがっくりとその場に崩れたのだった。
吉清は兵を解散させると、事の顛末を秀行に報告した。
郷可襲撃計画が露見した郷安は、蒲生家小姓に連れられて秀行の元へ連行された。
罪人として連行される郷安に、秀行からの裁定が下った。
「……郷安のこれまでの忠義に免じて、命までは取らぬ。……しかし、これだけのことをしたお主を当家に置いておくわけにもいかぬ。
此度の咎により、お主は義父上の元で預かりとする。今後は義父上の元で大人しくしていてくれ」
「…………ははっ」
今回の件に関して、主犯である郷安に弁解ができるはずもなく、秀行の裁定を受け入れるのだった。
吉清は一連のやりとりを隣の部屋で聞き耳を立てていた。
(立派に処分を下しておるようじゃの……)
秀行の成長を微笑ましく感じていると、足音が近づくのが聞こえてきた。
慌てて吉清は元の位置に戻ると、秀行がやってきた。
吉清の前に座ると、頭を下げた。
「申し訳ありませぬ。……私一人でなんとかすると息巻いておきながら、結局義父上に助けを借りてしまいました」
「気にするな。儂はお主の父から数え切れぬほど世話になった。その恩を返したまでよ」
「義父上……」
吉清の心意気に胸を打たれ、秀行の目に涙が浮かんだ。
こうして、郷安、及び郷安一派は木村家預かりという形で蒲生家を後にした。
吉清からの指示とはいえ、一応計画に参加していた曽根昌世一派も、郷安と共に木村家預かりとなった。
表向きは蒲生家からの追放処分に近かったが、曽根昌世としては当初の目論見通り木村家への転職を果たすのだった。
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