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氏郷の最期

 蒲生氏郷が危篤と聞き、急ぎ吉清は蒲生屋敷にやってきていた。


「蒲生様!」


 見舞いには何度も訪れていたが、今日の氏郷はひどくやつれていた。


 素人目にも、氏郷の余命は長くはないのだとわかる。


「木村殿。最後に一つ、頼みがある……」


 氏郷の気配にただならぬものを感じ、吉清は姿勢を正した。


「なんなりと……」


「私の亡き後は、息子の秀行が継ぐことになるだろう。しかし、まだ齢13歳……。若輩ゆえ、家中をまとめるのも難しいだろう。……筆頭家老の郷安にも託してはあるが、郷安は他の家臣と仲が良くない……」


 氏郷はすっと目を細めた。


 蒲生家、筆頭家老である蒲生郷安は、氏郷の右腕として辣腕を振るっている。ただ、それを快く思わない者がいるのも事実であった。


 氏郷が生きてる間は目立った対立はないが、氏郷の死後、家臣たちの諍いがお家騒動に発展する危険性があった。


「私が死んだ後の蒲生家を、どうか守ってやってはくれないだろうか……?」


 史実を知る身としては、蒲生家の辿る未来を知っている。

 後に起こる蒲生騒動により、蒲生家は大幅な減封となるのだ。


 氏郷は、それを自分に防げと言っているのだろうか。


 正史では葛西大崎一揆の鎮圧を行い、改易された吉清を迎え入れたのも氏郷であった。

 行き場をなくした吉清に客将として5万石の知行を与え、再び大名に返り咲くまで面倒を見てくれたのだ。


 その氏郷の、最後の頼みである。


 吉清の答えは決まっていた。


「蒲生様より受けたご恩は、山より高く、海より深うございます。

 不肖、木村樺太守吉清、この命に代えましてもお守り致します……!」


 吉清は深く、深く頭を下げた。


 大名として立身する前から、氏郷には数えきれないほど世話になった。


 今こそ、その恩を返すときなのだと思った。


 蒲生騒動を起こさず、蒲生家を会津に置いたままでは、歴史は大きく変わってしまうだろう。


 しかし、既に葛西大崎一揆を未然に防ぎ、樺太、高山国、ルソンを領有しているのだ。これ以上どう変わろうと、今さらである。


 葛西大崎一揆を防いだように、蒲生騒動を防いでみせる。


 吉清の中で、静かな闘志が湧き上がった。


 その様子を見て、氏郷は安堵した様子で微笑んだ。


 それから数日後。文禄4年(1595年)3月、蒲生氏郷はこの世を去った。


 享年39歳。豊臣家中のみならず、多くの者が氏郷の死を悼む中、氏郷の死は蒲生家に暗い影を落とすのだった。

ここからしばらく蒲生騒動編です

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― 新着の感想 ―
[一言] 今気づいたけどなんで歴史の教科書に載る事件の首謀者を深く知らなくて蒲生騒動は知ってるんですかねぇ
2021/12/09 10:06 退会済み
管理
[良い点] 吉清は俗人ではあるが、むしろそういう人間臭さがあるゆえに蒲生の頼みを聞き入れたのかなと。吉清の俗っぽさは本人の気質だけでなく、現代人の感覚が抜けきってないのも大きそう。若い頃から世話になっ…
[一言] 正史ではそうだったけど、この歴史ではその恩受けてないしなぁ、減封になったときに同じように迎え入れて働かせて上げれば良いんでないの?
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