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関白1

 聚楽第での執務を終え、自分の屋敷に戻ろうとすると、廊下の先から豊臣秀次が歩いてきた。


 吉清は道を譲りつつ頭を下げる。


 その後ろに、伊達政宗、細川忠興、最上義光が控えていた。


 秀次が吉清の前で止まると、


「お主が木村吉清殿だな?」


 吉清の背中に冷や汗が流れた。


 家臣に声をかけているのがバレたのか。いや、まだ勧誘はしていないはず。

 それとも、秀次の最期を知り、距離を取っていたのが不自然だったか。


 逡巡する吉清に、秀次が微笑んだ。


「高山国やルソン、明での武功は聞き及んでいる。今度、機会を設けるゆえ、いろいろと話を聞かせてくれ」


「…………」


 答えに窮する吉清の肩を叩き、秀次は去っていった。


 秀次の背中を見送ると、その後ろに控えていた政宗が立ち止まった。


「太閤殿下に臣従するのは遅れたが、此度は遅れをとらん。関白殿下とお近づきになり、伊達家をさらに栄えさせてみせる。

 南の島で安穏としていたお主と違い、俺は時代の流れが読めるのでな」


 勝ち誇った様子の政宗に、最上義光が足を止めた。


「伊達殿、置いていくぞ」


 最上義光にたしなめられ、政宗が去っていく。


 吉清が義光に頭を下げた。


「最上殿、かたじけない。助かりましたぞ」


 礼を言われたというのに、義光は「ふん」と不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「……奥州では津軽や松前に恩を売りデカい顔をしとるようだが、儂には通じんぞ」


 それだけ言い残し去っていく義光の背中を見送り、吉清はポツリとつぶやいた。


「儂、何かしたかのぅ……」


 吉清の言葉に、側に控えていた小姓、浅香庄次郎が複雑そうな顔をした。


「最上様の正室は改易された大崎義隆の妹君……。大崎家とは親戚にあたります。改易された大崎の領地に殿が入るのが、我慢ならないのでしょう……」


「そうは言っても仕方あるまい。大崎殿が改易されたのは儂のせいではないし、かの地を治めることとなったのは、殿下がそうお命じになっただけのこと。 

 それで儂を恨むなど、筋違いであろう。恨むのなら、小田原に参陣しなかった大崎義隆か殿下を恨めばよいものを……」


「それができぬからこそ、殿を逆恨みしているのでしょう」


「面倒なことになったのぅ……」


 政宗とは反乱の黒幕を巡り散々敵対してきたので、敵対するのも理解できる。


 吉清としても、今さら仲良くしようなどとは思わない。


 だが、最上義光に関しては吉清にまったく落ち度もなく、敵対する理由など何もない。


 むしろ、最上領は米どころで知られ領内の治安も良く、よい隣人になれると思っていただけに、冷水をかけられた気分だった。


 と、ふとそこで天啓が舞い降りた。


 そういえば、最上家は秀次事件で悲劇に見舞われるのだったな。これを防げれば、最上義光に恩が売れるかもしれない。


 吉清がニヤけていると、庄次郎が尋ねた。


「殿、どうされましたか?」


「いや、なに……一ついいことを思いついたのよ……」


 最上義光に恩を着せるべく、吉清は策を練るのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 史実を知らないとそこまで感謝しないような 無理矢理側室にされた直後に連座で処刑されるとは思わんし
[良い点] 秀次や政宗、義光との関係が自然 [気になる点]  史実では秀次が自害した後、関係のある者は妻子も多く殺されたので、これを全て救うのか、ただ徳川家康のポジションを奪うだけなのかが気になります…
[良い点] どうも吉清さんのいい考えは斜め上に変な所に飛んで行きそうでワクワクしますw
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