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玄界灘の戦い

 布陣した毛利・小早川水軍の船は、木村水軍に側面を晒した状態で配置されていた。


 ガレオン船は側面に大筒を置いているため、それを知っての配置なのだろう。


(一筋縄ではいかなさそうだ……)


 梶原景宗は気を引き締めるのだった。




 毛利・小早川水軍の船は、安宅船が500隻。ガレオン船が40隻の構成だった。


 対する木村家の船は、300隻近くあった。そのうち、5万の兵や物資を積んだ200隻を除く、100隻が海上で戦うことのできる戦力だった。


 亀井茲矩の船10隻を加算しても、110隻あまり。


 単純な船の数を比べても、5倍近くの差がある。


 兵や物資を満載した船を後方に下がらせると、木村水軍も展開を始めた。


「輸送船を潰されては、多くの兵が犠牲となる。すぐに後ろに退かせろ!」


 輸送船を沖合に退かせ、木村水軍は横一列に船を並ばせ、船体側面を毛利水軍に向けた。




 遠目から木村水軍を視認した毛利水軍の大将、村上武吉は木村水軍の布陣をじっと眺めた。


「誘っているな……」


 相手は鶴翼の陣を取り、こちらに砲門を向けるために側面を晒している。


 しかし、側面を晒すということは、船首は相手と違う方向を向かせていることでもあり、布陣を動かそうとしたときに船首を回さなくてはならないのだ。


 側面から相手の攻撃を受ける分には強いが、攻めには転じにくい。


 そんな布陣だ。


 村上武吉が声を張り上げる。


「すべての将に伝えろ。まずは相手の間合いを図って様子を見ろってな」


 開戦初日は互いの間合いを図るように砲撃や射撃が行なわれた。






 翌日。木村水軍の射程や動きを把握した毛利水軍が攻撃を開始した。


 毛利水軍から距離を取ろうとする木村水軍に対して、あとを追う毛利水軍。


 船尾にかすかに見える毛利水軍を眺め、梶原景宗は舌打ちした。


「連中はこっちのケツを掘りたいみてぇだな」


「どうしますかい、お頭」


「……そんなに近づきたいってんなら、近づかせてやれ」


 梶原景宗の命で水軍を散開させると、互い違いに側面を晒す。


 再び毛利水軍を迎え撃つ形で布陣すると、毛利水軍も散開を始めた。


 木村水軍を囲いこむように広がり、全方位からじわりじわりと近づいてくる。


 どうやら数にものを言わせて包囲することにしたらしい。


「そっちがそのつもりなら、こっちにも考えがあるぜ」


 景宗がすべての船に指示を出すと、包囲を抜けるべく隊列が整えられた。


 そして、包囲の薄い場所を見つけると、そこ目掛けて船が突撃を始めるのだった。




 木村水軍が包囲を抜けたとの報告を受けると、村上武吉はさもありなんといった様子で頷いた。


 木村水軍に優れた将がいることはわかっている。


 こちらの手薄なところを見つけるのも、造作もないのだろう。


 村上武吉が声を張り上げた。


「野郎ども、今日の戦いは(しま)いだ!」


 そうして、その日の戦闘が終わると、毛利水軍は互いを見失わないよう、旗艦である村上武吉の元に集合を始めるのだった。






 日が沈み、夕焼け模様の空から藍色が差し始める。


 それを待っていたかのように、木村水軍の船が動き出した。


 物見の者からの報告を受け、村上武吉も目を凝らした。


 暗くなり、味方の船さえ認識できなくなるというのに、夜に動き出すというのか。


 村上武吉が驚愕に顔を歪める中、木村水軍は隊列を保ったまま闇の中に消えていった。


「なぜだ……なぜ木村水軍は夜だというのに、こんなに統率の取れた行動ができるのだ……」




 海面に浮きとなる木材を浮かせ、くくりつけた綱を海に流していく。


 綱には規則正しく結び目が作られており、手の中を通った結び目の数で、どれだけ綱が流れたかわかるようになっている。


 家臣の一人が懐中時計を片手に船速を測り、海図の上にどれだけ移動したのか記していく。


 微かな明かりを頼りに敵水軍の位置を捕捉すると、藤堂高虎が笑った。


「どうやら、連中は船を揃えることばかり夢中になり、南蛮の航海術を習得していなかったようですな」


 吉清が頷く。


 家康が秀頼と千姫の婚姻を進める中、吉清は南蛮貿易で西洋の本を買い漁った。


 とりわけ、吉清が求めたのは航海術に関するものだった。


 時には西洋から航海術に秀でた人材を引き抜き、家臣たちに叩き込んだのだ。




 早朝になり、空が明るくなり始めると、木村水軍の船が隊列を組んで毛利・小早川水軍を取り囲むように船を進めていることに気がついた。


 さながら魚を追い詰めるイルカの群れのように、毛利・小早川水軍の周囲をぐるりと周遊する。


 対する毛利・小早川水軍は統制こそ取れているものの隊列を整えるのに時間がかかっており、木村水軍を迎え撃つ準備は整っていない。


 時折響く轟音が空気を切り裂き、水柱が立ち上がる。


「落ち着け! 奴らの大筒だって、こっちの大筒と射程は変わらねぇんだ! 奴らの玉が届くってことは、こっちの玉も届くってことだ!」


 水夫たちの混乱を抑えるように、村上武吉が呼びかける。


 そんな中、海流に乗って小舟のようなものが流れてきた。


「まさか……」


 最悪の予想が頭をよぎる。


 櫂で船を小突くと、小舟の中で燃えていた藁が音を立てて崩れた。


「その船をこっちに近づけるな!」


 安宅船が盾となり、櫂で船を押しのける。


 ……が、海流に乗ってきた小舟の進路を僅かにずらしたにすぎず、燃え盛る小舟は別の味方の船に流されるのだった。


 自分の船が燃えなかったことに安堵するのもつかの間、海面に無数の小舟が漂っていることに気がつくと、急ぎ報告を挙げるのだった。


 同乗していた小早川の家臣が村上武吉に詰め寄った。


「このままでは、我ら小早川水軍は壊滅してしまいます! 今すぐに毛利水軍の大筒で破壊してくだされ! あれなら、こちらに到着する前に小舟を沈められる」


「ダメだ……。こうも揺れる海で大筒を撃っちゃあ、味方の船に当たりかねん」


「そんな……」


 密集しているのが仇となった。


 船を動かそうにも味方の船が邪魔となり、思うように動かせない。


 また、その場から逃げようにも、毛利水軍を包囲するように周遊する木村水軍の大筒が向けられている以上、すぐに奴らの射程に入ってしまうことが容易に想像できた。


「くそっ!」


 威嚇するように大筒を撃つも、射程が同じ以上、相手も大筒で応戦してくる。


 味方の船が煌々と燃え上がる様を見せつけられ、村上武吉の中で焦りと恐怖がくすぶった。


「こんな……こんなところで……」


 火計によって毛利・小早川水軍の船は大きく数を減らされ、逃げようとする船も木村水軍の大筒で沈められていった。


 そうして、毛利・小早川水軍に壊滅的な打撃を与えると、木村水軍は勝鬨を挙げるのだった。

 おまけ


 海に放り出された毛利や小早川の者を助けるべく、配下の倭寇たちが小舟に乗って一人ずつ引き上げていく。


 毛利水夫「うう……助かった……」


 小早川水夫「ありがとな……おかげで助かったぜ……」


 倭寇1「謝礼不要! 我人命救助(奴隷狩り)遂行中!」


 倭寇2「本業終了! 副業開始!」


 倭寇3「一攫千金! 我大金持確定演出!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 我、休日皆無…金持確定演出不発…泣。
[気になる点] > 毛利・小早川水軍の船は、安宅船が500隻。ガレオン船が40隻の構成だった。 物語の流れに影響するところではありませんが、さすがに船の数が多すぎます。短期間でそれだけ建造するだけの…
[気になる点] 号数ならともかく、毛利の安宅船が多すぎやしないですかねえ(汗 [一言] 今回は仕掛けた側ですが、焼討船の類はむしろ木村水軍の方がやられたくない戦術だなあ 重鈍な大型帆船で狭い瀬戸内海で…
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