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大船制限令 前編

 台中奉行である藤堂高虎には、一つ気がかりなことがあった。


 自身が築城した台中城の天守から町を見下ろし、町ゆく町人たちに目をくれる。


「台中がこれだけ発展したとなると、すでに商人連中に紛れて他家の者が間者を送ってきてるやもしれぬ。……多羅尾殿、貴殿の忍びを用い、間者を排除することはできるか?」


 秀次事件により亡命してきた甲賀の忍び、多羅尾光俊が首を左右に振った。


「それはできませぬ」


「なぜじゃ」


「殿からは何もするなと命じられました。間者はそのまま泳がせておけば良いと……」


「なに!?」


 吉清の命令に、藤堂高虎は耳を疑った。


「これでは他家の間者が入り放題ではないか……」






 大坂に置いた家臣や、石巻を去った家臣たちを前に、吉清が愚痴をこぼした。


「商人たちに当家の力や豊かさを広めてもらおうと考えたが、そこまで広まっておらぬな」


 小幡信貞が頷く。


「はっ、そのために領内に潜り込んだ他家の間者を泳がせておいたというのに……」


 造船所や銀行といった木村家の最重要施設に関しては万全の警備をしているものの、町中には至るところに間者の影が見え隠れする。


 木村家の力を喧伝してもらうべく野放しにしているのだが、こうも広まらないのでは話が変わってくる。


「あるいは、間者が知り得た情報ゆえ、各々で秘匿しておるのやもしれませんな」


 荒川政光の言うことももっともだった。


 そもそも、自身で内密に探った情報を他の家に漏らす者も少ないだろう。


「ううむ、ままならぬものじゃ……」


 吉清がため息をつくと、突如ふすまが開けられた。


 やってきたのは浅香庄次郎だった。


 息を切らした様子で吉清に膝をつく。


「殿! 大変にございます!」


 吉清や家臣たちの視線が浅香庄次郎に集まる。


「どうした」


「五大老の命により、大型船の保持が制限される法令が定められたとのこと!」


「なんじゃと!?」


 慶長6年(1601年)10月。のちに、大船制限令と呼ばれる法令が諸大名に布告された。


 浅香庄次郎から渡された書状を読むと、吉清の顔が真っ青になった。


「こうしてはおれぬ……」


 吉清は事の次第を聞くべく前田利長と宇喜多秀家の元を訪れた。


 案の定、利長は申し訳なさそうな顔をした。


「すまぬ。儂らでは、家康を止めることができなんだ……」


「利長殿……」


「それにしても、家康め……。とうとう木村殿を潰す素振りを隠さなくなったな」


 憎々しげにつぶやくと、宇喜多秀家が遠く大坂城を見つめるのだった。






 大船制限令。


 大名の石高一万石あたり、500石以上の船1隻の所持が認められるというもので、それより多くの船を所持する際には五大老の許可証、すなわち朱印状が必要というものだった。


 利長の話によれば、五大老の合議で決めるのだが、家康が実権を握っている今、木村家に朱印状を出すのは絶望的とのことだった。


「石巻を失い、当家の石高は70万石あまり……これでは、半分以上の船を解体せねばなりますまい……」


 計算をしていた荒川政光の声がか細くなる。


 それを聞いた瞬間、吉清はあることを思いついた。


「……それじゃ!」


「は……?」


「今すぐ高山国に使いを出せ」


「はっ、いかほど船を解体させましょう」


 吉清が首を振った。


「逆じゃ。今からありったけ船を造りまくるのよ」


「なっ……」


「なんと……」


 小幡信貞と荒川政光の顔が驚愕に歪む。


 吉清の計画を聞き、荒川政光はすぐさま手配を始めるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 大老2国&豊家に貸し付けるのか 秋田からも買い取れるな
[一言] 舟の大きさの制限はない。 一隻の定義なんてどうにでもできるからね。 あとは現代風に船籍は各大名家にしたうえでの運営権を握る方法とか。 現代人ならではの考え方に。
[一言] 株式会社化して株券売れば名目の所有船数減らせるかな
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