襲撃後
翌日の早朝。うっすらと朝日が昇る中、吉清は細川忠興の軍に連れられていた。
一晩中京の町を駆け回った吉清は、疲労困憊の末、三成を襲撃したものの中にいた細川忠興に降伏したのだ。
それから自ら身元を明かし、誤解は解けたのだが。
「まったく……さっさと自分が木村吉清であると言えば良かったものを……」
「言ったわ! 兵たちが聞く耳を持たなかったんじゃ!」
残った力を振り絞り、弁明と非難をするのだった。
落ち着くと、細川忠興からことのてん末を聞かされた。
石田三成は屋敷を脱出すると、宇喜多秀家や佐竹義宣の協力を得て家康の元に匿ってもらったのだという。
「まったく……なぜ徳川様は三成なんぞを庇うのだ。拒んでくれれば話は早かったものを……」
「仮にも、徳川様は大老じゃ。豊臣家臣同士の諍いを鎮める必要があるのだろう。……たとえ、自分が争うよう煽ったのだとしてもな……」
細川忠興はギョッとした。
なぜそのことを知っている。そんな目で吉清を見つめる。
知っているもなにも、それ以外に考えられないというのに。
その後、騒動の責任をとって三成は佐和山へ蟄居となった。
伏見を発つ日、三成は吉継、小西行長を連れて木村屋敷を訪れた。
「な、なんじゃ。がん首揃えて……」
馬と着物なら既に返した。
直接顔を合わせるのは怖かったため、一応、小姓を介して逃げたことは謝ったはずだ。
誠意が足りないことは自覚しているが、まさか、まだ怒っているというのか。
吉清が身構えたその時、
「すまなかった」
「この通りじゃ」
三成と行長が深々と頭を下げた。
「こ、これは……?」
説明を求めるように大谷吉継に視線を向けると、すべてわかっているといった様子の吉継が目配せした。
「思うところはあるかもしれぬが、許してやってくれ。悪気があったわけではないのだ」
「あの時、木村殿が囮となってくれたおかげで、我らは無事にやり過ごせたのだ。それを……」
「囮? 儂が?」
吉清が首を傾げると、大谷吉継が笑みを見せた。
「わかっておる。木村殿が時間を稼ぐべくあの場で囮となったことも、自ら憎まれ役を演じたことも、すべてな。……今さらしらばっくれずともよい」
……こちらは何一つわかっていないのだが。
そう言い出せるはずもなく、吉清は空気を読むことにした。
「……………………許す。儂は、過去は振り返らぬ男じゃ」
転生前の歴史知識を頼りに生きてきた男、木村吉清は、堂々とそう言ってのけるのだった。




