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伏見騒動

 吉清が大坂の前田屋敷に入った一方、清久は伏見の徳川屋敷にやってきていた。


 吉清からの命令で徳川方につき、あわよくば首尾の報告をしろと言われていたのだが。


(…………居心地が悪い)


 前田贔屓で知られた吉清の嫡男が徳川方についたとあって、多くの者は木村からの間者と見ているようだった。


 家康の元に挨拶に行くも、


「木村殿があちらへ着いたのは残念じゃが、こうして清久殿がこちらについて下さり嬉しい限りじゃ」


 言葉こそ穏やかだったが、家康の目は笑っていなかった。


(やはり、敵だと思われているのか……)


 徳川屋敷では、門や塀の改築や、櫓の建設、堀を、柵まで設置し始めていおり、戦仕度をしているように見えた。


 そんな中にあって、清久の姿を見ると声をひそめる者や、陰口を叩く者が跡を絶たなかった。


 そんな状況で居場所があるはずもなく、庭先で所在なさげに佇む清久に、知っている顔が近づいてきた。


「…………木村の嫡男が、こんなところへ何しに参った」


「義父上!」


「義父上と呼ぶでない!」


 目立たぬよう小声で怒鳴る義光に、清久は初めて顔を綻ばせたのだった。






 一方、大坂の前田屋敷でも戦仕度が進められていた。


 前田と徳川、どちらが多くの大名から支持を得ているか。どちらの動員力が上なのか、競うように屋敷の要塞化が進められた。


 集まった大名こそ前田の方が多かったが、あまりの数に前田利家自身も持て余し気味であった。


 また、同じく大老である毛利輝元や上杉景勝、宇喜多秀家とも話を通し、合議をしなくてはならない分、徳川に比べ意思決定が遅れていた。


 徳川方が戦仕度をしていると聞き、前田屋敷でも戦仕度を進めているものの、連携が取れなかったり、大名たちの士気に温度差があるせいか、まとまりを欠いている。


 割り当てられた堀を掘る傍ら、真田昌幸は辺りを見渡した。


「……………………」


 豊臣の行く末を憂いている者も少なくないが、単純に人が多いので流されて集まった者。徳川憎しで前田の元に集う者も多く見受けられた。


 問題は、集まった大名たちを前田がまとめきれていないことだった。


 反徳川を大義名分に掲げている以上、徳川と同じように強権をもって束ねることはできない。


 大老という権威を使おうにも、他の大老たちが居る手前、大きく出られない。


 利益で釣ろうにも、行き過ぎれば徳川と変わらなくなってしまう上、長期的には使えない方法だ。


 今は前田利家の人望でまとまってはいるものの、利家の死後、それが瓦解することは目に見えていた。


 嫡男の利長では経験不足で、海千山千の家康相手ではいささか頼りない。


 ましてや、利長が家康と張り合えるほど成熟するまで、家康は悠長に待ってはくれないだろう。


 前田は反徳川を掲げるがゆえに、徳川と同じく専横や強権に手が出せず、自縄自縛に陥っている。


 このままでは前田に先がないな、と真田昌幸は思うのだった。






 密かに大老や奉行衆を招集すると、前田利家は状況の確認をした。


「……家康は何と申しておる」


「島左近が暗殺をしようとしたの一点張りで、聞く耳を持ちませんな」


「三成をはじめ、奉行衆が謝罪しなくては話にならぬと……」


 奉行衆からの報告を聞き、利家が神妙な顔をした。


「家康め……」


 ここで謝罪してしまっては、家康をつけあがらせるだけだ。


 わかってはいたが、利家の中では潮時だと思っていた。


 集まった大老や奉行たちを見渡し、利家が呟いた。


「頃合いか……」


「ど、どういうことにございますか?」


「家康と和睦を結ぶぞ」


「なっ……」


 大老たちが、奉行たちが、信じられない様子で利家を見つめた。


「家康とて、これしきのことで天下を取れるとは思うておるまい。此度の騒動は、前田と徳川のどちらが多くの大名を味方につけられるか、力比べをしておったのよ。

 そしてこの勝負、徳川に反感を持つ大名の多くを集めた、我らの勝ちぞ」


 突如勝ちを宣言する利家に、納得のいっていない奉行たちがざわめいた。


 多くの大名を味方につけたのなら、この勢いに乗って家康を倒せばいい。


 そうしないのは、できないのは、どういうことなのか。


 そんな中、利家の青白い顔を見た三成が、何かに気がついた。


「…………まさか」


「うむ。近頃は身体の具合が悪くてな……。このまま時を浪費していては、儂の寿命の方が先に来てしまおう。……そうなってからでは遅いのだ」


「……承知しました」


 三成をはじめ、奉行衆が家康に忍びを送ったことを謝罪すると、家康も矛を収め、両家の臨戦態勢が解かれた。


 大名の数こそ前田が優ったものの、統率や結束力においては徳川が優った。


 また、大名同士の婚姻もなし崩し的な形で認められることとなり、伏見騒動は事実上家康の勝利で幕を閉じたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] えー、誰も主人公の動向に気を配らないの!! 陸戦型の大名がほとんどだから仕方ないとしても、艦砲射撃の出来る艦隊持ってる木村家ってかなり強力な軍事力なのに。 それこそ木村家が付いた方が勝つくら…
[一言] 問題の根本は、秀吉が御掟の5ヶ条の第一条で「諸大名は上様(秀吉や秀頼)の許可無く結婚してはならない。」と定めてしまった点なんですわな。 秀吉が死んで秀頼が一応の上様になったけど、幼児の秀頼に…
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 言ってみれば連合と独裁の差ですかね。 前田側は船頭多くして…の状態になってしまった。
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