換金
広州を占拠した前田利長は頭を抱えていた。
野戦ではことごとく明軍を討ち果たし、占領も行軍もすべて順調に進んでいた。
だが、略奪品があまりに多かった。
金銀財宝に陶磁器や芸術品。書物や専門技能を持った奴隷たち。
流石にそれらの略奪品を抱えたまま軍を進めるわけにいかず、かといって適当に捨て置くのも惜しいところだ。
どうしたものかと思案に暮れていると、前田利長の元に木村家からの使いの者がやって来た。
事情を話すと、使いの者が待ってましたとばかりに口を開いた。
「それなら、当家の作った銀札を使うとよろしいでしょう」
「銀札?」
北は樺太から、南はルソンまで領地を抱える木村家では、あまりに領地が離れているため、決済に使う銀の支払いが滞ることが頻発していた。
そこで、銀と互換性のある紙幣──銀札を発行することで現物は後払いにしつつその場で決済できるようにした。
そうして、事実上の銀本位制の紙幣を発行すると、取引が促進されたのだった。
銀札の概要についてはある程度知っていたが、まさか戦場でも使えるというのか。
驚く前田利長に、使いの者はさらに続ける。
「一度略奪したものを銀札に替えれば、前田様の手間も減りましょう。
また、京に戻った際に銀と交換すれば、領地まで運ぶ手間も無くなる上、略奪した品を換金する手間も減ります。
略奪したものをそのまま欲しい際は、一声かけて頂ければこちらでご用意します」
「なるほど……」
いちいち理に適っているあたり、吉清が考えそうなことだ。
一代で90万石まで登り詰めた実力者なだけに、こういうところは如才ない。
乱雑に積まれた略奪品を指し、利長が声を張り上げた。
「では、これらの品を銀札に替えてくれ」
「はっ!」
銀札の流通量が増えたことを知り、吉清は内心ほくそ笑んでいた。
「しめしめ、うまくいっておるようじゃの……」
略奪品を銀札に替え、京に戻ったところで銀札を銀に替える。
明と京、二度に渡り両替をすることで、発生した手数料を懐に収めていた。
一度の両替で一割の手数料を取り、二度の両替で二割もの手数料をせしめることができる。
これだけで、相当な額の収入が見込めるだろう。
「あ奴らがせっせと略奪するほど儂は儲かる……」
さらに、略奪品の輸送費や保管費なども考えると、木村家が挙げる利益は膨大なものとなる。
「ふひひ、たまらんの〜」
大量の財宝に囲まれ悦に浸る吉清。
この時のために銀札を発行する銀行を台中に移設したのだから、今回の計画は吉清にとっても大仕事であった。
景宗船の造船、そして銀札の発行。
そのどちらも木村家の軸となる産業であり、それらをすべて高山国で行えるようになった意義は大きい。
(これで家康とやりあえればよいのだがの……)
とはいえ、すべてが吉清の計画通りにいくわけでもない。
予想外のことはいつ起こるかわからないもので、だからこそ万全の備えが必要となる。
その日、大坂より急を知らせる文が届けられたのだった。
ゴールドラッシュで一番儲けたのは、採掘者ではなくシャベルやつるはしを売った者、ということですね。




