遠征会議
明使節団の接待を加筆修正しました。
良ければそちらも読んでいただけると幸いです
明との和睦交渉が決裂すると、再び諸大名に明征伐の号令がかけられた。
今回は先の戦で占領した朝鮮半島南部を守りつつ、来たる明侵攻の際の橋頭堡として朝鮮支配を固めるのが主な計画となる。
その計画を練るべく、奉行衆で会議が行われていた。
「此度は小早川秀秋殿を総大将として軍を編成することとなった」
三成がそう告げると、奉行たちが頷いた。
小早川秀秋は小早川隆景の養子であり、秀吉の甥にあたる。
毛利の分家でありながら、事実上豊臣家に乗っ取られた形となり、今回の遠征で総大将に任命されたのも、秀秋に武功を取らせることが狙いのように見えた。
「では、小早川秀秋殿の下につく大将を決めなくてはいけませぬな」
「その前に、高山国から明へ遠征する軍を決めなくてはなるまい」
吉清は目を丸くした。
「こ、高山国からも明へ遠征するのですか……!?」
高山国から明本土までは海を挟んでかなりの距離があり、遠征するにはあまりに遠い。
また、朝鮮とは違い明の援軍が無尽蔵に押し寄せるのだとすれば、制圧は限りなく困難に思えた。
兵站にも問題がある。数万に及ぶ大兵力を維持するだけの兵糧を確保するのだとしたら、膨大な距離の輸送と管理を行わなくてはならない。
そうでなくとも、物資を揚げ降ろしするための港を拠点として構え、そこの防衛をしつつ明を征服するのだとしたら、神がかり的な采配と時の運が必要となるだろう。
あまりに無謀な計画だ。
愕然とする吉清に、三成が続けた。
「木村殿が先の遠征で莫大な戦果を挙げたのを見て、他の大名から不満が噴出したのだ。
朝鮮遠征では損失が大きいにもかかわらず、高山国へ渡った木村殿は労せず利を貪っているとな。
また、先の遠征で多くの大名たちが疲弊している。占領は無理にしても、先の赤字を補填できるだけの略奪をせねば、奴らの気も収まらぬだろう」
「…………わかり申した。それがしが案内役を務め、高山国遠征軍に加わりましょう」
吉清が頭を下げると、三成がほっとした様子で頷いた。
「高山国遠征軍の総大将には宇喜多秀家殿が就くこととなった。あとで宇喜多殿も交えて軍議をしよう」
そうして、小早川秀秋、宇喜多秀家も交え、両軍の編成を決める会議が行われた。
「台南に領地を持つ亀井茲矩殿、奉行として経験を積んでいる木村重茲殿は高山国遠征軍に加えて貰いたい」
吉清の要望も織り交ぜつつ、文禄の役での活躍を鑑みて編成が進んでいく。
そんな中、三成がちらりと吉清を一瞥した。
「此度の朝鮮遠征は、戦いよりも支配に重きが置かれている。……そのため、高山国、ルソンを征服した実績のある木村殿の力が必要となるだろう」
今の木村家は、表向きは90万石の大大名である。島津を凌ぐ石高を九州より南方に持つため、ある程度は余裕があると見られているのだろう。
(簡単に言ってくれおって……こちらも占領したミンダナオ島や海南島を開拓をせねばならぬのじゃぞ……)
とはいえ、秀次事件で助命をしてもらう際「明征伐の際は是非先鋒を!」などと秀吉に申し出てしまった手前、消極的な態度は見せられない。
「…………では、清久を朝鮮につけ、儂の重臣を与力としてつけよう」
梶原景宗に水軍を任せ制海権を握れば兵站を確保できる。
また、藤堂高虎をつければ、城や港の建設から統治までこなしてくれるはずである。
高山国遠征軍についた吉清の麾下となる将兵はかなり減るが、今回は兵站などの後方支援が主となる戦だ。
過去に奥州再仕置軍の采配をした秀次の旧臣──若江衆が居れば、なんとかなると考えたのだ。
吉清が快く了承すると、三成が礼を言った。
「助かる」
そうして、木村家は親子で別の遠征軍につけられるのだった。




