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慶長伏見地震

 文禄5年(1596年)9月5日。


 その日、遅くまで側室の歌と励んでいた吉清は、突如強い揺れに襲われた。


「おお、今日は一段と激しく動くの〜」


「そのようなことを言ってる場合ではありません! 地震です!」


「なに!?」


 すぐさま大声で他の者を叩き起こすと、木村家一同は庭に出た。


「全員無事か」


 確認を取ると、全員揃った様子だ。


 ひとまず安堵したところで、吉清は自分が生まれたままの姿だということに気がついた。


 陰嚢を撫でる夜風が妙に気持ちいい。


 服を取りに屋敷の中へ戻ろうにも、屋敷は一部が崩れてしまっており、中へ入るのは勇気がいる。


(仕方ない。誰かから服を借りるか)


 吉清は小姓の一人から服をはぎ取ると、秀吉の元へ急ぐのだった。






 倒壊した伏見城の前で、秀吉が周りの者に支えられて姿を現した。


「殿下! ご無事にございますか!」


「お、おお、吉清か」


 着の身着のままで出てきたらしい秀吉は、生まれたままの姿に軽く肌着を羽織っているだけだった。


(殿下も今晩しっぽりしていたのか……)


 吉清が感慨深く思っていると、既に参上していたらしい三成が現場で指揮を取っていた。


「瓦礫の撤去と、ケガ人の救護を急げ!」


 三成の迅速な指揮の元の、ケガ人のたちが救出されると、野戦病院さながらに表の通りに並べられた。


 それを見て、すぐさま吉清が申し出た。


「石田殿、郊外にそれがしの私兵100人を駐屯させておりますゆえ、そちらを人足としてお使いください」


「助かる。それと、木村殿には糧食の手配と街道の復旧を頼む」


「はっ!」


 浅香庄次郎に命じて人足の確保をさせると、吉清は街道の復旧に取り掛かった。


 さらに、真田信尹に命じて伏見港の復旧をさせつつ、小舟を用いて積み荷の陸揚げを行わせた。


 手間と時間はかかるが、これなら港がなくても陸揚げできるようになると考えたのだ。


 このままでは、京という一大消費地が早々に物不足に陥ることは目に見えている。


 今は一刻も早く物流を復活させなくてはならず、吉清は手段を問わず街道や港の復旧を急いでいた。


 また、倒壊した蔵に置いてあった財宝は、この機にすべて吐き出すことにした。


(この状況じゃ……盗まれたとて文句は言えぬし、盗られるくらいなら使い切ってしまおう)


 そうして商人に命じて必要な物資の補給に急いでいた。


 材木を扱う商家を見つけると、吉清は店主を呼んだ。


「ここに置いてある木材、すべて売ってはもらえぬか」


「はい。こちらの木材、一本200貫となります」


「待て、それは高すぎるぞ。一本70貫にまけろ」


「私どもも商いで身を立てておりますゆえ、それはなんとも……。

 此度の地震で大変な被害を被ってしまい、生きるか死ぬかの瀬戸際なのでございます」


 商人の言い分は一理ある。だが、こちらも遊びで来ているわけではないのだ。


 吉清が刀をちらつかせながら語気を強めた。


「そうか。では、こちらも非常事態じゃ。豊臣家の命として木材を接収するが、構わぬな?」


「い、いえ、それは困ります……!」


 そう言うと、商人はすぐさま勘定を始めた。


「一本70貫ですと、木材全部でだいたいこれくらいかと……」


「うむ。ではこれで支払おう」


 吉清は懐に手を伸ばすと、小粒金を10個ほど渡した。


「釣りはいらぬ」


「い、いえ、こんなにいりませぬ。お返しします」


「取っておけ。お主らも此度の地震で損をしたのだろう? これくらいなくては、やってられぬであろう」


「お武家様……」


 商人が感銘を受けた様子で声を震わせた。


「……それに、地震のせいで治安も悪くなっておる。盗人に盗られるくらいなら、さっさと使ってしまうに限るわい」


 吉清の言葉を聞いて、商人は慌てて下人たちに命じた。


「この方の荷物を運んで差し上げろ! 駄賃は弾むぞ!」


 商人が銭を配ると、下人たちは目の色を変えて木材を担いだ。


 その様子を眺め、吉清は礼を言った。


「ご厚意、かたじけない」


「いえ、またのご贔屓を」


 そうして商家を出ると、吉清は伏見城へ急ぐのだった。






 のちに、伏見を震源とする直下型の大地震は慶長伏見地震と呼ばれ、当時の政庁であった京の都に壊滅的な被害をもたらした。


 地震による死者数は1000人にも登ると言われ、完成間近の伏見城もこの地震で倒壊し、多くの者が圧死することとなった。


 甚大な被害を被った京の復旧を急ぎつつ、被害の少ない大坂城へ政庁が移されるのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] そろそろ落ち目ですな…Ҩ(´-ω-`) ボケるまで後少し…。
[良い点] 更新お疲れ様です。 [一言] 「釣りは要らん、取っておけ」 言ってみたいなぁと思いましたが、そう言えばタクシーに乗ったときに言ってました。数十〜数百円ですけど。 年に一回も乗らないので誤差…
[一言] 吉清、色々上手くやるなあ
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