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海賊

 津軽家から送られてきた人質である津軽信枚は、ルソンにて政務の手伝いをしながら、実地で木村家の統治を学んでいた。


 ふと、はるか水平線から、何かが向かってきているのが見えた。


「なんだ、あれは……」


 距離が近づくにつれ、その正体がわかった。


 どれも木村家の商船だ。


 帆は破け、船体はボロボロになっている。

 どれも損傷が酷いように見えた。


 だが、その向こう。木村家の船団を追うように、正体不明の船が迫っていた。


 すぐさま報告するべく、津軽信枚は奉行の元へ急ぐのだった。






 ルソンからの報告に、吉清が目を剥いた。


「何!? ルソンの日本人町が襲撃されたじゃと!?」


 文禄の役でルソンのイスパニア勢力を一掃したのち、木村家はルソンを間接支配しつつ、東南アジア各地に日本人町の建設と支配を進めてきた。


 そうして、日本人町から上がる上納金(みかじめ料)と引き換えに安全を保証してきたが、その木村家に真っ向から敵対するとは。


「相手はわかっておるのか!?」


「それが、どうやら南方の異民族らの仕業にございます」


 吉清は歯噛みした。


 これまでは、人的資源や兵の少なさ、水軍の脆弱さから、周辺諸国とは穏健に済ませてきた。


 だが、向こうがその気というのなら、こちらも手段は選ばないというものだ。


 こうして、木村家では討伐軍を編成しつつ、秀吉から南蛮征服の許可を貰いに行った。


 長束正家、浅野長政ら他の奉行に根回しをし、秀吉に謁見する。


 状況を説明し、吉清が頭を下げた。


「南蛮を征服したいじゃと?」


「はっ、かの地に根を張る蛮族らが日ノ本の海を脅かす限り、明征伐は困難となりましょう……。

 海の果てまで太閤殿下の威光を知らしめる役目、どうかそれがしに……」


「よかろう」


 秀吉が頷くと、吉清は頭を伏した。


「ははっ、必ずや殿下のご期待に応えてみせましょうぞ」






 吉清の背中を見送ると、秀吉の脇に控えていた三成が口を開いた。


「……殿下、いささか木村殿に便宜を図りすぎではないかと……」


 秀次事件では木村吉清の謹慎をあっさりと解いたばかりか、最上の娘の助命嘆願まで聞き入れたという。


 その上さらに、南の島の征服まで許すとは……。


 ここまで甘い顔を見せては、他の大名への示しがつかないのではないか。

 三成は暗にそう言っていた。


「吉清の言っていることは、筋が通っていよう。今は明と講和を進めているが、機が熟せば再び戦となろう。そのための露払いよ。

 ……それとも、最上の娘との婚姻を認めたことを言ってるのか?」


 秀次事件以降、大名同士の婚姻は厳しく取り締まられるようになった。


 もちろん、木村家も例外ではないのだが、この決まりが制定される直前に祝儀を挙げたとして、不問となったのだ。


「あやつが鷹狩りのことを教えてくれたおかげで、秀次に腹を切らせられた。これくらい、安いものよ」


「……………………」


 吉清と秀次は親しい関係にあった。


 秀次の切腹を見届けたのち、涙を流していたと報告を受けている。


 だが、これを知ったら秀吉はどう思うだろうか。


 三成は複雑な顔で、吉清に思いを馳せるのだった。






 屋敷に戻ると、吉清はすぐさま南蛮征伐軍の編成にとりかかった。


 軍団長として、船奉行で木村水軍の要である梶原景宗。

 家老で建築や築城のエキスパートである大道寺直英。

 ルソン奉行で同地のことに詳しい垪和康忠。

 康忠の補佐としてルソンで寺社を取り仕切る松倉重政。

 旧北条家臣で統率や武勇に優れた御宿勘兵衛を任命した。


 そして、征伐軍の大将には、養子にして間もない木村宗明を命じた。


「えっ、それがしが大将ですか!?」


 吉清からの命令を聞き、宗明が困惑した。


「無茶です! それがしは戦の経験も浅く、ましてや軍の采配など……」


「心配するな。お主のために助っ人を用意した」


 吉清が合図を出すと、眼光の鋭い、壮年の武将が現れた。


「お呼びにございますかな……」


 ただならぬ覇気に、宗明が気圧された。


「そ、曽根昌世殿……」


「おお、昌世。お主には宗明の補佐を任せたい」


「おまかせあれ……」


 曽根昌世が頭を下げると、宗明は顔を引きつらせるのだった。


 梶原景宗、大道寺直英、垪和康忠、松倉重政、御宿勘兵衛、それぞれに兵1000を。

 大将である宗明には兵1500を預け、総勢6500の軍を用意すると、南蛮征伐軍は高山国を出発した。

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― 新着の感想 ―
[一言] 宗明が一皮剥けてムキバナナになって帰って来てくれればサイコーなんねwww 行くぜ!カリマンタン!! なんか発音がいやらしいけどwwww スラウェシから入るのも有りかな? ワンチャンパプワ君…
[一言] 余裕を残した上での遠征軍として数は言うまでもないけれどそれを運ぶ船などの水軍まで自前ということでこの時期の木村家のすごさが伺い知れる。
[一言] 知ったら吉清、また泣くかなあ
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